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【第一部更新中‼】マァメイドォル・チェインドライヴ -姫肴喰らいの首輪使い-  作者: 琉璃宿命
1.テルクの海原

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第2話 首輪と鎖

「さっき、兄弟を――お兄さんを亡くされたって言ったよな」

「私の兄は、父に殺された」

「……なんらかの、比喩ではなく?」

「少なくとも私は、そう確信しているという話。

 あなたが信じなくても構わないし、気にしなくていいこと」

「――、学園の地下に発掘場、遺跡があるのか」


 地下3階までには温水プールと海に直結した展望スペースがあり、さらに岩壁がくだっている。人工物の影がその先、かすかに見受けなくもないが、深すぎて鮮明でない。

 真上には、海抜ゼロメートル付近に港がそのまま接続していて、日差しが遮られていた。

 遺跡と港がそのまま重なっている?


「泉客さん、あんたらはいったい……」

「この程度で驚いてもらっても困るわね、これから先を見るならば」


 建屋からさらに下へ行くと、昇降機がある。

 雨天時には完全に水に浸かるため、ところどころには塩化による腐食も見受けるがきちんと動くようだ。


「定期的にメンテは入れてるけど、ここが唯一、深海へ物理的に接続するエリアだと考えてもらって構わない」


 やけに金はかかっていそうだが、それ以上の感想や感慨はない。

 まぁ、大仰な設備ではあるが――


「この下に何があるって――唄、なんの?」


*


 意識が刈り取られたことの自覚さえ、なかった。

 次に目覚めたときは、べつの場に転移したのかと錯覚しかけたくらいだ。


「知らない、海。

 ここは――人形の、なか?」


 白い人形の足元が浸かり、真下に覗いているけれど、胴体から上はどういう原理か透明化されて見えないらしい。

 この視界は、そう四肢の動きを都合よく見切るもので、全天周のモニターになっている。現代機器とはいささか勝手の違うようだ。

 コンソールと操縦桿もすぐ手元にあるが、もとあった灰色の彫刻板のようなもののうえに、解析・計測するための黒い現代機材が覆っているかたちのごっつくなっていた。

 一応黒い機材はマウントされているだけで、持ち上げて手元の操作性を拡げることはできる。ただ、やたら煩雑なのも事実。


「さっきの唄、声は。

 泉客のやつ、僕になにをさせようっての、あぁくそ!」


 ここがどこなのかもわかっていない。海面ではあるけれど、港ではなければ明かりひとつない夜景だ。


『“テルクの海原うなばら”。

 あなたが話す前に行ってしまうから』

「!」


 黒い計器のなかに、通信機構があるようだ。


『あなたをそちらへ呼んだ人魚を倒して。

 そいつは敵よ』

「いま、人魚って言った?

 そんなものどこに――」


 いくら海だって言ったって、そう想っていたのだが。

 向こうに岩礁が見え、全長三十メートル大はあろうそれが、胸から上を海面に擡げる。こっちも同じような大きさだから、スケール感には戸惑わない。


(本当だって、言うのか)


『まだ事態を受け容れない?

 こんな子が適性者てきせいしゃだなんて、嘆かわしいわね』


 美岬とは異なる、大人の女の声がした。

 鼻につくが、いまは流さなくてはならない。


「まだ攻撃も受けてないのに、こっちから仕掛けるんです?」

『でないと帰れないわよ、あなた。

 死にたくなければ、鮫人コウジン思念武器メンスマテリアルを――』

『枸櫞くんが願う武器を出して。

 剣でも槍でも、出たものがあなたの力をかたどるの』

「武器――、武器なぁ」


 平和主義ではないけれど、人からやれと言われただけでやる気にはならない。泉客美岬たちがなにを考えているか、僕にはわからないんだから。

 そうして人形の手元へ顕現したのは、


(首輪と、鎖?)


『もっと真剣にやったらどうなの!?』

「さっきからうるさいですね、誰なんですその人。

 気が散るんですよ」


 まぁ出てしまったものはしょうがない。

 首輪を人魚へ向けて投擲する。

 岩礁にのぼったばかりの人魚だったが、それを尾で中空に弾き上げた。


「!」

『久原さんのことはいいから、気を取られてるとやられる!』

「――」


(こんなところへ連れ出しておいて、戦えと?

 まだ人魚のが、素直に仲良くできそうな)


 ただ、いまので俄然、《《欲しくなった》》。

 開いた口顎が、わずかに張る。


『オイリュトミーグラフの同調率が上がっている、

 四十パーセント台だったのが一気に七十パーセントオーバー、これは? 計器の故障ではない?』

『非常に高い数値ですね、ほかの適性者はまだ出していないはず』

『鮫人の起動推奨指数は十五パーセントといったところだけど、なんでこんなに――異常だわ』

『やはり枸櫞くんは特別です』


 オイリュトミーグラフ。……たしかパワードスーツと搭乗者の同調指数を計測するために設けられた単位のはず。

 このオーパーツじみたヘンな人形にもあてられるのか。

 美岬さんは僕を褒めているらしいが、それがどう凄いことなのか、こちらには微塵も理解できない。


『人形の口角が展開している?』

『そのようです、モニタリングを続けてください。

 枸櫞くん、あなたなりのやり方でいい。

 その人魚、“ネーレイス”を倒せば、元の世界へ戻れる』

「――、そう。

 なんでもいいけど」

『え?』


 すでに枸櫞の頭の中は、飢餓という記号に埋め尽くされていた。あのやわそうな人魚の血肉、その全身をむさぼり喰らいつくすことが、いまの自分のしたいことだと、疑う余地を持たない。

 美岬たちの猥雑な言い分など二の次で、あの人魚の血肉を喰らうための口が開いてしまった。


 人魚がさっきまで岩礁の裏にまわり、なにかを言おうと――いや、唄おうとしている。


『ネーレイスの唄、枸櫞くん、気を付けて!』

「また、唄?」


 そうだ、さっき地下へ行こうと昇降機に乗った時、聞こえたあれと同じ。

 聞き覚えがあるというか、声の質が姉さんに似ている。

 ああ、ちょっと許せないな、それは。


『人形のほうまで唄いだした!?

 こんなの、ありえない!』

『――、覚醒、ともまた違う。

 枸櫞くん、なにをしたの!?』


 どうせ唄うなら、真似るんじゃなく、本物を蹴落とす野心を――でなければ、おまえは天充檸檬オリジナルに敵わないんだ。

 僕はそれを、せいぜいお前なんかより弁えているさ。男の僕にできること、できないことを。

 僕は返す唄に憤りを込めて、抗議する。

 人魚からの唄は対抗するかのように強まり、かし、途中で自信を喪失した瞬間を、確として僕は捉え……主体を見失った哀れな人魚を喰らうことに、いっさいの躊躇いが失せた。



 今度こそ首輪は、人魚の首にはまって、海原を引き回す。

 怯んだ人魚の前へと駆け寄った白い人型は、岩礁へと人魚を押し倒し、組み伏せる。そのうなじから柔肉やわにくへ喰らいついて、一切の抵抗を許さない。

 ネーレイス、そう呼ばれた人魚の白い肉を呑みこむたび、際限ない唾液が湧いてくる。


「《《俺が上》》、《《お前が下》》だ。

 喰われたくないなら、姉さんの真似なんかするなよ?」

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