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【第一部更新中‼】マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
2.浜に打ち上がった少女

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第7話 ヤヲ因子

 学園施設は総合病院や、職員用の宿舎とも併設されている。

 するとネーレイスの少女を、喪服のままに病院まで連れてきた枸櫞だった。


「なぁ、美岬さん。

 なんであの子は、あんなにも姉さんに似ている?

 ……ネーレイスって。テルクの海原って、なんなんだ。

 君たちは姉さんを、いったいなにに巻き込もうとしているんだ」

「枸櫞くん、落ち着いて。

 あれはあなたのお姉さんじゃない」

「だったらどうして似てるのかって、そう聞いてるんだ!?」


 枸櫞は拳で壁を叩いた。ここ数日の彼の心労を慮れば、無理もない。


「わからない、詳しく調べてみなければ。

 ただ、推測できることはある。

 テルクの海原、ないしテルクの幻界げんかいと呼ばれるあの世界は、知性体の心象を映して変化するという仮説があるの」

「仮説がなんだって……ネーレイスと戦うのは命がけなんだろう?

 それに見合う価値があることなのか、僕にはずっとわからないままだ。

 美岬さんはその答えを、持っているのか。

 そう聞いているんだよ、こっちは!」

「――、きみの言うとおりだね。

 共鳴者たちは人形に選ばれ、その宿命に従ってる。

 遺伝、とはすこし異なるけれど、死ぬまで戦うわけじゃない。

 なかには一族として人形の適格者を継いだり、相応しい次代を見つけて養子などとして継承をするひとたちもいる。

 交叉の巫女、浅葱さんは二卵性の双子なの、お兄さんのいずるさんもまた共鳴者エコーズだし、ふたりは親子間で資質を受け継いでいる」

「なにか、条件が?」

「共鳴者は、“ヤヲ因子”と呼ばれる特殊な因子を持っているの。

 あなたやあなたのお姉さんもまた。

 そしてこの因子には、時間の因果を超えて作用する性質がある、との話もある。我々には当事者の主観記憶を除いて、それを観測するすべが事実上ないから、たらればどまりだけど」

「……そうかい。

 あれは万が一にも、姉さんじゃないんだよな」

「その影響を受けた、なにか別の存在と考えるべきか。

 あるいは」

「或いは?」

「できれば、怒らないで聞いてほしいのだけど」


 枸櫞は黙ってうなずく。


「……あなたの記憶が、彼女というネーレイスに器を与えているかもしれない」

「僕のせいで、ネーレイスが生まれた。

 そういう話?」

「そうと決まったわけじゃない、ただ!」

「わかってるさ。時期的に見て、最後にネーレイスが現れたのはこのまえの夜、あの神社姫シュラインノーブルも今思えばなおのこと、姉さんの面影があったから。

 おそらく捕食されて消滅したはずの、あいつに関わるものだ。

 そういうものとして、新たに派生した。

 そう考えるのが一番しっくりくる」

「ごめんなさい」

「美岬さんが謝る話じゃないだろう。

 ただ僕も、あんなモノを見せられて平静でいられるほどできた人間じゃないらしいな?」


 父の死にはたいした感慨も持たなかったくせに、内心で自分にそう毒づいている。

 枸櫞の口調は、ネーレイスの少女に出会ってから終始殺気立ったものだ。彼を前に萎縮こそしなかったが、美岬も近日の彼には過剰な心理的負荷をかけすぎたと、遅すぎる自省を始める始末だ。正直、疲れる。


「……まぁ、責任は持つよ。

 あの子が本当に僕のせいで生まれてしまって、ひとの敵になるなら。そのときは、僕の命と引き換えにしてでも」

「安易に命と引き換えとか、言わないでくれないかな。

 まるで死にたがっているようにしか、聞こえないから」

「――、きみだって、また面倒なものを抱えてしまったと後悔しかかっているんじゃないか。

 すまない、やめだ。……僕は、ひとまず休ませてもらうよ。

 美岬さんも早いところ、今日は休めるといいな」

「えぇ。そうだね、本当に。

 枸櫞くん、身体には気を付けて」


 心理的な余裕はお互いほとんどなかったが、最後は互いの身を案じることで理性、日々の営みに立ち返ろうと尽力する。


*


 直後、学内のグラウンドに枸櫞はある人物を呼び出した。


「というわけで護斗くん。

 僕を存分に殴ってくれ」

「マゾなの?」

「いや、ケジメの話だ。

 つい美岬嬢に八つ当たりなことを――」


 みなまで聞き終わる前に、拳が顎をクリーンヒットした。


「ひ、ふ――ひっへぇ!!?」

「これでも抑えたほうだぞ、顎外れてないよな?」

「外れる前提やめろ!?

 躊躇ねぇな、案の定というか」

「いや、だってお前、なんか人生ハードモードすぎるじゃん。

 さすがにあのひとに手を上げたら殺すけど、流石に口論どまりだろう?」

「なんに対する心配だよ。

 野郎で女の子に手をあげていいのって、ガキへの教導的スパンキングがせいぜい関の山でしょ」

「『お尻ぺんぺん』だよな!?

 そういうプレイじゃねぇんだよ!」

「ナイスフルツッコミ!」


 サムズアップする枸櫞を、今度はどこに備えてたのかスリッパでひっぱたく。


「……なぁ天充、俺、正直いまのおまえがすげー怖いよ。

 絶対に疲れてるって、お父さんの社宅引き払って先、行く宛てなんてあんのか?」

「――」


 枸櫞はグラウンドの人工芝に、うつ伏せで突っ伏す。

 学園のフットボール部が駆け込み練習をしているようで、こっちを見てげらげら笑っていた。いうほど面白いものじゃないはずなんだけど?


「美岬さんが、職員寮の空き部屋を手配してくれるって。

 これからは実質、住み込みみたくなんのかな。

 あの人には世話かけてばかりだし、今回は感謝だってしてるけど、そういう誠意を示せるだけの、心の整理、つかないままなんだよな。

 朝桐くんのこと、怒らせてしまうんだろうけど」

「いや、その程度では怒らん。

 恩を返したいとは、考えているようだし。

 意外とお前、いいやつ?」

「――、それはない、かな」


 ついさっき、自分の命を懸けると言ったら、それは死にたがりのエゴでしかないと、あのひとにはあっさり看破されて、僕は憤りを隠しきらなかった、その程度に未熟な……ああ、ここ最近、毎日自分という存在が、いやでいやでしょうがない。


「どうして」

「いまだって僕は結局、僕の自己満にきみを付き合わせたわけだから」

「気色悪いこと言うな!

 お前殴ってすっきりしたのは、俺もなんだから。

 今日はとっとと布団ひっかぶって寝てろ、しっし」


 さぁお開きだと言わんばかりに、彼は手を払う。


「ありがとう。朝桐くん、きみもなかなか頼もしいやつだよな。

 今日で、一番楽しかったかも」

「おう……」

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