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06 かすみ草

作者: 古緑空白
掲載日:2011/07/13

06 かすみ草


 彼女の誕生日は、同時に命日でもあった。そんな数奇な運命をたどったのは、坂本竜馬か加藤清正くらいしか僕の頭には浮かばない。そして彼女がそこまで偉大であったかと言えば、そんなことはない。平凡、という言葉が似合い、普通に結婚して、普通に家庭を持ち、普通に老いて、たくさんの家族に見送られてあの世に行くということが、僕が知るうる限り最も似合う人であった。

 もっとも、そんな事を口にしたら彼女は、なんであんたが私の死に方を決めるのよ?、と怒鳴ってきそうではあった。思いだしながら僕は苦笑する。

 その日はあいにく会社があり墓参りには遅くなってしまった。夜に墓場に行くのなんて小学生の頃の肝試し以来だろうか。

 彼女はかすみ草が好きだった。誕生日の六月一日の誕生花でもあったからだ。そういうことも相まって僕はいつも彼女の墓参りにはかすみ草を持って行く。

 花束を携えもう薄暗くなった墓場に携帯電話のライト機能を使い照らして行く。彼女の死には立ち会っていない事をこの闇が思い起こさせる。僕はその時野球部の練習に明け暮れていて、彼女の訃報を聞いたのは家に帰ってからだった。十時前だったと思う。帰ってきて親父が、ガンコ親父を絵にかいたような親父が神妙な顔をして僕にこう言った。

「勝、あの、な。エイちゃんが、エイちゃんが……死んだ」

 死んだ、その言葉を二度繰り返したのは覚えている。その後は正直なところ、覚えていない。取り乱したのか、淡々としていたのか、どういう風に応じたのかを僕は覚えていない。きっと、その事がトラウマになっていたのだろう。それほど、彼女の死は僕の心が衝撃を覚えたのだろう。

 その次の日、学校は朝から彼女の死について校長の方から告げられた。それからは、特に変わったことはなかった。いつもと変わらずに授業が始まり、いつもと変わらずに部活が始まり、いつもと変わらずに一日が終わった。

 彼女、杉崎絵入が僕にとって一番の親友であったのは彼女が幼馴染、しかも僕と誕生日が一緒だったことも理由の一つである。更にいえば、アパートの隣の部屋の住人が示し合わせたかのように彼女の家族だったからでもある。

 小学生のころ家が近いこともあって僕は彼女と遊んでいた。彼女はおままごとという事に興味を示さない性質だった。そこが珍しい。僕の思い出にある彼女との遊びはキャッチボールだ。アパートからちょっと歩いてある公園で僕たちはキャッチボールをした。

 男女、よくある蔑称的なあだ名である。それが、彼女のあだ名だった。何故つけられたのかが、少し異なる。この言葉は畏怖の表れだったのだ。敬意を表する、というやつだ。仕切り屋だった彼女は、最初はそのあまりのリーダーシップぶりに将軍と呼ばれていたが、ある彼女に敵意を持つ男子から男女呼ばわりされたのだ。それ以降クラスメイト達からはそちらの方の通り名が浸透した。ただ、バカにした言葉ではなく、コミュニケーション能力の低い男子達からは親しみをもって呼ぶために必要だった、と僕は解釈している。

 もっとも、彼女はそのあだ名が、嫌いだったようだ。まぁ、僕だって女男と呼ばれて好きといえるほど達観出来てはいない。僕だけは彼女をそのあだ名で呼ぶことはしなかった。

 良い思い出ばかりではない。ケンカだってしたことはある。これは誕生日の事だった。僕たちは生まれた日も一緒ということで三国志の桃園の誓いみたいだね、と言ったら彼女は縁起悪いといった。僕は三国志だけにと解りにくいボケをかましたが、彼女はそれに乗ってくれず死亡フラグじゃんと返した。

 僕はその言葉は無視できなかった。マンガの三国志しか読んだことがないが、彼らの夢が死亡フラグという言葉でくくられるのが僕は納得が出来なかった。

 地味なケンカをしたものだね、僕は墓に花を供えて彼女に語りかけた。

「それでも、僕は譲れないよ」

 いいながら、いい年して子供だなと苦笑する。

 彼女の考えは、僕の都合のよいように考えて、僕が好きだったから僕が喜々として語ったのが面白くなかったのかもしれない。その好意の質はどの程度のものかはわからない。なにしろ死人に口無し、生者の言葉は聞こえない。

「昇進が決まったんだ」

 それがどういう意味か、僕は続ける。

「もう、この墓参りで最後だ」

 彼女は責める声を立てることはなかった。

 言い訳がましくなるのは好まない。僕は言葉少なく、告げる。

「さようなら。絵入。僕は僕の人生を歩むよ」

 線香をあげ、僕は思う。

「かすみ草の花言葉の一つは、親切。それでも、僕は君の墓参りを親切だけではやらなかったよ」

 煙は夜に消えた。

短編で書きためていたもので申し訳ないです。



久しぶりに読み返してみて、昔の自分に対して羨望と拙さを感じること必至でした。まぁ、これは私の勝手な感想ですので。



なんとなく森博嗣をイメージしたのかなという淡白さが感じられなかなか乙だなーと思ったり。



では失礼しました。楽しんでいただけたら幸いです。




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