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混沌なる迷宮の王  作者: しいなみずき
Eランク迷宮
12/44

迷宮レベル11 盗賊

一人称です

 くそっ! ついてねぇ!

そう叫びてぇが……今はダメだ。やつらに見つかっちまう。

 全く、今日ほど気分が最悪な日もねぇ。まさかもう傭兵のやつらが来やがるとは。


 盗賊の集団の一員に落ちてから三ヶ月。その短い期間でオレはここら一帯のボスに成り上がった。

 邪魔者は殺し、村を襲って女を拐い食料を強奪し、商人の馬車からは金目のものを。

 そうやって奪えるもんならなんでも奪った。その勢いは自分でも感動しちまったほどだ。

 だがやり過ぎた。前のボスよりも羽振りをよくして部下どもに不満を抱かせまいとしたツケが回ってきやがった。


 つい数時間前のことだ。オレ達盗賊団『鬼の爪』はいつもの様に商人を襲った。だが荷馬車の中身は傭兵団。それも手練れの連中だ。完全に罠に引っ掛かった。所詮マトモな職につけなかった者の集まり。対人のプロに敵うはずもなく、四十人以上いたオレの部下どもは半数が殺され、或いはちりじりに逃げていった。

 そいつらが殺られている間に、オレと残りの十八人はなんとか森に逃げ込むが、完全には逃げ切れてはいない。

 身体能力では勝ち目はないことは自分でもよく分かってる。今も必死で、隠れるように森を移動しているが叫べばすぐにみつかっちまう。


「はぁ……はぁ……。お頭、俺達は、どうすれば……!」


 見つかったときの事を想像してか、全身汗まみれの部下がオレに向かって話してきやがる。

アホが、ちっとは空気を読めといいてえが。ここで言い争っても仕方ねえ。


「安心しろ。ここさえ乗り切れば場所を変えてやり直せる」


 まだ希望があることを教え部下を落ち着かせる。実際その通りだ。こいつらから逃げ切れれば有り金をもっておさらばよ。もちろん一人で、だがな。


「う、うそだ! も、もういやだ! こんな生活もうまっぴらなんだよ……! 俺は全うに生きたいんだよおぉおおぉおお! う、うぁああぁああああ」 


「なっ、てめえ!」


 クソが! ああ、あり得ねえ。ここまできて部下の一人がイカれやがるなんて。

 これまでなまじ上手くいってただけに極度の緊張に耐性がなかったのか、本当に盗賊に嫌気が指してたのかは知らんが……ちくしょう! このクズが!


「いたぞ! こっちだ!」


 やや遠くの方から声が聞こえる。それなりに距離は稼いでいたようだが、このままぼけっとしてればすぐに皆殺しだろう。


「クソッ! てめぇら、とっとと逃げるぞ!」


 発狂している部下は耳を切り落とし放っておく。これで叫ぶだけの人形の完成だ。皮肉にもいいオトリになる。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






 あれから一時間ほどするが、まだオレ達はやつらを完全に撒ききれていない。人数も十二人に減った。

 本当についてねえ。間違いなく人生最悪の日だ。

そして更に運が悪いことにもうすぐ夜になる。恐らく、やつらはそれでも追跡をやめることはないだろう。

 だがオレ達はロクに食料もない状況だ。体力がなくなる上に暗闇は危険も増え速度も落ちる。

 ちくしょう……どうすればいい。


「お頭……あれを!」


 下の一人が声を抑えて指を指し、オレにそこを見るよう促す。


「あれは……!」


 あぶねえ。危うく叫んじまうところだった。

部下の指を指す場所をみてみると、そこには洞窟があった。入り口から先はまるで炭鉱の坑道のように奥まで続いており、先が全く見えない。

 まさか洞窟を見つけるとは。一か八か……ここに隠れてみようか。だがまっすぐいってそこで行き止まりならオレ達に勝ち目はねえ。死ぬのは確定だ。

 だがもしもこの洞窟が複雑な構造をしていたならば、例えやつらが入ってこようが奇襲も可能になる。

 いや、一か八か、なんて言ってる場合じゃねえ。どのみちこのまま逃げ続けた所でやつらの追跡をかわすのは無理だろう。

 だが確認しとかねぇといけないことがある。


「おい……てめぇら。ここは迷宮じゃねぇだろうな?」


 これだ。

 もし間違って迷宮に入ったら相当不味い。敵が一気に増えるからな。たまったものじゃない。


「い、いえ、確かここに迷宮はなかったはずです」


 残った部下の中でも比較的若い男が答える。こいつには森に入ったときから地図を持たせている。

 『迷いの森』に入るんだ。急いでいようがそれぐらいしておかなければ出るのも難しくなる。


「よし、それなら構わねえ。取り敢えずあの洞窟の中で休憩だ。いくぞ」







◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇







「ここらでいいだろう。おいお前ら、飯の用意だ」


 オレ達が今休憩をとっているのはさっき見つけた洞窟内の広場だ。洞窟の中は非常に要り組んでいて、まるで迷路のようだった。

 取り敢えず適当に進んでみて辿り着いたのがこの広場だ。

 やはりオレは最後の最後で神に救いの手を差しのべられたようだな。

 まあオレは神様なんてやつは信じてねえんだが。


「お頭、食料がありませんぜ」


 なんだと? あり得ねえ。少ないが多少はあったはずだ。まさかこいつ、独り占めしよって魂胆か?


「てめえ! 嘘つくんじゃねえ! ぶっ殺すぞ!」


 部下の喉元にナイフを突きつける。

「ひ、ひぃぃ! ほ、ほんとなんですお頭! 食料はさっき発狂してたやつが持ってたんですよ!」


 ……なんてこった。まさかあいつが持ってやがったとは。クソ、完全な人選ミスだ。あの野郎いつかぶっ殺……いや、もう死んでるか。


「こうなりゃ、洞窟内で食料を探すしかねえだろうな。取り敢えず水さえあればあと数日はしのげる」


 云い終わるとオレは一つしかない松明を若い男に持たせ歩き出そうとしたとき。


「お、お頭」


 部下の一人が震えた声でオレに話しかけてくる。よくみるとさっきオレにナイフを突きつけられたやつだ。まだひびってんのか。なさけねえ。


「なんだ? もし下らねえ用事ならぶち殺すぞ」


 ドスの聞いた声で応える。ここで疲れたなんていったら本当に殺すが。


「あ、あれ」


「あん?」


 部下の指の先。通路だ。暗闇でなにも見えない。

「何も見えねえぞ?」


「お、音が、き、聞こえるんです」


 音だ? なんも聞こえねえが。恐怖のあまり幻聴でも聴こえてきたのか?

「おい、てめえら。こいつはもうダメだ。放っておいてもう行くぞ」


 しかし誰も動かない。無視か? いや、これはなにかちがう。全員があの通路をみて固まってやがる。

 なんだ? 何を見ている?


「何をみて――――」


 振り向いたオレの目に写ったのは――――




 ――――化け物だった。

 なんだ、アレは?

 三メートルはありそうなその化け物は、形はかろうじて人間にもみえなくはないものだ。だがその顔は見ていて吐き気がするほど醜い。

 その上全身が灰色の肌で被われて微妙に光っていて、左手にはどデカイ棍棒を持っている。

 それがヨダレを口から振り撒きながら猛烈な勢いでこっちに向かってきやがる。


「ば、ばけものだぁああぁああああ」


「ひいいぃぃぃぃぃぃ」


「うわぁああぁああ」


「逃げろぉおおお」


 あり得ねぇ。あり得ねぇ。あり得ねぇ!

 ここは迷宮じゃねえばずだろ!? あの野郎、騙しやがったのか!?


「クソッ、てめぇら! 落ち着け! 敵はデケェが一匹だけだ! 全員で掛かれば敵じゃねえ!」


 発破をかけるが誰もオレの指示に従わない。使えねえ!


「バシャアアエアァァアエアアァァア」


 奇妙な叫び声を上げながら、物凄い速度でオレ達に向かってくる。前言撤回。アレは無理だ。勝てる気がしねえ。


「ちくしょう!!」


 出口に向かって逃げる。あんなのとやるならまだ傭兵の方がマシだ。

 腰にしまっていたナイフを前方にいる部下に投げつける。


「ぎゃああああああ」


 投げたナイフは見事は背中に刺さる。我ながら素晴らしいコントロール。これで少しは時間が稼げるはずだ。

 化け物が倒れている部下の前で立ち止まる。化け物であれ生き物である以上食事はするはず。俺たちを襲うってことは腹が減ってんだろう。


「そのまま出来るだけ長く食ってろ化け物」


 オレの足は早い。他のやつらと違ってオレは鍛え方が違うからだ。

 アレでどれだけ時間が稼げるかは知らんがこのペースなら全滅する前に出口に辿り着くだろう。

 考え事をしてると追い越した部下どもから声がかかる。だがそれで止まるほどオレはバカでも優しくもねえ。


「お頭ぁ! 頼む待ってくれ! 俺はまだ死にたく、ごぉ――――」


 「あ? なん――」


 呼吸が、止まる。なんだこの光景は。なんで。なんで。なんでだ。


「なんで、なんで化け物がここにいやがる!?」


 云った瞬間化け物の手を見て理解する。その手には肉片と、見覚えのあるナイフがこびりついていたから。

 今さっきまでオレに話し掛けてきていた部下はすでに棍棒で叩き潰されている。


「ぁああぁああああぁああぁああああああ」


 全速で逃げる。

 クソッ! クソッ! クソッ!!

 あの化け物が、殺すのは、食べるため、じゃねえ! 殺す、ためだ!

 どうしてだ? どうしてこうなった! オレは冒険者に憧れてこの町にやってきて――――






 そこまで考えて、男の目の前は真っ暗になった。

 


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ありがとうございます!



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