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序章



「大丈夫かい?」

 気遣うような声がして、少女は固く瞑っていた目をそろっと開けた。

 見上げれば、深紅の髪を後ろで一つにまとめた、背の高い麗人が見えた。左頬に斜めに切り傷がある。

 声は少し掠れた、ハスキーな感じだが、姿形などから女性だと分かった。

 しかし少女は、麗人の手にしている剣に血が伝っているのに気付き、反射的に後ずさった。

「ああ」

 麗人は少女の反応で初めて気付いたとばかりに剣をつくづくと眺め、サッと血を払って鞘に収める。

「悪かったね、驚かせて。――大丈夫かい?」

 もう一度、問われる。

 少女は頷いた。

「全く、ここいらはゴロツキの巣かねえ。困ったもんだよ」

 足元に倒れている盗賊を足先で蹴りつけながら、嘆息する麗人。傍目から見たら相当ひどい仕打ちだったが、助けられた少女からは美しく綺麗な人のように映った。実際、顔に傷があっても女性は美しかった。まるで、豹のような身のこなしをしている。

「それで何でまたこんな町の外れに一人でいるんだい。行商からはぐれたの?」

 少女は首を振った。

「じゃあ御遣い?」

 確かに少女はまだまだ子供といって差し支えない年齢だったので、麗人が不思議に思うのも無理はなかった。

 だから家出だと正直に答えると、麗人は目をパチクリさせた後、おかしそうに大きく笑い出した。いっそ清清しいくらいの晴れやかな笑い。だが少女はむすっと黙り込んだ。そこまで笑わなくても良いのに。

「その歳で家出となると、相当の理由がありそうだね」

 麗人はしげしげと少女を見下ろす。

「だけどまあ、そうと知ったら放っとけないな。ここいらは物騒だし、あんたはだいぶ世間知らずそうだしねえ。見たとこ武器も持ってないようだし……」

 にやり、と口の端を上げる。

「良いだろ、あたしについといで。一人で生きてける最低限を教えてあげよう」

 そう言って、麗人は男らしくさっぱりと笑った。


 ――その麗人の名前はオーラクシル・コーエン。世間では〈戦場の花〉と呼ばれる、名の知れた女傭兵だった。



 懐かしい夢を見たな。

 ラドは薄闇の中で目を開けて、ぼんやりと思った。久しぶりの宿だったから、気持ちが緩んだのかもしれない。でも悪くはない。むしろ心地良い気分だった。

「まだ夜中、か」

 半身を起こして、呟く。

 面白いことに、呪いを受けてからというもの、右目だけ夜目が利くようになった。だから、明かりがなくても、どこに何があるかがすぐに分かる。

 窓を開けるか一瞬悩み、そこでやめて再び横になった。

 朝はまだ遠い。休める時に休んでおかなくては。

 左腕に意識を向ける。右目と同様、魔物に呪いを受けた腕だ。

 小さく、(きし)むような痛みが走る。

 ――これくらい、平気だ。

 ラドは言い聞かせるように呟いて、目を閉じた。




 本館サイトでもまだ連載は終わってませんが、第二幕を途中まで上げてしまいます。


 逆さシリーズは、静かに暗い雰囲気をしたシリアスが多い作風にしてますので、ちょっと文章の感じが他と違うかもしれませんね?

 感情面の動きを重視して書いてます。


 ところで、割とどうでもいいんですが、オーラクシルさんの名前、韓国語のゲームセンターという意味の単語からとったんですよね。

 いやあ、ゲーセンがオーラクシルって格好いいなあっていうノリで(笑

 語感だけで選んだので、深い意味はありません。


 では。

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