表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一部更新中‼】マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
1.テルクの海原

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/12

第5話 朝桐護斗

 翌朝の枸櫞は、まだ引っ越しの段ボールもろくに片付いていない社宅奥の暗がりへ声をかけた。


「いってきます……、父さん」


 返事は、ない。


*


 予鈴がなる前、別のクラスからヘンな奴がやってきて、絡んできた。


「お前が、天充枸櫞だったか?」

「初対面の人間にお前呼ばわりされる趣味はないですかね。

 名乗っていただいても?」

朝桐護斗あさぎりもりと

「――」

「なんだその顔は?」


 いや、失礼か実直かどっちかにしてくださいませんかね。

 そんなひとの席前で両腕組んで仁王立ちとか、クラスメイト達に何事かと思われるじゃあありませんか。


「いいか、そらみつ――なんかもっと呼びやすい名前にならんの?」

「それはなんに対するクレーム?」

「じゃあ柑橘類と呼ぶことにする、よぉ、柑橘」


 勝手にあだ名をつけられた挙句、略された。

 いま教室の端で何人か噴き出しているんだが、あとで覚えとけよお前ら。


「……人の名前を早速いじるとはいい度胸だなぁあんた、尻の穴から手ぇ突っ込んで奥歯がたがた言わせたろうかぁン?」

「ほぉいい啖呵切れるじゃん、俺はそういうの好きだぜ、カンキツ」


(どうしよう、俺こいつのことすげぇ苦手だ)


 取り敢えず関西人テンプレエミュで乗り切ったが、そうまであたりが強い理由は聞いておかなければなるまい。


「要件は、なんです?」

「釣れねぇな。ま、同じ共鳴者のよしみで忠告しといてやるよ」

「!」


 そうだ、昨日の今日だったから名前だけは憶えがある。

 囲んでいた鮫人に誰が乗ってたか聞いたとき、五号機だったかのがそういう名前だった。


「……お嬢に迷惑かけたら、俺がお前を殺す」

「おー、こわ。

 美岬さんのこと?」

「お前ごときがお嬢を名前で呼べると思うな!」

「躾のなっていない狂犬だな。

 それこそ美岬さんの品位を汚すことじゃないの。

 あのひとが俺を脅してくるようにわざわざきみを嗾けたわけ、回りくどいことするんだね?」

「そんなわけないだろう!?」


(マジで反証可能性とか頭になさそうなやつ、めんどくさい。

 いやこの場合は、自分の行動がもたらす影響をわかっていないだけなんだけど)


「じゃあ美岬嬢の犬、ご主人に伝言頼んでいいかな。

 あとで本人に一言一句確認するから。

 そうさな、『手駒にはもうちょっと、マシな奴を使ったほうがいいよ』……うん、以上」

「っ、覚えてろよ、お前!?」


(なんだこの三文芝居――)


 あっさりと護斗を追い返した枸櫞のところに、男子生徒たちがやってくる。


「すげぇな、天充くん。

 あいつ昔から情緒がおかしいとこあって。

 あの威圧に怯まないなんて」

「なに、虚勢だよ。

 実際腕力でかかられたら、僕なんて即ばたんきゅーだし。

 とはいえ、ここだってそんなに治安は悪かないんでしょう?

 あいつ、泉客さんのこと好きなんかな」

「どうだか。昔っから距離の近いふたりには、違いないけど」

「ふぅん……」


*


 同日の夕刻。

 浜辺で、水に濡れた裸の童女が打ち上げられていた。

 地元の老婆がそれを見つけ、急ぎ介抱をはじめる。


*


 ただいまと呟く自分の声は、ひどく空虚だった。

 まだ父さんはいるはずなのに、あのひとは生きたままに死んでいるようなものだ。愛娘の死とともに意気消沈してしまい、引っ越しの手続きは僕が自分で調べて、金に関すること以外の多くをやるしかなかった。

 姉さんの部屋や私物の多くは処分するしかなかったし、まぁそれでもどうしてもというものは賃貸倉庫に置いてきて、しばらく。

 いずれは戻って都内へ取りに行くつもりだった――殆ど、芸能活動に関するものだ。


「――」


(今日は一日、家にいるって……)


 部屋は暗すぎて、静かすぎた。

 父の寝室はかび臭い、が、一応戸を叩いて中に入る。

 一番いやな予感が、当たってしまったらしい。

 それは天井にかかった首紐にぶら下がる、ただの肉塊だ。

 椅子が倒れているということは、それを用いたんだろう。



「結局逃げちゃったのね、この人は。

 ……あーあ、もうちょっと遊べるかと思ってたんだけど」


 暗がりの部屋を見上げる枸櫞には、《《おもちゃをひとつ失った》》、程度の薄い感慨しか湧いてこなかった。


*


「先生、天充くんはどうしたんですか?

今日ずっといないですけど」

「あぁ美岬さん、さっき連絡が入りましてね、忌引だそうですよ」

「それって」「……ここだけの話にしといてくださいね」


廊下で周囲にほかの生徒がいないのを確認し、最近編入してきたばかりの少年と懇意にしている理事長の娘へ、情報を融通する耳打ち。


「彼の、お父様です」「!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ