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第一話 「審判の幕開け」

夜明けの陽光が、ルカドナの平民区に優しく降り注いでいた。


しかし、今日の町は奇妙な静寂に包まれている。人々は申し合わせたように手中の仕事を置き、まるで見えざる何かの呼び声に導かれるかのように、沈黙した人の流れとなって、一つの場所――貴族区、グランディ宮殿前の広場――へと、ゆっくりと向かっていた


広場の中央には、巨大な審判台がそびえ立っている。


あの見る者を慄然とさせる『贖罪の祭壇 (アラ・クリシス)』が古代の巨獣の骸骨のように審判台を囲み、『星辰仲裁官 (アルビテル)』たちがその両脇に分かれて立つ。貴族区の上空は分厚い暗雲に覆われ、一帯はひどく陰鬱で、息が詰まるようだった。

やがて、蒼月魔導団の団員たちが天から舞い降り、杖の先端から放たれた光が半透明の壁を形成し、審判台全体を外界から隔絶した。



「おお……これが、アルタナスの魔法……!」

「今までの……グランディ貴族様方の『処刑ショー』とは、全く違うな……」

「ああ、昔の審判なら、ここは俺たちに槍を向ける兵士で埋め尽くされていたはずだ」

人々の間から、抑えきれない感嘆と、それに続く毒づくような声が響く。

「グランディの貴族は、魔法と言えば、我々を嬲りものにして楽しむことしか知らん連中だったからな!」


「お母さん、お母さん」

一人の子供が、母親の服の裾を引いた。その声には、不安の色が滲んでいる。

「あの、お喋りな台座もあそこにあるよ……昨日、スレイアっていう綺麗なお姉ちゃんが……今日、もしかして、また叩かれちゃうの?」

「お馬鹿さん」

母親は子供の頭をそっと撫でた。その声は、抑えつけた憎しみで、微かに震えていた。

「今日、罰を受けるのは、あのお姉ちゃんじゃないわ。今日罰を受けるのは……お前の父さんを、その手で殺した、あの悪魔共よ」

子供の目に、その歳には不相応な憎しみの光が宿った

「あの性悪な貴族……死んじまえ!」




「許せない!」


「あの貴族共は、皆殺しだ!!」


「血をもって償わせろ!!」


「殺された家族の、仇を討つんだ!!」


審判はまだ始まってもいないというのに、広場に集ったグランディの民の怨嗟は、既に見えざる濁流と化していた。



その、怨嗟の頂点に。

落ち着いた足取りで、セリーヌが厳かに審判台に上がっていく。その後ろには、副官カイエン、空騎兵団長のフィリスたちが付き従っていた。


「――セリーヌ統帥様!!!」

「どうか我らの正義を! 貴族どもを制裁してください!」

「正義の制裁を――!」


山鳴りのような祈願が空に響き渡る。セリーヌは、見上げる一枚一枚の、熱狂と期待に満ちた顔に、穏やかでありながらも複雑な笑みを浮かべ、彼らにそっと手を振った。


その後、彼女は一つ咳払いをすると、ゆっくりと右手を掲げる。

その瞬間、信じられない光景が繰り広げられた――前秒まで沸騰する海のような喧騒に満ちていた広場が、一瞬にして、時間が止まったかのような死の静寂に包まれたのだ!

民衆全ての視線は、近しい信仰にも似た崇拝と畏怖を帯びて、セリーヌの一挙手一投足に集中していた。


セリーヌは審判台に上がると、万雷の注目の中、広場の民衆に向かって深く身をかがめて礼をした。


「私のような異邦人に、信を寄せてくださり感謝します。」

彼女の声は魔力によって増幅され、広場の隅々まで届いた。


「ご存じの通り、私はアルタナスの魔族。本来であれば、グランディ帝国の内政に手を出すべきではないでしょう。我らの立場は、終始一貫、我が国を侵略した元凶を討つことのみ。此度の審判もまた、真実を白日の下に晒し、罪あるべき者に、然るべき報いを受けさせるためのものです。どうか皆様、冷静に、最後までお見届けください」


やがて、セリーヌは優雅な仕草で腰元の魔法のポーチから、微かな光を放つ水晶球を取り出した。彼女は歩を進め、審判台の中央にある机の前までやって来た。水晶球をその上に静かに置くと、ゆっくりと目を閉じ、ほとんど祈りにも似た姿で、古の呪文を低く詠唱し始めた。

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