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一章 逆さま二人、出会う 



 ビラーノ王国南部、レイベルの森。

 夏も終わりに近付くが、まだ日中は肌が汗ばむ。

 実に平和な街道で、ラドはふうと息をついて、今しがた倒したばかりの盗賊の背を、ぐりぐりと踏みつけた。


「まったく、呆れる。馬鹿じゃないか、あんた」


 倒れ伏す盗賊達の真ん中で、ラドははしばみ色の目を細める。


「どう見ても育ちの良い女が、武器も持たずに一人旅? 自殺希望なのかい」


 そう問いかけながら、ラドは中剣の刃を布で拭き、すっと鞘に戻す。

 ラドの視線の先には、白い神官服を身に着けた清楚な娘が立っていた。その様はまるで白い野花のように可憐だ。白いマントもしっくりと馴染んでいる。


「ご親切にどうも、旅の方。ご心配なく、私には魔術の心得があるのです」


 そして娘は、人形のような顔に、にこりと笑みを浮かべた。対するラドには、乾いた笑みが浮かぶ。

 運び屋をしているラドにとって、盗賊など珍しくもなんともない。

 だが供を連れず、武器も持たない、どう見ても富裕層の美少女というものは、十七年生きてきて初めて見た。


(つい助けてしまった……)


 あまり他人に関わる主義ではないので、内心ひそかに後悔している。

 本人は大丈夫だと言うのだから、放っておいても良かったかもしれない。

 ラドは横目に娘を観察しつつ、立ち回りで少し乱れた旅装を整える。

 短い薄茶の髪の上には、額に緑のバンドを巻いている。緑の上着に、黒いズボン。その上に埃避けのマントを着ていた。簡素だが、ラドは中性的な容貌なので、凛々しく見えるのは鏡が無くてもよく分かっている。


「私、まずはお引取り出来ないかをお尋ねして、それから魔術を使うことにしているんです。でないと、不平等でしょう?」


 娘は当然のように言って、小首を傾げた。

 そうしていると綺麗というより可愛く見えたが、ラドよりもいくらか年上のように思えた。

 金髪碧眼で、肌は透き通るように白い。可憐な乙女とはどんな人だと問うなら、十人中十人はこの娘だと答えるだろう。

 とはいえ、娘は見た目通りではないのだろう。今しがた盗賊に囲まれていたとは思えないくらい、おっとりと余裕な態度に、ラドは驚いていた。だが、気に入らない。


「何に対しての平等だよ。一人の女に複数の男が、しかも武器を持って襲うって時点で、不平等だろ。とっとと反撃してしまえ!」


 思わず言い返したラドは、頭痛を覚えて頭を振る。


「いや、いい。平気ならいいさ。私はこれで失礼するよ。通りがかっただけなんでね」


 人助けなんて柄ではないことをしてしまった。

 ラドは倒れている盗賊の背中を踏みつけて、街道を北へと歩き出す。

 すると、何故か当然というように娘がついてくる。ラドは眉を寄せ、振り向いた。


「どうしてついてくる?」

「同じ方向なんです」


 街道は一本道だ。同じ方に進むなら仕方がない。


「カイントまでご一緒しても構いません? 恩返ししますよ」


 娘は横に並んで、ラドににっこり微笑みかける。その辺の男ならば一瞬で陥落しそうな魅力的な笑みだった。しかしラドには効果は無い。そっけなく返す。


「間に合ってる」

「そうですか。私、レミアス・クーファンドっていうんです」

「話を聞けよ」


 さっくり聞き流して名乗る娘に、ラドはツッコミを入れた。しかしレミアスは手ごわかった。にこっと笑って続ける。


「どうぞレミアスって呼んでください。あなたのお名前は?」


 しばらく無言でにらみあった。だが結局、押しの強さに負けたラドは名乗り返す。


「……ラド」

「ラド様ですね」

「ラドでいい」


 これは愛称だが、本名を名乗る気はなかった。運び屋を始めてから、そちらの名乗ったことはない。


「ラドですね、カインドまでよろしくお願いします」

「……よろしくされたくない」


 ラドはそう返したが、レミアスはにっこり微笑んだだけで気にした様子もない。ラドは速足で歩いているが、見た目と違って健脚らしく、余裕でついてくる。


「私は巡礼の旅をしているんです。ラドはどうして旅を?」

「見て分からない?」

「吟遊詩人には見えませんね」

「あんななよっちいのと一緒にされてたまるか。運び屋だよ、運び屋!」


 顔をしかめて否定する。手紙や小包、馬車で運ぶには壊れやすいような軽い品を、町から町へと徒歩で運ぶのがラドの仕事だ。街角で詩や歌をろうろうと歌い、時にヒモみたいにパトロンの貴婦人の屋敷に転がり込むような吟遊詩人と一緒にされてはかなわない。

 今も、マントに下に背負った鞄の中に、小包を入れていた。


「失礼しました。他の国にも行かれるんですか?」

「まさか、ビラーノ王国の中を巡ってるよ。生まれがこの国っていうのもあるけど、近隣じゃあ一番平和だからね。戦に巻き込まれたら、商売上がったりだ」


 ラドはそう返すと、レミアスに問う。


「あんたはどこが目的地なんだ。カイントに大きな神殿はなかったはずだけど」

「私はカイントの向こうにある、キューレ山の麓に用があるんです」

「キューレ山の麓? 小さな村があるのは知ってるけど、神殿なんてあったのか」

「ええ、まあ」


 何故だか歯切れの悪い返事をして、レミアスは頷いた。


「仕方がないね。一緒に行くのはカイントまでだ。いいな?」

「恩を返せるかによりますよ」

「……勘弁してくれ」


 ラドはうんざりして、木立を仰いだ。



・2016.12/20 また改稿しました。はじまり方が微妙で……。

 三部構成をとっぱらって、一つの話としてまとめなおしている途中です。

 序章は削除しました。


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