待ち合わせ。
「怖い話して」
なんて無茶ぶりする迷惑な友達っていますよね。
駅のコンコースで仲良しグループが、もうひとりの友達を待っていたときのことです。
観光客も大勢いる都市の雑多な駅のコンコースで怪談なんてしても面白いかー?とも思ったのですが、かえって雑多なところで聞いた方が怖くなくって、後に引かないのかもしれない。
というか、そもそもこんなところでいきなり「怖い話」なんて思いつくはずもなく、「えー、ないよー」などと言っていたところ、ひとりの友達が、「そうそう、そういやね」と話し始めたのでした。
広いコンコースですから、太い柱も何本も立っています。それぞれにツアー会社の広告だったりお土産物の広告だったりが掲示してあったり、してなかったり。
そしてそこはいい目印になるから、待ち合わせの人たちが何人も柱を背にして立っている。
だが、不思議なことに1本だけ、人がいない柱があった。
「大型ビジョンの前だから?」
「人の流れよりちょっとズレてる真ん中だから?」
「人があんまり立ってないとこってかえって立ちにくいじゃん。目立つし」
「待ち合わせなんだから目立った方がいいでしょうよ」
「え~、いやじゃーん、待たされてるの見られるの恥ずかしい~。なに張り切って早く着いてんだコイツとか、すっぽかされてるコイツとか思われたらさ」
「知らんし」
「思わんし」
何故あそこだけ人がいないんでしょう?というひとりの友達の問いに皆が好き勝手想像していると、その友達は続けました。
「49番目にあそこに立った人はね、その日のうちに死ぬって言われてるんだよ」
「え~?」
揃いも揃って皆の口から出たのは、胡乱な「え~?」だった。
「聞いたことな~い」
「49番目なんてすぐじゃん。そんなこと言ってたら毎日人死んでるよ」
「この駅でそんなに毎日人死んでたら大問題じゃん」
「駅で死ぬってどんな死因よ。病死?突然死?無差別殺人?刃傷沙汰?怖い怖い。ここでそんなの聞いたことない」
ゲラゲラと笑う皆をその友達は静かに見ている。
「駅でとは限らないよ。家に帰ってからとか、道路で車にはねられてとか」
「えー、でもそんな毎日毎日この近くで死人が出たとか聞かないよー」
「近くの人じゃないかもしれない」
「そうなってくると、ますますあの柱の前に49番目に立ってた人かどうかわかんないじゃん。
「第一49番目って誰が数えてんのよ。幽霊?悪魔?」
またゲラゲラと笑い出す。
「その49番目ってのも、いつから49番目よ。日付変わってから?まさかこの駅ができてから?」
「もうとっくに49番目終わってるって」
ゲラゲラ。
「始発じゃない?始発が出てから49番目!」
ゲラゲラ。
「え、でも、ここで待ち合わせするんなら、朝イチ到着する電車じゃない?なんていうの?始着?」
「聞いたことない」
ゲラゲラゲラ。
「1」
その友達は笑っている皆を無視して何かを数え始めた。
「2、3」
皆はちょっと驚いてその友達の顔を見る。
「4、5、6」
その友達は何かを見据えたまま、ずっと何かを数えている。
「7、8、9、10……」
皆はその友達の目線を追う。その先にはさっきまで誰もいなかったはずの柱があり、49番目の人が死ぬと言われているそこには、いつの間にかたくさんの人たちが背をもたれたりスマホを見たりして、誰かを待っていた。
「22、23、24……」
入れ替わり立ち替わり、誰かが現れ、誰かと立ち去って行く。
「33、34、35……」
「え、もうやめなよ、数えるの」
「なんか悪趣味だよ」
まったく皆の顔も見ずに数え続けるその友達を、眉をひそめて皆口々に注意する。
「だって、信じてないんでしょう?」
まったく目線を動かさずその友達は答えた。口の中ではまだ数を数えている。
「信じてないし!49番目の人が来たって、家に帰って死なれてもわかんないし!」
「無駄無駄!」
少しイラついて来た皆の顔をその友達はやっと見た。
「じゃあ、目の前で死んだら信じるの?」
皆一斉に黙った。
黙ったままその友達を見る。非難がましい目で。気持ち悪いものを見る目で。怪談なんて怖い話なんて、現実味が無いから面白いのであって、今、そこの目の前の人の不幸を願うような楽しみ方をするもんじゃあないんだし。この子昔からこんな趣味悪かったっけ?こんな人だったっけ?
ていうか、この子、誰?
全員が同じことを思った瞬間メッセージの着信音が鳴った。
『着いたよ。どこ?』
飛び上がるほど驚いた皆がキョロキョロと遅れていた友達を探すと、例の柱の前にいる。
皆、一斉に息を呑んだ。
「49」
その友達が呟いた。
「目の前で死んだら信じる?」
皆一斉に走り出した。「こっちにおいで!」と叫ぶ。「早く早く!」「そこから離れて!」と叫びながら駆け寄る。
あ~、いたいた。遅れてごめ~ん。え、なに…?
雑踏に紛れて聞こえないが、そう口を動かして手を振る友達は、一瞬目を見開いてゆっくりと後ろの男を振り返り、倒れた。
おわり




