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「あんたさんも何か人の役に立つ特技や好きなことがあれば良かったんにね」  作者: イチイ アキラ


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06


「ふぅん?」

 牢屋での話の記録をみて、王太子は「まぁ、良いか」と今はもう少し待ってあげることにした。前々から不思議な令嬢だとは思っていたけど。

 その有能さに目をつぶろう。

 それに何より――お友達だからだ。


 主人公(ヒロイン)は。


「打ち明けてくれるまで……もう少し、ね」

 主人公は自分と婚約者の、身分を超えた友人だ。少しばかり贔屓もしよう。

 その分。

「本当にお気の毒だけどさ……」

 と、言う王太子は少しばかり不機嫌そうに。


「レオナルド、いらないかな?」


 そう、判断した。

「よろしいので?」

 側近は確認を怠らず。それは彼は王太子の護衛としてもう三年はいた存在だからだ。それなりに王太子も心を許していたのでは、と。


「だって、駄目なやつだったからね」


 けれども王太子は不要であると、すでに。

「駄目だろ、本当に。何でよく知らない相手からもらったものを口にするかな?」

 案の定それは、不穏なスパイス――薬いり。

 他国では多少医療用としては許可されているが、この国ではまだ危険視していた。まだまだ医療では遅れをとる国だからだ。

 先んじてよく輸入したな――存在を知っていたなと、男爵家を取り調べ中だ。

 医療に強い国の報告まちであったのだが、今回のレオナルドは「被験者」としてその国に贈る――送ることにした。

「ちょうど良くない?」

 彼は被害者で、かわいそうかもしれないが、同情できないところもあるのだ。


「何より、レオナルドには婚約者がいたのに。それを裏切るやつなんて……必要なくない?」


 すべてはそこに。


「ですね」

 側近も今は婚約者がいたのですんなり王太子にうなずいた。ひっそりと彼もキャスリーンが言うところの攻略対象だった。

「それに使用した呪物、あれだってさ……」

 王太子がレオナルドを完全に切ったのはそこにある。

 薬入りのクッキーなどは確かに危なかったが。毒味係りたちにはこれからも迷惑をかけるだろう。


 けれどもアイテム。

 あの指輪。

 あれだけはいただけない。使用者も、その――対象者も。


「あの手のアイテムは、本人の意思さえしっかりしていればかからないものだ」

 現に彼女が狙っていた自分や他の攻略対象者とやらには、その効果はなかった。発動すらもしなかった。


「あの手のアイテムに引っかかった時点で、失格でしょ?」


 婚約者だけを一途に思っていたら意味がないアイテムだったのだ。

 レオナルドは自分に好意を向けてくる相手に心をぐらつかせた。少しくらいならと、婚約者を裏切った。

 キャスリーンの可愛らしさは確かだった。それに下心を抱いたのが。


 少しくらい――少しすらも、それが許されるわけがない。


 彼の自業自得だ。

 婚約者第一の王太子の信頼を失い、その護衛であった地位を失い、自分を受け入れてくれていた婚約者を失った。


 レオナルドの婚約者のパルミラ伯爵令嬢は、伯爵令嬢でありながら侍女科目を受けていた。だから忙しかったのだ。


 パルミラ嬢は将来、王太子妃の侍女にならないかと推薦を受けていたのだ。


 そうなれば護衛であるレオナルドと夫婦二人で王家に仕える事ができる。

 長男でなく、爵位も不確かな婚約者の将来のことを彼女はしっかりと考えてくれたのだ。

 むしろ王太子妃の腹心たる侍女となるパルミラ嬢の婚約者として、レオナルドが選ばれた――そんな現実も。


 レオナルドもそれを知っていたはずなのに。その分彼も精進すれば良かったのに。

 いや、だからか。

 自分の方が実は下だという現実に、彼は耐えられなかったのか。


 それ故に。

 浮気を。


 多少はパルミラ嬢に嫉妬してもらいたいだなんて、そんなつまらない男のプライドもあったそうだと、報告にはある。

 王太子には、そんなつまらないプライドを持つこと自体が――つまらない。


 レオナルドは他国にて被験者に――治療を受けることが決まった。

 怪しきものを口にし、さらに呪いにかかるくらいのやわな精神では王族の護衛は務まらない。

 侯爵家もその辺りは納得している。

 跡継ぎの長男は弟を不憫だと思っているそうだし、他国から帰ってこれたらこれからも何かと援助するつもりではあるそうだ。

 見方によってはレオナルドは、被害者ではあろう。キャスリーンに選ばれてしまった被害者だ。


 キャスリーンという男爵令嬢に陥れられた――主人公が、恐れていた現実のままにバッドエンドだ。


「侯爵家には僕が(・・)レオナルドを許せないのはそういう意味じゃないと、ちゃんと伝えておいてね」

 その分、男爵家への報復がありそうだからと。

 そこのところは八つ当たりしないようにと釘を。

 王太子は――そうしたところが彼が王太子(・・・)であるところだ。責任も覚悟も、きちんと背負っている。

 そう、国中の理不尽な恨みや妬みを受ける覚悟もだ。それも王族の役目で存在理由だから。


 そしてその覚悟を同じくしてくれているのが彼の婚約者。だから愛しくてたまらないのだ。

 彼女だからこそ、王太子妃(己の隣り)に相応しい。


 レオナルドが王太子に嫌われたのは、浮気をしたのが彼だから、だ。

 レオナルドがキャスリーンをきっぱりと振り切れなかったのが悪い。


 彼の一番悪かったのは――キャスリーンに選ばれた「運」だろうか。


 ただ、きっかけが自分が道案内を命じたからと言うのもあるから。ちょっと悪いとは思っていたからレオナルドに関してはそれでこちらからもお咎め終わりとも伝えてある。

 他国で実験ともあるけれど、それは「薬からの回復実験」でもあるのだから。

 治療が終われば帰国も許してある。


 そして問題のアイテム。

 はじめはそれも男爵家が買い求めたのかと思われたが尋問により、他国の商人が持ち込んだとわかった。この件に関しては男爵家は無罪。輸入した薬も認可さえあれば良かったのが、本当のところ不運だ。少しばかり先走り、と。

 今は指輪を持ち込んだ商人を捜索中だ。すでに国から出てしまったようならば、こうしたアイテムのことは他所の国とも連携して取り締まらなければ。


 ――もしかしたら、他国からの工作員であった可能性もあるが。


 男爵令嬢が指輪を買い占めたことにより、被害が広がらなかったという形になったこともある。男爵家の功績にもなる。まさかそうなるとはキャスリーンも思っていなかったろうが。


「だから、男爵家にはこれ以上は、ね……」


 真に気の毒なのは男爵家かもしれない。


 男爵家の皆は学園に入学してから「まるで人間が変わってしまったような」キャスリーンに戸惑っていた。


「あのように他人さまの婚約者に手を出すような子じゃなかったのです」


 男爵家も、姉の嫁ぎ先の伯爵家も。

 入学前からの彼女の友人たちも、皆キャスリーンこそが何か呪われたのではないかと涙した。

 その涙を無下にはできず、王太子はきちんと調べて――本当に「人が変わった」としか、と同じように。


 それくらいに学園入学前までのキャスリーンは普通の令嬢であった。ただの、ちょっと裕福な男爵家の令嬢であった。


「あ、そういえばお嬢様……鏡を割った日から……?」

 思い出したと使用人が言い、やはり何か呪いがともざわめかれた。

 ひっそりと貴族たちは娘や妻の鏡を調べたりと騒ぎになった。もしも鏡を割ったらきちんと神殿などにおさめるようにとすら。

 鏡だけでなく長く使っているものこそ、さらに丁寧に扱うように、と。

 物を大事にするのは良いことではある。

「……まぁ、九十九神てありますわな」

 ――と、とある令嬢はひっそりとつぶやいた。真相をまたひっそりと胸に秘めながら。


 キャスリーンの――有梨花の最善は。

 せっかく生まれ変われたという機会を神に頂戴できたのだから。

 そして裕福で健康で美しく、親にも兄姉にも、友人にも恵まれたのだから。


 ただ、その幸せを噛み締めて生きれば良かったのだ。

 今、己が五体満足で幸せあることに感謝をして。


 ただ、まっとうに。


 主人公(他人)の人生や幸福や――もしもあったかもしれない恋愛を乗っ取ろうとしないで。


 中途半端にしか現実をみてなかったことこそを。




「……落としどころだよね」

 キャスリーンは修道院に。

 侯爵家にもそれで許してもらった。

 多少、男爵家と伯爵家からの詫びも送られたそうだし、彼らも弟の浮気も悪いと心の中では思っていたのもある。己たちの妻や婚約者にちょっと釘も刺されて。

 それに、そもそも彼女も何かに呪われた被害者ならばと――逆にかわいそうにと侯爵家からも何かしら同情があったらしい。


 ある意味一番の被害者のパルミラ伯爵令嬢は王太子妃に仕える優良物件だから。またもっと良い相手を御用意する手配。


「私にしてみたら……エムリタ男爵令嬢に感謝するべきかも、ですね……?」


 婚約者が浮気するような相手と、むしろ判明したのだから。


「結婚してから、呪いや怪しいものに負けられたら困りましたし。そういうお方だと早く知れて……育ちの悪い芽は早いうちに摘まないと、ですね?」


 おっとりと微笑みながらも目が笑っていない彼女には。王太子は愛する婚約者をお任せできるわぁと、むしろ彼女の株を上げた。


 

 そうしてキャスリーンは修道院に。

 その修道院は海辺にあり。

 そちらでは修道士や修道女にて「塩作り」をされていた。

 修道院で作られる塩は交易にも使われていたが、この国の食卓にも普通に流通されていた。


 当然――お清めにも。


 彼女が牢で自ら「塩作り」とも口にしたのだからと、王太子はそこに決めた。

 何か呪われているなら余計に良いかも、と。

 かの友人が「塩を撒く」と何かしらしていたのをちょっと思い出したのもある。主人公は己のそんな行動をも見られていたとそわっとしたり。


 

 キャスリーン嬢もいつか呪いが解けたら男爵家に帰って良いとしてある。

 彼女の家族たちもその日を涙しながら待っている。

 まだまだその日まで。彼女は桶に海水を汲み運ぶだろう。手に豆を作り、日に焼け肌を黒く焼きながら。




 彼女が前世からそれだけは嫌だとしていた、まさに汗水流す仕事をしながら。





 こうして……異世界転生したら現実をみましょうね、ということでしたとさ。


 悪いことを自覚なくしたとしても。罪は罪。罰は罰。ほどよい因果応報を目指しつつ。


 一番かわいそうなのはキャスリーンの記憶蘇るまでの人かな。でも魂は同じでしたから、もしかしたら……腹の底は誰にもわからないもので。でもまぁ、節々で、彼女は前世したこととかちょっと反省はしていたし、誰かを応援したり冤罪したくなかったりした子なので、情状酌量で。さもなかったら……。(でも汐汲みはめちゃくちゃ重労働かと。山椒大夫)


 男爵家はぎりぎりお取り潰しにならず。伯爵家もそのうちほとぼり冷めたら、ですが……かわいそうだけど。もしかしたら彼女の介入がなかったらもっと悪くなっていたのが、この程度で済んだ、だったのかもしれません…もしかしたら。名前もないけど伯爵家の跡取り様が一番の漢前。


 あとは――浮気、ダメ、絶対。おクスリもっとダメ。な、お話でした。当たり前だけど、ダメです。


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