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第九話 「好奇心は魔女をも動かす」

「絶対駄目!!!」


ガレットが、まるで仁王立ちのように、十頭身はあろうかというその傲然たる長身で、部屋の出口を塞いでいた。


「あああん……どうしてよぉ……少しだけ……少しだけだから……!」

スレイアは、お菓子をねだる子供のように、ベッドの上でその白い長脚をばたつかせ、甘えた声で懇願した。


「駄目なものは駄目です! ご自分の背中がどうなっているか、お忘れですか?!」


「そうですわ、スレイア様」

傍らで薬布を交換していたシンシアも同意する。

「今、あなた様に最も必要なのは、安静にして傷を癒やすことです」


アリシアは一歩前に進み、身を起こそうとするスレイアの肩をそっと押さえた。

「審判の場には、セリーヌ様がいらっしゃいます。何も、問題は起きませんわ」



「それに……」

アリシアは声を潜めた。

「先程入った情報によりますと、スカーロディア陛下もまた、水晶球を通じて、審判の全工程をお見守りになられている、とのことです」


その御名を聞き、スレイアの動きが、ぴたりと止まった。

「……陛下が?! スカーロディア陛下も……いらっしゃるの?」



「そうだよ~」

傍らで果物を剥いていたルーシーが、軽やかな口調で会話に割り込んだ。

「その時の光景、凄かったんですよぉ。グランディの民衆は、陛下が降臨なさったのを見て、女神様だと勘違いして、いきなり全員でひざまずこうとしたんですから。そしたら陛下は、優しい力で、ひざまずこうとした全ての人を支えて、お止めになったんです。それで、広場は一瞬で、しーんとなりましたのよ」




「……な、なんですって――!!!」

スレイアは、目を丸くし、信じられないといった様子で叫び声を上げた。



「ひゃっ!」

ルーシーは、スレイアの反応に素っ頓狂な声を上げた。

「お、驚かさないでくださいよ、スレイア様! そんなに大きな声を出して……」



「大きくもなるわよ!」

スレイアの声は、信じられないといった響きで震えていた。

「あなた、分かってないの? アルタナスの魔王城が、ここからどれだけ離れているか……」



彼女は、一言一句を区切るように、ほとんどありったけの力で叫んだ。

「――ざっと……さ、三千キロ以上も、離れているのよ!」



その言葉に、部屋は、水を打ったように、静まり返った。

四人の副官の表情が、その瞬間、完璧にシンクロする――呆気にとられた顔から、理解した顔へ、そして、最終的に、幽霊でも見たかのような、純粋な驚愕の表情へと。

ルーシーの手から、剥きかけの果物が、「ぽとり」と、地に落ちた。


「ちょっと! 私の果物が!――」


「え? あ……あはは」

彼女はそこでようやく我に返り、慌てて床に落ちた果物を拾い上げると、水魔法で綺麗に洗い清める。

「はいはい、綺麗になりましたわよ~」



「ちっ……」

スレイアは、再び瑞々しくなったその果物を一瞥したが、受け取ろうとはしない。「自分で食べなさいよ」



部屋は、再び、しばしの沈黙に包まれた。

やがて、スレイアの声が、その沈黙を破った。その声色には、どこか探るような、そして隠しきれない期待が滲んでいた。

「……ねぇ、私たちも……見に行ってみない?」



アリシアは眉をひそめ、口調に微かな躊躇いと懸念を滲ませた。

「ですが……セリーヌ様は、どうか、安静になさるように、と……」



「こっそり見に行きましょうよ!」

スレイアは即座に言葉を継ぎ、抑えきれない好奇心が溢れていた。

「ここからすぐのところに、すごく高い時計台があるの! 見晴らしも最高よ!」

彼女はウィンクし、仲間を誘惑するかのように言った。

「だから……こっそりあそこまで行って、てっぺんから様子を見るだけ。ね、いいでしょう?」


副官たちは、互いに一瞬だけ視線を交わした。

アリシアの氷の瞳に、ほんの一瞬、諦めがよぎった。

シンシアは、どうしようもないといった風に、小さく肩をすくめた。

ルーシーの目には、明らかに「面白そう!」という光が輝いていた。

そして、ガレットは……ただ、力強く、頷いた。

——四対四の投票の結果、セリーヌ様の命令は、満場一致で、否決された。

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