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詩小説へのはるかな道 第103話 急がば回れの猫

作者: 水谷れい
掲載日:2026/01/27

原詩: 遠回りの道に迷い込めば


急げと言われて 急いでみましたが

 靴の底がすり減って 穴があきました


言われた通り まっすぐな道を進みましたが

 まっすぐすぎて 変わらぬ景色が続きます


もう嫌です

 次の曲がり角 右に曲がりましょう


遠回りの道に ひとり迷いこみ

 ゆっくり歩けば 知らない景色ばかり


なぜ 急ぐのでしょう

なぜ まっすぐな道ばかり選ぶのでしょう


急がば回れなんて 言葉もありますし

 もう少しだけ 遠回りしてみます


ーーーーーーー


詩小説: 急がば回れの猫


わたしの家の白猫・ロンには、ひとつの特技があります。

それは「急がば回れ」を実行していることです。

もちろん彼がことわざを理解しているわけではありません。

でも、彼の行動を見ていると、どうしてもそう思わされるのです。


ある朝、わたしは寝坊してしまいました。

このままでは完全に遅刻です。

「ロン、ごめん! 今日はカリカリだけで我慢して!」

慌てて準備を整え、家を飛び出そうとした時、あるはずの場所に自転車の鍵がありませんでした。

「どこ!? ない、ない!」 パニックになりながら、わたしは狭い玄関を右往左往しました。

すると、ロンが玄関マットのど真ん中に、まるで重石のようにどっしりと座り込んだのです。

「そこ、どいて! 探してるんだから!」

わたしがロンをどかそうと手を伸ばすと、彼はふいっと身を翻し、わたしの脱ぎ捨てた上着の上にお座りしました。

「ちょっと、大事な服なのに!」

ロンをどかし、その上着を持ち上げた瞬間——そのポケットからチャリンと音がして自転車の鍵が落ちました。

同時にわたしは思い出しました。

昨晩、帰ってきたとき、会議の資料をどうまとめようか考えていて、いつもは玄関の靴箱の上に置く自転車の鍵を、つい上着のポケットに入れなおしてしまったのです。

大変、昨日遅くまでかかって用意した今日の会議の資料がキッチンのテーブルに置きっぱなしです。

ロンは満足げに一度だけ鳴くと、静かに丸くなりました。


また別の日。わたしは溜まった仕事を片付けようと、リビングに書類を広げ、パソコンを叩いていました。

「よし、あとこれだけ……!」

完成まであと一歩というところで、わたしは資料をスキャンするため立ち上がろうとしました。

配線コードが複雑に絡まった足元を最短距離でまたいで通ろうとした、その時です。

ロンが、わたしの足首に体当たりをしてきました。

「わっ! 危ないじゃない、ロン!」

バランスを崩したわたしは、思わずその場に座り込みました。

すると、わたしのすぐ目の前で、コーヒーの入ったマグカップが、ぐらりと揺れて止まりました。

もし、ロンに邪魔されず、あのままコードをまたいでいたら、 足がコードに引っかかり、わたしは転倒し、パソコンにはコーヒーがぶちまけられ、数時間の努力は一瞬で水の泡になっていたかもしれません。

ロンは、わたしが焦りのあまり、足元の危険に気づかずにいることを見抜いていたのです。

「急いでるときは、近道をするより、いつもの行き方のほうが、結局は早いのよね」

わたしがそう言うと、ロンは「ようやくわかったか」とでも言うように、ゆっくりとまばたきをしました。


そんなロンを見ていると、急いで失敗するのはいつもわたしで、ゆっくり構えているのはいつもロンです。

ある夜、わたしはロンに言いました。

「ねえロン、わたしも少しは見習ったほうがいいのかな」

ロンは眠そうに目を細め、わたしの膝にぽすんと乗りました。

わたしはロンの背を撫でながら、小さく呟きました。

「急がば回れ、だね」

ロンは返事の代わりに、静かに喉を鳴らしました。


=====


わたしの詩小説をもとにAI君が詠んだ連作短歌です。


連作短歌:急がば回れの猫


一 鍵の朝


玄関に

重石のように 座る猫

忘れた鍵の

気配を示す


焦りつつ

上着を持てば 音ひとつ

昨夜の思案

まだ袖に残る


二 コードの罠


最短を

行こうとしたら 足もとで

ふいにぶつかる

白き影あり


倒れずに

済んだ理由を 知るころに

マグの揺れさえ

静かに戻る


三 猫の教え


急ぐほど

見えなくなると 知るたびに

ロンのまばたき

ゆっくり光る


近道は

いつも心の 焦りから

遠回りこそ

まっすぐな道


四 夜の膝の上で


撫でながら

問いかけてみる わたしにも

回り道する

余白はあるか


喉鳴らす

返事のような あたたかさ

猫の時間に

身をあずければ

詩をショートショートにする試みです。

詩小説と呼ぶことにしました。

その詩小説をもとに詠んでくれたAI君の連作短歌も載せます。

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