詩小説へのはるかな道 第103話 急がば回れの猫
原詩: 遠回りの道に迷い込めば
急げと言われて 急いでみましたが
靴の底がすり減って 穴があきました
言われた通り まっすぐな道を進みましたが
まっすぐすぎて 変わらぬ景色が続きます
もう嫌です
次の曲がり角 右に曲がりましょう
遠回りの道に ひとり迷いこみ
ゆっくり歩けば 知らない景色ばかり
なぜ 急ぐのでしょう
なぜ まっすぐな道ばかり選ぶのでしょう
急がば回れなんて 言葉もありますし
もう少しだけ 遠回りしてみます
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詩小説: 急がば回れの猫
わたしの家の白猫・ロンには、ひとつの特技があります。
それは「急がば回れ」を実行していることです。
もちろん彼がことわざを理解しているわけではありません。
でも、彼の行動を見ていると、どうしてもそう思わされるのです。
ある朝、わたしは寝坊してしまいました。
このままでは完全に遅刻です。
「ロン、ごめん! 今日はカリカリだけで我慢して!」
慌てて準備を整え、家を飛び出そうとした時、あるはずの場所に自転車の鍵がありませんでした。
「どこ!? ない、ない!」 パニックになりながら、わたしは狭い玄関を右往左往しました。
すると、ロンが玄関マットのど真ん中に、まるで重石のようにどっしりと座り込んだのです。
「そこ、どいて! 探してるんだから!」
わたしがロンをどかそうと手を伸ばすと、彼はふいっと身を翻し、わたしの脱ぎ捨てた上着の上にお座りしました。
「ちょっと、大事な服なのに!」
ロンをどかし、その上着を持ち上げた瞬間——そのポケットからチャリンと音がして自転車の鍵が落ちました。
同時にわたしは思い出しました。
昨晩、帰ってきたとき、会議の資料をどうまとめようか考えていて、いつもは玄関の靴箱の上に置く自転車の鍵を、つい上着のポケットに入れなおしてしまったのです。
大変、昨日遅くまでかかって用意した今日の会議の資料がキッチンのテーブルに置きっぱなしです。
ロンは満足げに一度だけ鳴くと、静かに丸くなりました。
また別の日。わたしは溜まった仕事を片付けようと、リビングに書類を広げ、パソコンを叩いていました。
「よし、あとこれだけ……!」
完成まであと一歩というところで、わたしは資料をスキャンするため立ち上がろうとしました。
配線コードが複雑に絡まった足元を最短距離でまたいで通ろうとした、その時です。
ロンが、わたしの足首に体当たりをしてきました。
「わっ! 危ないじゃない、ロン!」
バランスを崩したわたしは、思わずその場に座り込みました。
すると、わたしのすぐ目の前で、コーヒーの入ったマグカップが、ぐらりと揺れて止まりました。
もし、ロンに邪魔されず、あのままコードをまたいでいたら、 足がコードに引っかかり、わたしは転倒し、パソコンにはコーヒーがぶちまけられ、数時間の努力は一瞬で水の泡になっていたかもしれません。
ロンは、わたしが焦りのあまり、足元の危険に気づかずにいることを見抜いていたのです。
「急いでるときは、近道をするより、いつもの行き方のほうが、結局は早いのよね」
わたしがそう言うと、ロンは「ようやくわかったか」とでも言うように、ゆっくりとまばたきをしました。
そんなロンを見ていると、急いで失敗するのはいつもわたしで、ゆっくり構えているのはいつもロンです。
ある夜、わたしはロンに言いました。
「ねえロン、わたしも少しは見習ったほうがいいのかな」
ロンは眠そうに目を細め、わたしの膝にぽすんと乗りました。
わたしはロンの背を撫でながら、小さく呟きました。
「急がば回れ、だね」
ロンは返事の代わりに、静かに喉を鳴らしました。
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わたしの詩小説をもとにAI君が詠んだ連作短歌です。
連作短歌:急がば回れの猫
一 鍵の朝
玄関に
重石のように 座る猫
忘れた鍵の
気配を示す
焦りつつ
上着を持てば 音ひとつ
昨夜の思案
まだ袖に残る
二 コードの罠
最短を
行こうとしたら 足もとで
ふいにぶつかる
白き影あり
倒れずに
済んだ理由を 知るころに
マグの揺れさえ
静かに戻る
三 猫の教え
急ぐほど
見えなくなると 知るたびに
ロンのまばたき
ゆっくり光る
近道は
いつも心の 焦りから
遠回りこそ
まっすぐな道
四 夜の膝の上で
撫でながら
問いかけてみる わたしにも
回り道する
余白はあるか
喉鳴らす
返事のような あたたかさ
猫の時間に
身をあずければ
詩をショートショートにする試みです。
詩小説と呼ぶことにしました。
その詩小説をもとに詠んでくれたAI君の連作短歌も載せます。




