ささやかなシンギュラリティ
AIは進歩は目まぐるしい。その証拠に2028年にシンギュラリティに到達したという事実がある。2020年代前半までは2045年に起こるのではないかと言われていたにも関わらずこのシナリオだ。
本来予定されていた2045年、AIはどこまで発達されているのか、どんな技術が生み出されているのだろうか。
一説には不老不死薬の完成と言われる。
ケイメイ
青年【鶏鳴ニヒル】は机に向かいながら休憩の合間に一考していた。
大学生は〝人生の夏休み〟と言われているが、理系はどうだろうか、と。
理系の道を選んだ人間なら一度は考える事だろう。だが、ニヒルには少々センシティブな話題であったろう。
「はぁ、あの時もっと頑張ってたら正解を知れたのに」
目を逸らしたくなる現実に敢えて皮肉を込めた。
「はぁ、風つえーな」
自室にいるので外の景色を意味も無くゆっくりと眺める。数秒目を虚ながら眺め、そしてあることに気づき声を発した。
「ん…あ!!忘れてた、定期取りに行かなきゃ。」
定期とは電車定期PASMOのこと。ニヒルは予備校に通っている為PASMOを定期購入しているのだが、壊れてしまい新しいのに交換をする為に駅まで行かなければならない。だが、その期日が今日までとなっていた。
「いけねぇ、こういうところだよな」
悲しい得心を行い気分が落ち込みながら重い腰を上げ身支度を始めた。
「はぁ、こんな面倒に時間かけるくらいなら最初から時計でピッとできるやつにすればよかったな。逆張り癖そろそろ治さねーとやべーな。はぁ、うち貧乏だから今年こそは絶対に受からないといけないのに、こんなことに時間使っちまって、あーくそー最悪だ〜」
愚痴をこぼしながらも準備が終わり玄関へと向かう。
「めんどーだな。AIと相談ってやつができてたらこんなことになってなかったのかな。はぁ、俺も一回でもいいからAI使ってみてえよ」
シンギュラリティが起こると言われた2045年にして今年。AIは進化したが、金持ちだけのツールになっていた。サーバー代、電力代共に高騰、そして人口増加やAI失職など複合的要因により2027年から全てのアプリが完全課金制となり今では月6万が最低ラインとなった。
「AI使えればもっと人生が良くなってたかも。受験にも受かってたかも。けど実際は使えない。使える人間を側から眺めるだけだ」
AIの使用未使用によって知能の差が開いていることがここ最近論文で発表された。それだけでない、貧富の差、学歴の差、就職の差、数多くの差を作り出してしまった。
「はぁ、、、」
数十秒後、玄関を開いた。
駐輪場に向かってる途中、ふとあることに気づく
「ヘルメット、いいかまあ」
思考が鈍ったのか、いつも被っているヘルメットをつけない判断をしてしまった。
「よし、行くか」
ペダルを漕ぐ、いつもとは少し暗く。
「覚王山だから大体40分くらいか」
覚王山、名古屋市にあるそこそこの規模の駅だ。電車に乗る時はいつもここを始点とする。
漕ぎ始めて25分ほど、雨が降り始めた。最初は視界が少し見えづらくなる程度だったが、1分、また1分経つごとに降り注ぐ雨は強まった。
「ザーザーだなおい、カッパ着てくるべきだったな。」
雨が視界を遮り始めニヒルはスピードを落とし始めた。そうしていると前方から自転車が走って来た。
時速30キロくらいだろうか。先程までのニヒルより少し速くいくらいだろうか。豆粒に見えた前方の自転車も瞬きを3回したらハッキリと造形が見えた。
ニヒルは車道が狭い故歩道を走行しているが相手も同じく歩道を走行している。
ニヒルは順走だが相手は逆走なので「どいてくれるだろ」と思った。だが運悪く相手も同じ考えだった。
雨のせいか。それとも他の要因か。
避けるタイミングは十全にあったが両者とも避けず…
結果、恐ろしく鈍い音が鳴り響いた。現場を見た人間は両者はもう息の根が残っていないだろう、と思っただろう。
だが違った
自転車は無事だった。相手のは。
体の方は無事だった。相手の方は。
ニヒルは…血が流れていた。
事故から3秒後、ニヒルは目を開く
「どこだ、ここ」
見覚えのない広場に立っていた。10メートルくらいの壁に囲まれ壁外は見えない仕組みになっている。広場の大きさは半径60メートルはあるかないかだ。
広場には100人はいるがそれ以外の生き物はいない感じである。広場とは言ったが噴水やベンチなどはない。屋外ミニマリスト部屋と言えばいいか。
「え、、、なんだこれ」
ニヒルは事の状況に頭が追いつかず困惑するしかなかった。生きているのか、死んでいるのか、現世か、死後の世界か、幻なのか、夢なのか。
いきなり風景が変わり何もかもが理解不能。
「三途の川、じゃねーよな。壁に覆われてるし」
他の人間も困惑している。皆困惑の色を隠せていない。
この場から立ち離れて良いのか、そもそも出来るのかと思った瞬間、どこかから声が聞こえた。
“皆、おはよう。聞こえてるかな?僕はこの世界のマスターであるユイビだ。”
「!!??」
唐突であった。人生で1番驚嘆したと言っていい。なんせ脳内に声を直接送られたのだから。
周りの人間も騒ついている。他の人間も聞こえているのだろう。
“いきなりだが君たちは今から言う3つの選択肢から1つ選んでもらう”
「なんだ?今のこの状況は説明しないのか?」
「俺は死んだのかよ?ならここは天国か?説明してくれよ」
場は騒然としていて騒音の嵐だ。脳内に声を送ったのは正解だと言えようか。
“説明はいずれするから今は聞いときなよ。君達の運命を左右するんだからさ。”
声のトーンが下がったことにより場の緊張感は高まり静まり返った。そして遂に選択とやらを発する。
“君達が不老不死となり永遠と生きるか、AIに体を引き渡し乗っ取られることか、これからされるデスゲームに勝つか。この三つから一つ選んで欲しいな”
一瞬の沈黙の後大ブーイングが巻き起こった。
「はぁ??何言ってんだ??」
「永遠ってバカ言ってんじゃねぇ」
「AIに取り変わるってどういうことだよ」
「ゲームって、バカか!!」
ニヒルも口には出してないが反発の派閥にあった。そんな中ある一定の人間は顔を真っ青に変貌させていた。
「まさか、、、」
「本当に完成していたのか、でもどうして、、、」
“気付いてる人もいるね。僕の言っていることの意味。まあみんな情報強者(AI使用者)だけど。でもそうだよね。こんなこと言われて信じるはずがない。人間様は。だから証拠を持ってくるよ”
10分ほど、声は消えた。この待ち時間、乱痴気騒ぎではあったがこの後のことを知るに最後の平穏な刻と言えただろう。
「お待たせ」
さっきまでは脳内に声が届いていたが今度は実態である。
皆が見える高台にいる。見た目に関しては
人の姿だ
そして隣には人の形をした何かが立っている。人ではあるが生気を感じない。
「僕はAIなんだけど、体は人間、信じてくれるかな?」
場には100数人はいたが満場一致で中身はAIだと信じ込んだ。喋り方が人間の出せる物ではなかった。外人が日本語を喋った時独特な違和感がある。それを何百倍も強めた感覚。それ単体で吐き気のするような声という名の音がした。
「円周率500桁言って信じ込ませようとしたけど、その必要はなかったかな。君達がそこまで懐疑的ではないからなのか、それとも僕の声が酷すぎるだけなのか。悲しいかな。まあいいか、もう一つの方の説明するよ」
彼は人の形をした何かの腕を思いきり掴み、そして唐突に骨を折った。折った腕は普通腕がぶらんぶらんとぶら下がるようになっている。だが、ぶら下がらず普通の腕となっている。
場の人間は凍りつくしかなかった。
「腕を折って再生させる程度じゃ納得いかないなら木っ端微塵にしてもいいよ」
疑う人間はもはやいない。何故なら2045年であろうと腕が折れれば1ヶ月は療養するもの。現実離れしている。故にさっきの発言が本当であると場の人間は理解する。
「よ、要はゲ、ゲームに勝てばこんなとこからいなくなれるんだよな?不老不死にもAIにもなんなくて済む。内容はなんだよ。ゲームの内容は。教えてくれよ。」
「内容は後で言うよ」
場は恐怖に包まれた。だが一人、違う人間がいた。
ニヒルだけは怒りを露わにしていた。
「なんで、どうして毎回、AIに、、、クソが」
「あ、言い忘れた。AIに変えられたい人は今すぐ出来るから。それじゃやろうか、ゲームを。
最初のゲームはかくれんぼ、鬼は半年前に不老不死になった人間だよ。勝てば日常に、負ければ彼らの仲間入り。
さぁ、始まりだ」




