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第二話 「鉄枷の戦乙女」

塩辛い海風が天地に満ち、魔導師たちの純白の法衣の裾を巻き上げる。

目の前にある孤島の監獄は、一切の生者を拒絶する黒い墓標だ。黒曜石のみで築き上げられ、深まる夜の帳の下で、月光も潮騒も、その内に呑み込んでしまったかのようだ。荒れ狂う怒涛が、その足元の岩礁を絶えず打ち、喰らい、耳を聾するほどの轟音を立てる。


監獄の重々しい鉄門の前で、典獄長らしき制服を着た、肥え太った女が腕を組んでいた。剥き出しの肌は長年潮風に晒されたせいで赤く、荒れており、吐き気でも催したかのような軽蔑の眼差しで、目の前の魔族たちを見定めていた。


「申し上げたはずです、お嬢様方」

典獄長はお役所然とした、ねっとりとした口調で言った。

「監獄は既に満員。それに、この方々は帝国の貴族様方です。帝国の司法手順に従う必要がございます」


魔導団の中から、すらりとした体躯の少女が一人、前に進み出た。氷のような青い瞳に、感情の波は見られない。

「典獄長殿、あなたの理由は自己矛盾しています。貴族が『帝国』の手順に従う必要があるのなら、彼女たちはまだ囚人ではない。よって、監獄の満員記録は無関係です。名簿を提示なさい。我々が照合します」


典獄長の顔が、瞬時に強張った。少女の的確な論理に、顔に貼り付いていた作り笑いは苛立ちへと変わる。

「名簿は帝国の内部機密です! あなた方に閲覧する資格などない!」


女は語気を強めた。まるで尾を踏まれた猫のようだ。


「帝国の土地を、今は敗者が管理している」

少女の声は変わらず静かだった。

「そして、我々は勝利者。勝利者には、新たな『手順』を定める権利がある」


「き、貴様ら……魔族め!」

典獄長はついに激昂し、最も悪意のある蔑称を口にした。

「お前たちの汚らわしい魔王城へでも連れて帰るがいい! ここは――ゴ・ミ・は・受・け・付・け・ん!」


「貴様……」

少女の指先から、一瞬、氷青色の魔力の火花が「バチッ」とほとばしる。彼女を中心に、目に見えるほどの白霜が濡れた地面を這うように広がった。

しかし、アリシアが発つ前に残した「命令を待て」という言いつけが、枷のようにその衝動を縛る。少女はゆっくりと手を下ろし、固く拳を握りしめた。爪が掌に食い込む。



「ふんっ」

少女の譲歩に気づき、典獄長の喉の奥から、脂肪を揺らすようなねっとりとした嘲笑が漏れる。

しかし、その傲慢さが頂点に達し、典獄長が更なる悪罵を口にしようとした、その時――


一声、清らかで、しかし底意地の悪い軽笑が、何の兆候もなく捕虜の列から響いた。

「ぷっ……くくっ……ははははははは!」


初めは忍び笑いだったが、それは赤熱した鋼の針のように、典獄長が作り出した優越の雰囲気を一瞬で突き刺した。その声は波の轟音を貫き、その場にいた誰もが、思わず音の源へと視線を向けた。


囚われ人の中に、一人の貴婦人がゆっくりと顔を上げるのが見えた。枷を嵌められてなお、その立ち姿は松のように真っ直ぐで、塵一つない制服には、赫々たる武功を示す勲章がいくつも下げられている。

その眉は剣の如く、眼差しは焼き入れられた鋼のように鋭い。彼女の視線は典獄長の上を通り過ぎると、まるで出来の悪い作品でも値踏みするかのように、先ほど魔力を収めた少女の上に留まった。


「てっきり、我らグランディ帝国を窮地に陥れたのは、青鬼赤鬼のごとき悪鬼羅刹かと思っておりましたが……」

女は一息つき、聞こえるか聞こえないかほどの溜息を漏らす。その吐息には、失望と自嘲が入り混じっていた。

「……まさか、己の感情一つ制御できぬ……小娘どもだったとは。ふふ、実に……つまらない」


言い終えると、彼女はもはや抑えきれぬとばかりに、ついに声を上げて笑い出した。その笑い声には絶対的な優越と軽侮が満ち満ちており、海風に乗って響き渡る。それは風の音を掻き消し、潮騒を圧し、この黒い墓標の前に、いつまでも木霊していた。

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