迷宮レベル12 冒険者パーティ『クライシス』
あけましておめでとうございます今年もよろしくお願いします
それを略して、あけおめことよろ
更に略して、あめころ
あ
『ガザス王国』。この国は『バーム大陸』に列強として名を連ねる大国の一つだ。この王国は他の列強国と比べ、非常に迷宮が多い。
この国では迷宮によって経済が回っている都市も少なくない。
その中の一つ、迷宮都市『エディシス』。この都市は、数ある迷宮都市の中でも、低ランク迷宮を中心としている。
そんな『エディシス』の経済を支えている組織は二つある。
一つは『冒険者ギルド』。『冒険者ギルド』とは、その名の通り冒険者達が所属する組織のことだ。
このギルドへの加入方法は国によって異なるがガザス王国では、冒険者養成所を卒業し、資格を保有することが条件となっている。
この冒険者ギルドに加入せずに迷宮に潜った場合には、非常に重い刑罰に処され、最悪死刑となる。
もちろん無許可で迷宮に潜ったとしても、ある程度の実力があればバレることなど殆どない。
しかしそれでも迷宮に無許可で潜る者はそういない。
命を懸けて魔石を入手したところで、誰一人魔石を買い取ってくれる者がいないからだ。
これは魔石から魔力を抽出する技術が一般には決して漏洩しないよう、国が徹底して管理しているからだ。
魔石から魔力を抽出する魔具――魔力によって機能する物体――を『エキストラクト』と呼ぶ。
それぞれの国によって、この『エキストラクト』の魔力抽出率が違っており、この抽出率が高ければ高いほど軍事力などに差が出ることになる。
それ故に国はより高い抽出率の『エキストラクト
』の開発、改良に力をいれており、なにより他国に自国の技術を盗まれないよう細心の注意を払っているのだ。
それらの事情から、魔石を買い取れるのは国のみであり、無許可での迷宮探索はリスクが高いだけでメリットが特にないという最悪の条件となっている。
極稀に無許可で迷宮に潜り魔石を入手し、冒険者に売り付けるものもいるのだが、そもそもそれだけの実力があればまず養成所の卒業は容易いだろう。
にも関わらずそれを行う者は、資格を剥奪された者や指名手配犯などの、あまり関わらない方がいい人種だ。
二つ目は『商業ギルド』。
商業ギルドは基本的に商人達が加入するギルドで、冒険者ギルドの様に、加入時にこれといった資格は必要としない。
その代わり、必要なのが自身の腕と資金だ。これが無ければ話にならない。
このギルドに入った場合、売り上げの一部をギルドに献上する必要があるが、その代わり経営上必要な手続きのほとんどを引き受けてくれる。また他の商人達とのいがみ合いなども起きないようにギルドが調整してくれる上強力な後ろ楯が付くのだ。
そのため商人からすれば、最早このギルドは必要不可欠なものとなっている。
商人といえど町に店を構える者が全てではない。
寧ろ町を往復し品物を売り歩く商人の方が多い。しかし、そこで問題となってくるのが盗賊だ。
必然的に金や、金になる品物を持ち歩かなければならない商人は盗賊に狙われる可能性が非常に高い。
そこで出来たの組織が『傭兵ギルド』だ。『傭兵ギルド』は主に商人の護衛や盗賊の討伐などの仕事を中心に扱っている。
『冒険者ギルド』との違いだが、まず『傭兵ギルド』に加入するためには特殊な資格は必要ない。
基本的に犯罪者で無ければ誰でも入れるギルドとなる。
まだギルド自体出来て間もないため、人手不足で体制があまり整っていないのだ。これは仕方ないだろう。
また迷宮に入ることも許されておらず世間的な地位はそこまで高くない。冒険者になり損ねた、或いは対人戦に特化した者が入るギルドといったところだろう。
迷宮都市『エディシス』内部、その南に位置する
大通りに『冒険者ギルド』がある。
そして今その冒険者ギルドはある話題で盛り上がっていた。
「おい、聞いたか? 新しく迷宮が見つかったってこと」
「はっ、あたりめえよ。それもEランク迷宮だって云うじゃねえか」
「本当か? それは初耳だぜ」
「お、面白そうな話してんじゃねえか俺も混ぜてくれよ」
「おうよ。そのかわり酒を一杯奢れよ?」
「セコい野郎だな。親父、ビール追加だ!」
冒険者ギルド内部にある酒場で冒険者達が話しているのは先日見つかった迷宮についてだ。
カウンターに座って話していた二人の男に別の男が話しかける。酒場で知りもしない者に声をかけ情報を聞かせてもらうのは日常茶飯事だ。
「どうにもよ、最近ここらであばれ回ってた盗賊を傭兵のやつらが追跡中にたまたま迷宮を見つけたらしいぜ」
「あの盗賊団か。名前は……なんつったっけ?」
「確か鬼の爪とかだった気がするな」
「ああ、それだ。思い出した。それで、その迷宮はどこら辺にあるんだ?」
男は手元にある酒をぐいっと飲み干すと、一呼吸おいて話し出す。
「『迷いの森』南にある『森の洞穴』に行くまでの道のりにあるらしいな。追ってた盗賊の足跡がそこで途切れてたってことから中に入って盗賊団の痕跡がないか確認する依頼が傭兵の方から入ってるらしいぞ」
『森の洞穴』とは、『迷いの森』内部にあるEランク迷宮の愛称だ。
基本的に迷宮に公式な名前が付くのはCランクからなのだが、非公式的に愛称をつけることは、周辺に住む冒険者達にはよくあることだ。
「ほぉ、依頼料は高いのか?」
冒険者ギルドには、一般市民から貴族まで、身分に関わらず冒険者達に報酬を出す代わりに、様々な依頼を出すことが出来る。基本的に依頼内容は犯罪行為でなければ自由だ。
しかしこれは冒険者側にも云えることで、どの依頼を受けるか、そもそも受ける受けないは本人の自由だ。
ギルドに依頼を出す場合当然ながら料金が発生する。安すぎれば誰も引き受けず、高すぎれば元がとれない。受けられる冒険者のランクを依頼主側が設定することも可能だが、その分依頼料は割高となるのだが。
「まあまあだな。だがまだ未知の迷宮だ。そこを踏まえると安いかもな」
「じゃあまだ残ってんのか? その依頼」
「いや、『クライシス』が受けたらしいぞ。ギルドからも頼まれたらしい」
冒険者パーティー『クライシス』。パーティーのランクはDと高く、ギルドからの信頼も厚い。
先程依頼を受けるかどうから本人の自由と云ったが例外もいくつかある。その一つがギルドからの直々に頼まれた場合だ。
もちろん、ギルドから頼まれたからといって断ることは可能だが、受けた場合後々にギルドからオイシイ仕事を貰える可能性が高くなる。
そのためギルドからの要請には基本的にほとんどの冒険者が応える。いや、そもギルドが要請を出す冒険者は元々ギルドからの信頼が厚いか期待されているとほぼ同義なので、これはむしろ喜んでいい。
そしてギルドは未発見の迷宮だからこそ、信頼のある彼らに託したのだろう。
「なるほどなぁ。そう言えばお前らこのあと暇か? 暇なら組んでFランクのどっか行かねぇか?」
「悪くないな。ただ、酒飲んだばっかでいけるのか?」
「あたぼうよ。酒には強いンでな」
「そうか……。俺は構わんが、お前は行くか?」
「そうだな、まあ行ってもいいぞ」
「決まりだな。親父、ビールもう一杯!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
薄暗い迷宮の中、四人組の冒険者がそれぞれ手に光る水晶――光結晶――を持ちながら歩いていた。
「なかなか広いタイプの迷宮ですね。恐らく深層まで行くのに、そこそこ時間がかかりそうだ」
その内の、金髪碧眼で、非常に整った可愛らしい顔と小柄な身長が特徴的な一人が、自分達が今探索している迷宮について考察をする。
彼の名はアデル。Dランクパーティー『クライシス』のメンバーの一人だ。
その容姿故によく女と間違われるが、本人は特段思うところは無いらしい。
「まあ別に核を目指してる訳じゃねーし、いいんじゃねーの?」
軽い口調でそれに応答するのがバルドゥル。蒼い髪が特徴的な美少年だ。
アデルが右腰にバスターソードを下げてるのとは相対的に、左腰に長剣を下げている
「如何にも。拙者達の任務は盗賊団の痕跡の確認。生きていれば殺し、死んでいれば証拠となる物を持ち帰ることだ」
何やら固いもの云いをする男の名前はイガルデ。他の二人とはあまりにも対照的な見た目だ。
二メートルに届きそうなその身長と筋肉は、彼が僧侶の姿をしているのとは非常にミスマッチしている。
「分かってますよ。でも少しくらい夢見たっていいじゃないですか」
「思ったんだが……もしかしたらゴードンとジェイクはここで死んだのかもな」
落ち着いた雰囲気を醸し出し、この中で最も歳を取っていると思われる男性、彼の名はハデルバート。このパーティーのリーダーだ。
平均的な見た目と体つきは、このパーティーのリーダーとしてやっていけるのか疑問に思うがそれは違う。
彼の肉体は必要最低限にまで絞りこまれており、背中に掛けてある大剣からは歴戦のものと分かるほど使い込まれたあとがある。
このパーティーは全てが前衛として戦闘に参加可能であり、アデルとイガルデに関しては後衛も務めることができる。
バランス的には良くないが、火力で押すタイプで、ハマれば相当に強いパーティーだろう。
「あ、ホブゴブリンです」
アデルが云った直後、通路の角から二体のホブゴブリンが現れる。
二匹とも既にに臨戦態勢だ。
「迷宮に入ってから始めてのそーぐーだな」
「ほう、ホブゴブリンか。待ちくたびれたぞ」
対する四人はあまりにも緊張感のない態度。まるで魔物ではなく猫や犬を見るような目でホブゴブリンを眺めている。
普通、この緊張感のなさは冒険者にとっては致命的な隙だ。本来ならばリーダーとしての立場を持つものが一喝して然るべきもの。
しかし、リーダーであるハデルバートは一切動じていない。
いや、それよりもまるでこれが正しいかのようにただ一点を見つめて、一声――
「イガルデ……やれ」
――指示を出す。
「フ、フハハハハハハ! 隊長よ、感謝する!」
ハデルバートの指示を聞いた瞬間、イガルデの態度が豹変する。
大声でハデルバートに感謝の意を伝えたイガルデは、武器も持たずにホブゴブリン二匹に向かい勢いよく突進。
対するホブゴブリン達はその行動に身構え、カウンターを狙い爪を立てる。
ホブゴブリンが狙いを定めたその直後、突如――――二匹の視界からイガルデが、一瞬にして消え失せる。
「グ!? ギィ――――」
そして――困惑する一匹のホブゴブリンが、バキバキと、音をたてて大量の血と共に後方に吹き飛ぶ。
イガルデは、正確には消えたのではない。
あまりにも早すぎた故、二匹の動体視力では捉えきれなったのだ。
そして、ホブゴブリンの内一匹をその巨大な腕で吹き飛ばすと、残るもう一匹に向かって再度拳を振るう。
「シャアああああああああああああ」
「ギィィイイイ――――」
僅か一瞬だった。たった一人の男により、初心者冒険者が手こずるほどの魔物が、僅か一瞬にしてミンチと化した。
「相変わらずき汚たねーなー。見苦しいぞー。もう少し普通にできないのか?」
「ハッハッハ。いやはや、興奮してしまうと拙者、どうしても抑えが効かなくてな。すまんすまん」
「……あ、あれ。もしかして盗賊の死体じゃないですか?」
アデルは雑談する二人を置いて、ホブゴブリン達が出てきた通路を進むと、そう声を上げた。
アデルの視界に入ったのは、無数の骨と血に汚れた薄汚い衣服の数々だ。
防具の類がそこに一切ないことから察するに、恐らく冒険者の遺品ではないだろう。
「……うむ。恐らく、それであってるだろう。……取り敢えず、落ちている品を全部持ち帰る。それなら依頼主も納得するはずだ」
「分かりました」
「おーけー」
「了解した」
四人がかりで人骨に衣服、ナイフ等の武器などを拾ってバッグにしまっていくこの光景は、何も知らない者が見れば相当怪しく映るだろう。
また、彼らがこの遺骨、遺品を盗賊団のものと断定したのは、その保存状態からだ。
迷宮内は極めて吸収率が高い。理由は解明されていないが、迷宮内で死ねば一日で骨と装備品だけに、三日も経てば完全にその証拠はなくなる。
そのため迷宮に死体を処理しようとする輩もおり、最近問題となってきているのだが、それは別の話。
「……もう拾い残しはないな?」
「えーと、多分だいじょう――」
「んー? どうしたアデル?」
アデルの視線が、ある一点に向けて固定されている。それにつられて他の三人もアデルの視線の先を見詰める。そして気が付いた。
「うおっ、嘘だろ? ありゃ、財宝じゃねーか」
バルドゥルの呟きはこの場にいる全員の心中を表していた。まさに、信じられない。という風に皆一様にして自らの目を疑っている。
財宝とはその名の通り財宝のことだ。無造作に積み重なった宝石などの貴重品は、見るものの目を掴んで離さない。
そも何故迷宮に財宝があるのかは不明で、その宝石なども通常のものと全く変わりはない。
そのため取れた宝石は高値で売れ、冒険者達にとっては、正に当たりだ。
財宝は通常、Dランク以上の迷宮からでしか出ない。
今のところEランク迷宮で財宝を見つけたという報告はない。
それ故、彼らは驚いていたのだが、その驚きの感情は次第に薄れ、歓喜に変わる。
「おおお! まさかEランク迷宮にも財宝があるとは! これは前代未聞ですぞ!」
「……これは、凄いな。もしかしたら、Dランク迷宮の財宝よりも質が高いんじゃないか?」
「どういう仕組みなんでしょう? いや、迷宮そのものの仕組みが解明されてない以上、分かるわけがないか……」
「ひゅー、こいつは受けて正解だったな。全部入るか?」
それぞれ思い思いの言葉を口にする。
リーダーのハデルバートは落ち着いた口調で命令を下す。
「……入らなければ要らなそうな骨や衣服は棄てても構わん。とにかく、財宝優先だ」
後日、このパーティーが持ち帰った財宝についての噂は広まり、この迷宮は『宝物庫』と名付けられ、一躍有名となった。




