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短編集完結済

棘の痛み

 あなたがくれた20本の真っ赤なバラ。

 あたしをまるで誘いかけるような甘美な香りがした。思わず、触れて、鋭い棘があたしに刺さる。

 鋭い痛みを一瞬だけ感じると、指に血がにじんだ。その傷をあなたが優しく唇で触れると、成りゆき任せで、ベッドに倒れ込んだ――――――あたし。


 あなたの慣れた手つきで、あたしの身も心も裸にされる。

 そして、唇があたしの身体を廻ってゆく度、驚くほど貪欲に欲望を求め始めた。

 それはあたしの頭の制御をいとも簡単に奪い去ってしまった。


 シーツの中で起きた事は、想像していたよりあっけないもの。

 あれだけ勿体つけて、焦らしていたのに――――――――

 時計の針が0時を過ぎて、大人になった瞬間――――――あたしはあなたと身体を求め合う。


 あなたの汗ばんだ顏と天井。

 そして、あなたの首に回したあたしの腕。

 よどむ空気のなか、何度も何度も触れ合う肌と唇。その心地よさに、すでにあらがえる術もなく。

 気がつくと湿った空気が、部屋の窓という窓を白くくもらせていた。

 ふたりが激しく動く度にベッドがギシギシと音を鳴らす。そうやって重なり合う度に生まれる音が、想像以上にやらしく変化する。そして、あたしの吐息も部屋中に響き渡ってしまうのが、とても不埒に思えた。


 あなたに刺されたあたしは、初めての痛みと悦びが身体中を駆け巡るの。

 そうして、あなたはあたしの身体の自由を奪ばっていく。

 もう――――――決して、何も知らなかった頃には戻れない。

 自由が利かない身体の下で、何度もあなたが上下にあたしを突いて動く。

 あたしの胸がそれで上下に揺れる度、腰にあるあなたの手が、あたしを支えた。

 それをキッカケに、あたしの身体が一層激しく上下させられる。

 勝手に突き動かされる度に――――――寄せては引く感覚に翻弄する身体。

 そして、電気のようなものが走った瞬間、身体全体が痺れて麻痺する。


 それなのにあたしの身体は、棘がずっと刺さったような感覚。

 いつまでもとれない痛み――――――そう、あなたの棘であたしは夢から目が醒めてしまったの。

 小さな痛みだけがただ、火照った身体に残るだけ。

 あなたのその棘で、あたしをいつの間にか本物の大人に変えた。

 大人のはじまり、それはあっけない程の幕開け。

 夢見て、想像していたのと違う――――――バラの棘に刺されたように、一瞬で終わった痛み。

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