第十六話 「猩々緋の月」
女王陛下に心を鎮めていただいた後、セリーヌは迅速に気持ちを立て直し、グランディ王宮で起こったすべてを、スカロディア女王に詳尽に報告し始めた——
「……ご苦労でした、セリーヌ。」報告を聞き終えた女王の声には、一筋の温かみと共に、それ以上に君主としての落ち着きが籠っていた。「あなたにとって、これが困難で、試練に満ちた任務であったことは、分かっています。」
「もったいないお言葉です、陛下」セリーヌは恭しく、依然として謙虚な口調で答えた。「これは臣の務めにございます。ただ、陛下、捕虜とした罪深き旧帝国の貴族たちを、いかに処分すべきか。ご指示をいただきたく存じます。」
「魔族が過ちを犯せば、自ずと魔族の法度で裁かれる」
スカロディア女王の声は、公正にして超然とした響きを帯びていた。彼女の投影はゆっくりと手を上げ、まるで遥かなる時空の彼方から、グランディの広大な大地を、そっと指し示した。
「同じく、人族が過ちを犯せば、自ずと……人族の法度で、処分されるべきです」
女王のその言葉と眼差しに、セリーヌは何か決定的な指示を悟ったかのようだった。彼女は頭を垂れ、再び恭しく礼をすると、低い声で言った。
「はっ。臣、かしこまりました。」
「……それから、あの少年ですが」女王はふと話題を変えた。その声には、どこか悪戯っぽい響きが、僅かに隠されている。
「……彼とあなたの間には、どうやら、不思議な縁があるようですね」
その唐突な一言に、平静を取り戻したばかりのセリーヌの心臓が、どきりと跳ねた。
「えっ?」彼女は無意識に間の抜けた声を漏らし、呆然と女王の投影を見上げた。
投影の中のスカロディア女王は、セリーヌのその完全に状況を呑み込めていない表情を見て、ついに堪えきれず、「ぷっ」と噴き出した。その笑顔は、もはや君主の威厳や神の慈悲ではなく、どこか子供っぽい悪戯な光を宿し、さらには悪戯っぽく片目を瞑ってみせた。
その笑顔に、セリーヌの頬が「かあっ」と一瞬で赤くなった。女王陛下が、間違いなく何かを知った上で、この状況を楽しんでいるのだと、彼女には分かった。
◇◆◇
キャロラインの静かな小屋を出た時、陽はすでに西に沈み、血色の残光が天地を悲壮な色合いに染め上げていた。
女王陛下の慰めを受け、日記によって重くなったセリーヌの心は、まるで清泉で洗い流されたかのように、ずっと澄み渡っていた。
彼女は手にした、悲しみと約束を宿した日記帳を、ぎゅっと握りしめ、見つめた。まるで、その文字の中から、何かの導きと力を得たかのようだ。
壮麗な夕焼けをその目に収めようと、彼女は顔を上げ、深く息を吸い込んだ。だが、次の瞬間、その動きは完全に固まった。
(ん? 虹色の雲?)
セリーヌははっと目を見開いた。空は、確かに血の色をしていた。だが、その血の海の下に漂うのは、夕焼けではなく、一団、また一団と渦巻く、虹のように不気味な雲!
その光景は、まるで天空そのものが、血の涙を流しているかのようだった!
セリーヌの心臓が、どくんと重く沈む。不吉な予感が、瞬時に彼女を捕らえた!
(まさか……あの、馬鹿者が……!)
「統帥様!統帥様!!!」
一人の妖狼族の兵士の声が、彼女の驚愕を突き破り、未だかつてない慌てぶりで、こちらへ駆けてくる。
「何事だ!? スレイアに何かあったのか!?」
セリーヌの声は、瞬時に氷のように冷たく、鋭くなった。
兵士は大きく肩で息をし、その顔は恐怖に染まっている。
「はっ!スレイア様が……市民広場で……何か、奇妙な異変が!」
(異変……)
セリーヌの眼差しが一瞬鋭くなり、その表情に一抹の不安と緊張がよぎる。
彼女はすぐさま飛び立とうとしたが、最後の瞬間に、万が一の希望を抱いて振り返り、問いただした。「スレイアが胸に着けている日月の輝石の首飾りに、何か変化はあったか!?」
兵士はしばし思い出し、その顔は畏怖に染まっていた。
「月輪が……月輪が、影に半分覆われ、猩々緋色に……」
セリーヌの表情が、完全に険しくなった。もはや、一片の躊躇いもない。
「……そうか」
言葉が終わらぬうちに、彼女の姿はすでにその場から消え、ただ一道の、迅疾な残像だけが残された。




