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マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
10.人魚が船頭になるならば、或いは

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第50話 穢した

(僕はなにを、止めようとしているんだ?)


 いつの間にかシトラが弐号機にいるということが、それまで赤嶋に言われたことや見せられたものら以上に怖かったのか。

 シトラは珊瑚に、赤嶋へのトドメを教唆した。

 僕がまごついているうち、二人の手を汚させてしまったんだ。


『くえん……?』

「――、――」


 この復讐は僕だけのモノなのに、ふたりをそんなものに、染めてはならなかったのに。僕がまごついているから、ふたりを――

 直前に転移すれば、八号機で僕がやつを踏み潰せたじゃないか。

 勝手に横槍を入れたのは、ふたりのほうだ。

 そしたら、僕の失敗はなんだ、なんだったんだ?


 枸櫞は銃を下ろし、自分の太腿を撃った。


*


「みっちゃん、いったいなにを!?」


 駆けつけてきたふたりに、枸櫞は赤嶋の死体を示す。

 さながらオブジェのようになったそれは、不気味なほどに美しい、だが――珊瑚くんはそれを見て、ようやっとぎょっとなっている。

 人形越しでは、わからなかったことだろう。


「これが僕たちのやったことの結果だ。

 珊瑚くん、人形で人を踏み潰すのは、まぁツールの違いでしかないよ。

 だけど……僕はこの手で為すことの、結果を噛みしめたいんだ。

 最後に人形に頼るのはいい、けど。

 シトラに言われたからか?」

「あのままだとみっちゃんが危なかった」

「僕が八号機への転移を考えないとでも」

「それは――」

「うん、これは僕の八つ当たりだな」


 天充枸櫞は、とうに狂っている。

 美岬の掲げる復讐という道筋に乗ったときからして、魔性となることを選んでいる。それが――


「シトラは子どもだ。

 シトラに言わせるべきじゃなかった、姉さんに似たこの子には、綺麗なままでいて欲しい……ひとの死なんて、関係ないところでさ。

 あぁ、僕は――」


 なんだかんだと理屈を捏ねて、シトラに血みどろの現場を見せたくも、関わらせたくもなかっただけ。

 やっと理解が、寂しく追いついてきた。


「ごめんねシトラ。僕が、姉さんを穢してしまったんだ」


 シトラはきっと、僕の記憶から編まれた存在だ。

 今更それを疑わない。だからこそ、姉さんの紛い物なりにひととしての愛着を注ぐようになっていた。復讐を奪われたくなかったのはあるけど、なにより――この子を人並みの子として、育ててやれなくなるのが、いまはなによりおぞましい。

 ネーレイスの力で、太腿の負傷はすぐに治っていた。流血の痕がなまなましくズボンに刻まれている。

 僕はふたりに歩み寄った。


「なぁ珊瑚くん。今でも僕を友達と想ってくれるかい。

 こんな酷いやつを、さぁ」

「何言って、みっちゃんはなにも悪くないじゃないか!

 友達って、そんなこと当たり前で――」

「うん。そう言ってくれる気がしてた」


 彼の顎に指をかけ、接吻する。

 すぐに唇は離した。


「きみの憤ってたものも、わかってる。

 僕に害が及ばないよう、頑張ってくれたことも。

 だから今度は、僕に頑張らせてくれないか。

 ありがとう。きみの怒りを、預からせてほしい」

「みっちゃん……」


 そうすることでしか、赤嶋なんかで穢してしまったふたりへの償いかたを思いつかない。

 テルクから戻ってしばらく、ふたりのことを抱きしめていた。


*


 翌日、珊瑚は琉稀を神社の境内に呼び出していた。


「珍しいね、珊瑚くんからなんて」

「……今度のこと、きっと一番苦しんでいるのは、みっちゃんなんです。

 シトラに酷いモノを見せてしまったって、だから」

「そう」

「みっちゃんはお姉さんの復讐のために、美岬嬢と契約した。

 誰に頼まれたわけでも、求められるでもないのに――それを背負い込んでしまっている」

「彼はきっと、やってしまうんだよ。

 だけど傷つくのは自分だけでいいと想ってる、しょうがないと想ってる。いいわけないのにね」

「僕はこうなってしまった手前で、止めろだなんて言えません。

 だけど――みっちゃんが苦しいのを見たいわけじゃない」

「そうだね。

 私は、止めないことにしたよ」

「!」

「琉稀を愛してるあの子を、知ってるから。

 あんな奪われ方をしたことに、折り合いをつけられるというなら、復讐でも、なんでも……そうして戻ってきた時、誰も受け入れてあげないのが、嫌だから、さ。

 私たちぐらいは、彼のやろうとしていること、見守ってあげよう」


 珊瑚は静かに目を閉じる。

 自分はこれまで、人形を扱うたびに直情へ囚われていた。

 自分の気に入らないモノを一掃する力が、あれなんだと想っていた。

 だけど、そんなに都合のいいモノではない。

 みっちゃんが僕の怒りを、感情を預かってくれているいまならば。

 もう僕自身にみっちゃんを重ねて、暴走する必要もないんだろう。

 そう、僕がしっかりしていれば、みっちゃんも安心してくれるはずだ。

 これまで身の回りに感じてきた、苛立ちともなんともつかないモノが、枸櫞が歩み寄ってくれたことで、――ほんとうに、憑き物が落ちるかのように、あっさりと。


「そうですね。先輩は、大人ですよ。

 僕も――早く、そうなりたい」

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