四月三日 Ⅱ
席を離れてみたものの行く当てがない
辺りを見渡していると先ほどの少女 霧崎あおいが一人でいるのが目に入った
少女は本を読んでいる
先ほど俺が読もうとした本と同じくらいの厚さだ
窓から朝日が差し込み少女を照らしているのだが、その光が彼女をさらに可憐に見せた
しばらく観察していると少女はピーターラビットのしおりを挟み本を机にしまいこんだ
俺はふいにチャンスだと思い、考えるより先に体が動いた
「霧崎さん、何読んでたの?」
愛想よく後ろから声をかけた
霧崎さんは振り返る
が、その顔はものすごく緩まっている
ニコニコというよりニヤニヤ
「あ、圭一君」
どうやら圭一君で確定のようだ
「この本?これね、恋愛小説なの」
恋愛小説か
なるほど、女子はこの手の小説を読むとこのような顔になってしまうのだな
一人で納得する
「ふ~ん、面白い?」
一応聞いてみる
すると少女は、うん!と元気よく頷く
恋愛小説など読んだことないけど興味がないわけではない
質問攻めしているみたいで気が引けたが聞いてみた
「何て名前なの?その本」
「シンデレラ」
即答だった…
そしてたくさんの疑問符が頭の中に浮かぶ
「それって…いじめられてた少女がある日舞踏会に行くために魔法でおめかしして、王子様が一目ぼれして、彼女のガラスの靴を拾って、それに合う少女を探し出して、結婚するあれ!?」
長々と言ったがこれが要約できる精一杯だった
霧崎さんは目を丸くして驚いている
まずい、勢いよく言いすぎて引かれたか?
「シンデレラ、読んだことあるの!?」
そっち!?
童話だよそれ!? 恋愛小説チガウ!! そもそも何その本の厚さ!?
霧崎さんは
「なんで落ち言っちゃうの!」
「ご、ごめんなさい」
怒られるとは思わなかった
しかし俺はさっきの男子と同じことをしてしまったんだなぁ
彼女の勢いに色んな疑問が消されてしまった
「気を付けてね、そういう人あんまり好かれないよ」
どうやらもう怒ってないみたいだ
俺は適当に頷き話題を無理やり変えた
「さっき先生が言ってたけど、近づいちゃいけない部活ってなんだろうね?」
すると霧崎さんは急に苦い顔をして言う
「さ、さあ、なんだろうね」
声が軽く裏返っている
明らかに何か知っているが、しつこい男はアレなのでもう聞こうとはしなかった
〇
昼休み
俺は昼食をとろうと弁当を机の上に置いた
どうせなら霧崎さんと一緒に食べよう
そう思い彼女の席を見たがそこに霧崎さんはいなかった
仕方なく一人で昼食にすることにする
弁当のふたを開ける
そこには…昨日食べ損なったサバが入っていた
俺の弁当を詳しく説明すると
弁当いっぱいに敷き詰められた米の上に半身のサバ
以上!!
そーいえば昨日何も言わずにそのまま寝ちゃったからな
嫌がらせだろうな…
しかし売店で買うお金もないし、なによりもったいない
俺は弁当の箱を持ちガツガツと口の中にかきこむ
サバを落とさないようにして時々サバの身をとり、一緒に食べる
霧崎さんがいなくてよかった
こんな情けない姿を見せたくなかったので
だけど霧崎さんどこ行ったんだろう?
食堂かな
〇
とある部屋
校内にあるとは思えない内装
部屋の大きさは5LDK
中央にはテーブルを挟み両サイドに黒のソファが置かれている
そして奥に60インチほどのテレビ
辺りにはロッカーやぎっしり本が詰まった本棚
更には冷蔵庫までもがある
壁は真っ白
床はフローリングになっており絨毯がひかれている
その部屋の入り口の扉には「青春指導学部」と彫られた木札がつるされていた
今は昼休みなので電気をつけなくても十分明るい
部屋の中には二人
互いに向き合うようにソファに座っている
その一人 幼い容姿ををしたショートヘアーの少女が先に喋る
「今日も帰る約束したよ」
すると向かいの 髪は赤茶色で短髪 好青年という言葉が似合う男が応える
「そうか…しかし事情が変わった。今日の放課後はこの部室に連れてきなさい」
「え?でもみんないるんじゃ?」
「ああ、だからこそだ。彼の反応が見ておきたい」
「そう、わっかた、お兄ちゃん」
「ああ、頼むぞあおい…」
そして二人はそれぞれの、内容の同じ弁当を食べ始める
「「あっ肉団子!」」