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第四話 「生贄の民」

セリーヌが壇下の民衆に静粛を促すように手を掲げる。広場は再び死のような静寂に包まれた。

「ベレーラ・グランディ。グランディ帝国の元君主として問う。アルタナス合衆国への侵略行為、それは、あなた個人の意志か。あるいは、大臣らによる煽動の結果か」



ベレーラは瞼を上げ、静かに答えた。

「――その、双方です」



「では、答えなさい」

セリーヌは畳み掛けるように問うた。

「あなたがその決断に至った動機は、何か?」


ベレーラは、口の端を歪め、自嘲の笑みを浮かべた。

「動機、ですか……。ご覧の通り、グランディの資源は貴族階級に独占され、社会全体が絶望と殺伐とした空気に満ちておりました」

「この状況で、汚職役人を数人処刑したところで、すぐに新たな害虫がその地位に取って代わる。根本的な解決には至りません。発想を転換するべきです」


セリーヌの眉がひそめられた。「……発想を転換?」



「ええ」

ベレーラの声は一切の感情を失い、まるで完璧な答案を読み上げるかのように平坦になった。

「『魔族討伐』を大義名分に、全国で徴兵を行う。それこそが、最も効率的な解決策でした。そうすれば、貴族の私財を合法的に軍資金として徴収でき、搾取され尽くした『過剰人口』を戦場へ送り、社会安定のための『生贄』として消耗させられる」

「そして何より重要なのは、『魔族討伐』の旗を掲げれば、民衆の憎悪を容易に煽り、支配階級への不満を、外部の『敵』へと転嫁させ、以て、私の王権を盤石なものにできる、ということですわ」


その、「生贄」という言葉が、死火山の火口に投下された爆弾のように、一瞬にして、凄まじい衝撃を巻き起こした!

壇下にいた数万のグランディの民衆、その顔に浮かんだ表情は、驚愕と不信から、一瞬にして、魂さえも焼き尽くさんばかりの怒りと憎悪へと変わっていった!



「き、貴様……我らを何だと思っている!!」

「我らは……好き勝手に使い潰される、生贄だったというのか?!」

「この蛇蝎の如き毒婦めが――!」

「娘を返せ! この暗君め!!!」

広場の空気は、完全に沸騰した! 民衆は口々にベレーラの罪を罵り、手にした石ころ、腐った野菜、果ては自らの靴までもが、次々と投げつけられた!

しかし、それら全てが、柔らかな光を放つ水晶の障壁に触れた瞬間、澄んだ「シャララ」という音と共に弾かれ、壇上の誰一人として傷つけることはなかった。


「――静粛に!!!」

セリーヌの声は雷鳴のように轟き、そこに込められた精神的な威圧は、津波となって民一人一人の魂を洗い流した! 沸騰していた広場が、次の瞬間には死んだような静寂に包まれる!

「アルタナス合衆国へ侵攻した動機については、あなたの証言で確認が取れました。しかし、あなたの罪はそれだけではない。我らが掴んだ情報によれば、あなたとグランディの貴族階級は、更に多くの非道な法令を公布している!」

「一つ――重税を課し、民から過酷な経済的搾取を行ったこと! 一つ――権力を濫用し、法の御名の下、『合法的』に、男性を貴族の私有物として徴収したこと!」

セリーヌの眼差しが、この上なく鋭くなる


「答えなさい、ベレーラ! この、命を芥と見なす暴挙は、あなた個人の命令か! それとも、あの貴族共が、あなたを欺いて犯した罪か!!」

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