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第五話 「誤算」

「条件?」

フレイムの氷のような青い瞳に、面白がるような色がよぎる。

「面白い。聞かせてもらいましょうか」


相手がすぐに手を下す気がないと見て、典獄長は内心で安堵の息を漏らした。

「そ、そうです……ご覧の通り、私が……ええ、私がまず、お歴々に相応しい部屋を用意するため、掃除と整理をせねば……」


「ほう? では、帝国の貴族の方々に、この寒風吹きすさぶ門前で、あなたが悠長に部屋の準備を終えるのをお待ちいただく、と?」


「それには及びません! まずは街へ戻って食事でもなさっては? こちらの準備が整い次第……」


(気遣い? ついさっきまで我々を罵っていた人間が、今度は我々の疲れを心配する? 面白い……)

「結構よ」

フレイムは彼女の多弁を遮った

「食事より、別のことに興味があるの」


彼女は一歩前に出ると、囁き声で尋ねた。

「さっき、グロリア公爵から聞いたのだけれど……あなた、この監獄で、随分と『良いこと』をしてきたそうね?」


フレイムの言葉はそよ風のように軽やかだったが、典獄長の耳には青天の霹靂だった。

フレイムは身を起こし、その顔から笑みは完全に消え失せ、声は氷槍と同じくらい冷え切っていた。

「――教えなさい。その『良いこと』とやらを」


もはや問いではない。命令だ。典獄長が咄嗟に言い訳をしようとした、その時――腰と腹に、骨まで突き刺さるような激痛と冷気が走った!


彼女は恐怖に顔を歪めて見下ろす。美しく、しかし死の気配を纏った霜が、目に見える速さで腰から下へと広がり、「ミシミシ」と凍結音を立てていた!


「ま……待て! 魔導団の小娘、き、貴様、何をしようと!」


霜は既に胸元まで広がり、血さえ凍てつかせるような寒さに、典獄長は甲高い悲鳴を上げた。


しかし、フレイムは聞こえぬふりをし、ただその氷のような青い瞳で、女を静かに見つめている。

「最初から、この監獄には何かあると疑っていた。そして、先ほどのあなたたちの反応が、私の推測を裏付けた」


典獄長の悲鳴が最高潮に達した、その時。フレイムの眉間に、ふと、苦渋の色が浮かんだ。

(ちっ……アリシア様の命令は『待機』。これ以上の“尋問”は、命令違反、か……!)



言葉が終わると同時に、彼女は忌々しげに舌打ちをし、軽く指を鳴らした。

刹那、致命的な氷槍も、骨身に染みる冷気も、典獄長の身体を苛んでいた霜さえも、一瞬にして霧散した。


魔法が解かれた後、急激な温度の変化に、その肥え太った身体は篩のように震えが止まらず、汗が瞬く間に制服をぐっしょりと濡らした。




「き、貴様……」

女は床に突っ伏したまま、怨嗟の眼差しでフレイムを睨みつけることしかできなかった。



フレイムは彼女を見下ろし、その声には苛立ちと、最後通牒とも言える響きが含まれていた。

「今すぐ協力することをお勧めするわ。私にできるのは、ここまでよ。 さもなくば、アリシア様がスレイア総領を連れてきた時、あなたたちに選ぶ機会はなくなる」


だが、その警告は、典狱長の耳には別の意味で届いていた。

(ま、魔法を解いた……? 私を殺す勇気がないのか? やはり、さっきのはただの脅しか!)

その考えは、彼女の恐怖を瞬時に吹き飛ばした。典獄長は震える足で立ち上がり、再び、あの傲岸不遜な表情を取り戻していた。


「ふん、脅しのつもりか? 私の言葉が条件だ。この貴族の方々は私が預かる。後で上官に申し開きができなくなるのは、お前たちの方だぞ」



彼女の扇動的な演技が最高潮に達した、その時。気怠げで、しかし明らかな不興を含んだ声が、近くの転移門から響いた。

「あらら……どうしたのかしら! ここは随分と騒がしいわね!」


二つの影が、魔法陣の光の中から現れる。スレイアの妖艶な顔は、今や氷のように冷え切っていた。彼女は邪魔な貴族を手で軽く払いのけると、混乱を極める現場を一瞥し、最後に、今まさに「熱演」中の典獄長に視線を落とし、その眉を深くひそめた。


アリシアがそのすぐ後に続き、この惨状を見ると、即座にフレイムへと問いかけるような視線を送った。


(これは、どういう状況?)


フレイムはその視線に気づくと、ただ、どうしようもないといった風に、そして僅かな悔しささえ滲ませて、静かに首を横に振った。


(話せば長くなります、アリシア様)

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