四月二日
高校生になりました
一般入試見事合格
公立高校青雲寺第一高等学校
今日から俺の素敵なスクールライフが始まります
友情 恋 大人への仲間入り
青春は俺を甘い声で呼んでいます
待ってて、今すぐそっちへ行くよ
ここから俺の人生一度きりのワンダフルタイム
…のはずだった
俺は青春指導学部の部室にいました…
〇
三日前 四月二日
入学式を昨日終え今日から本格的な高校生活が始まる
青雲寺第一高等学校
青雲高校と地元で愛着を持って呼ばれている
偏差値52の中の上といったところだ
敷地はやや広く三階建て
少し離れたところには体育館と野球部専用の寮がある
グラウンドもなかなか広い
公立高校とは少しかけ離れた設備により毎年受験生が多い
多数の受験生のなかから受験戦争にかちぬいたのだ
俺の学力はご説明しよう
この高校を選んだ理由は設備がいいなどではなく、ただ第一志望だった高校に受かるのは厳しいからだった
先生に「お前が受かる確率はヤムチャが悟空に勝つ確率だ」とはっきり言われてしっまた
当然ヤムチャが悟空に勝つなんてのは到底無理な話だ
しかし悟空が心臓の病に倒れるかもしれない、受験なんてのは何が起こるか分からない、ということが言いたかったらしい
さすがに悟空が心臓病にかかる確率には賭けるなんてことはしたくない
だからひとつレベルを下げてこの青雲高校を選んだ
お分かりいただけたかな
俺は多数の生徒が校内へと入り込む校門を抜け東玄関に到着した
靴置場に向かい靴を履きかえようとしたとき後ろから「おっはよ~」と女の子の声が聞こえた
振り返ると女の子は…
隣の女子生徒に抱き着いた
…俺じゃなかったみたいです
女子の友達なんかいるはずないのにちょっと期待してしまった
いいじゃないか、高校生だもの
登校初日いきなり女子とのイベントを期待したっていいじゃないか
思春期だもの
そこにいるとなぜか悲愴感しかわかなかったので俺は足早に自分の教室へと向かった
教室はここからまっすぐ行って右に三つめの教室
扉の右上には1-Cと標記があったので間違いはないだろう
少し身だしなみを整えた
緊張 不安 期待を抑え込んでいつもどうりを装いスライド式のドアを開けた
教室にはざっと40人分くらいの机があった
生徒はほとんど登校していて知ってる顔もいくつかある
俺は自分の席についた
名前順になっているようで俺の席は3列目の一番後ろだった
しばらくすると担任の先生が入ってきた
記憶に新しい顔
確か入学式の時にも挨拶してたっけ
身長は高く長い髪はぼさぼさになっている
さらにスーツをだらしなく着こなしたそのなりはどこか不清潔感を印象付けられた
確か名前は……
あ~ここまで出かかってるのに
テレビを見ていてタレントの名前が思い出せないのと同じ感覚
教えてくれっ 先生の名前は!?
「このクラスの担当になった近藤だ、よろしく」
…大してスキッリしなかった
近藤先生はとてもだるそうにHRの開始を告げた
「んじゃまずはテキトーに自己紹介でもしてくれ、安藤からな」
一番最初はきつきな
俺は安藤君に同情と憐れみを感じながら自己紹介の内容を考え始めた
出席番号順だと俺まで回ってくるのには少し時間があるのでなんとかいけそうだ
自己紹介はその人の第一印象を決める大事なものだ
俺のこの誠実さとフレッシュさをどう表現したらいいものか
やはりここはマニュアルどうりにいこうかな
うん、そうしよう
こんなことでボケをかましてすべったりでもしたら俺はもう高校なんていけやしない
そうこうしていると俺の前の武田というやつの自己紹介が終了した
なぜか武田君は肩を落として沈んでいる
プレッシャーに押しつぶされたように
疑問に思ったが今はそんなことを気にしている場合ではない
深呼吸をして立ち上がる
内容は大丈夫 普通に 普通に
その時一気に視線が向けられる
ゾクッ
体全体に鳥肌が立つ
いやな寒気を感じる
まさかこいつら…飽きてやがる!!
みんなまじめに言うもんだから飽きっちゃてるんだ
まだ先は長いのに
期待するなら後半にしろよ!
!!
そうか、武田君はこのプレッシャーに負けたんだな
おもしろいことが浮かばなかったんだ
ああ、俺だってそうさ
何も浮かばねぇよ!!
でもここで引き下がるのは何か嫌だ
男じゃないよな
なあ、武田さん!?
俺はもう一度、さっきよりも深い深呼吸をして決意した
ダンコたる決意だ
そんな俺の様子を感じたのかさっきまでヤバい目をしていた奴らがニヤニヤしている
これで逃げられなくなった
もうやけくそだ!!
バスケの全国大会でするような決意をさらに固め後 残ったのは後悔だけだった
〇
HR後の休み時間
俺は机に突っ伏したまま動けずにいた
動きたくなかった
五感を研ぎ澄ませばはっきり感じる
クスクスと笑う奴
俺をキモ男などと罵倒する奴
何より全員が俺をゴミを見るような目で見ているのが分かった
いや、もしかしたらゴミのほうが愛されているかもしれない
なんであんなこと言っちまったんだ、俺は
ただみんなを楽しませようとしただけなのに
思い出しただけで吐き気がする
いや、ちゃんと向き合うんだ現実と
今後のために後悔ではなく反省を
自己紹介一部始終
決意を固めた俺は膝が爆笑しているのを気合で抑え込んで自己紹介を開始した
「千登勢 圭一です。好きなものはヒ・ミ・ツ♡ 圭ちゃんって呼んでね♡」
…静寂
近藤先生が俺に気を使って
「お、おう 圭ちゃんな アハハハハハ」
なんて言いやがる
柄じゃないのに
余計にそれが俺を更なる絶望へと追い込んだ
反省終了
うん、やっぱただの後悔だ
〇
その一日はホントに最悪だった
クラスの女子に睨まれるわ
誰もしゃべりかけてくれないわ
知り合いまでもが俺を他人だと言い張る始末
完全にクラスで浮いた存在となった
フッ終わったな、俺の高校生活
さらば青春
もうほとんど青春をあきらめた俺の目の前に一人の女の子が立っていた
次は何をされるのかと怯えながら顔を上げて見ると
幼げな容姿にそれに似合った顔
確かこの子は
「霧崎…あおいさん?」
そうだこの人は霧崎あおい
自己紹介がおもしろくない内容だった人だ
まあ、避けられるような内容よりかは断然いいけど…
名前を疑問形で言うと少女は
「え!?覚えててくれたの!?うれしい~なぁ~」
そういって無邪気な笑顔を僕に向けてくれる
「何か用?僕みたいなキモ男に」
いろいろなことがあったせいかものすごくネガティブなったらしい
しかし霧崎さんは
「千登勢君はキモくなんかないよ。そりゃいきなりあんなこと言い出すからびっくりしたけど
私にはわかるよ、いい人だよ」
泣きそうになった
まさか女の子に優しくされるなんて
もう諦めてたのに
「えっと、用は別にないんだけど…ちょっと気になちゃって」
「え?」
「それじゃ、また」
そういってトタトタと少し駆け足で自分の席に座った
おいおいおいおい
何だ何だナンナンダあの子は
気になったぁ?くっくっく
笑いを必死でこらえる俺を見て明らかな嫌悪感をかもしだしながら気味悪そうにしている
が、しかしそんなことは関係ない
笑わずにはいられないのだ
あの子もしかして
僕のこと好きなのかぁ!?
ドキドキが止まりませんでした
〇
帰りのHR
夕日が西側の窓から射してくる
下校している生徒や部活に勤しむ生徒がちらほら見られる
俺も早く帰りたいなぁ
外の様子を机に肘をついて横目で見ていると近藤先生がやる気の感じられない声で言った
「えーまあ、部活の話なんだがな。明日から仮入部期間に入る。入部したい部活があったら今から2週間以内にこの紙に部活名と必要事項を書いて俺に渡してくれ」
そう言いながら入部届を配り始める
部活かぁ
中学の時は部活には入っていなかった
運動神経は多分いい方だけどただただめんどくさかった
高校も部活には入る気はなかった
青春の醍醐味とは言ったもののやはりきついことはしたくない
ま、俺には関係ないか
近藤先生がHRの終了を告げる
「今日はじめてなこともあって色々大変だっただろうが、まあ、慣れてくさ。以上HR終わり」
色々という言葉に少しひっかかった
ぞろぞろと生徒たちが教室を出ていく
俺も帰ろうかと思って席を立とうとしたとき、ふいに呼び止められた
「千登勢君、一緒に帰らない?」
言っている意味が最初分からなかった
女の子に一緒に帰ろうと言われたのは初めてだったので…
ありがとう、神様。私にチャンスをくださったのですね
まるで恋する乙女のように本気でそう思った
俺はさっきまでのネガティブを完全に押し殺した
「ええ、もちろん」
高校一年生思春期でした
〇
帰り道
太陽が真っ赤に染まり俺たち二人を照らしている
住宅街を歩きながら二人はたわいもない会話をしていた
そう、二人
男子諸君なら一度は憧れるイベント
女子と一緒に下校
しかも相手はとびきり可愛いのだ
「千登勢君は部活どこに入るの?」
「いや、部活には入らないつもりなんだけど、霧崎さんは?」
会話を終わらせたくなかったので逆に質問した
霧崎さんはんーと唸ると俺の前に出てきて優しい笑顔で
「決まってるけど圭一君には内緒だよ。じゃ、また明日ね」
そう言って走りながら手を振って去っていく
霧崎さんが圭一君と言ったことも頬を赤らめていたことも夢のように感じられた
夕日のせいじゃないよな…
夢というのはすごく儚いものなのです
〇
帰りにコンビニで週刊少年誌とコーヒーを買って帰った
新連載開始のマンガが表紙を飾っている
家に帰ったらじっくり読もう
もう辺りは日も沈み真っ暗だった
ダッシュで帰った
今まで見たホラーなものが鮮明によみがえってくる
涙がこぼれそうになったけど目の前が見えなくなるのはさすがに…
家に到着した
もう7時だ
今日は疲れたもう寝よう
買った雑誌とコーヒーをリビングに置いて二階に上がった
制服を脱ぎジャージに着替えそのまま目を閉じる
今日やってしまったことをもう一度後悔しそしてまた出会った少女のことを思い出した
はっ!!
これが恋!?
その夜はなかなか寝付けませんでした