第二十一話 「絆が灯す逆転の光」
ドワァァッ……
ドラスペルタは苦痛に咆哮した。鉄壁のはずだった暗赤色のシールドが、金色の十字星の下、目に見える速度で希薄になっていく!
パリン……!
まるで世界そのものに亀裂が入ったかのような、甲高い異音が響いた。
十字星を中心に、その領域の空間が、神の手に砕かれた鏡のように、無数の漆黒の亀裂を迸らせる!
時を同じくして、近くに到着した蒼月魔導団もまた、その神魔の激突を思わせる光景に、息をすることさえ忘れていた。
「な……なんてこと……こ、これが、セリーヌ統帥の本当の力……」ルーシーの声が、極度の驚愕に震えていた。
「呆けてる場合じゃないわ、ルーシー!スレイア様を!」アリシアの叫びが彼女を我に返らせる。
視線の先、スレイアの小柄な身体は激しく震え、胸元の日月の輝石では、滅びの〝月蝕〟が完成しようとしていた!
「総員!スレイア様へ魔力支援!暴走を食い止めろ!」
アリシアの号令一下、その場にいた千人近い蒼月魔導団の魔女たちが、一斉に魔力を燃え上がらせた!
色とりどりのエネルギーの奔流が、スレイアの胸元の輝石へと狂ったように注ぎ込まれていく!
「ん……ぅあ……」
仲間たちの力が、沸騰する体内の狂暴なエネルギーを鎮めようとしているのを感じ、スレイアの赤く染まった瞳の奥で、一瞬だけ金色が煌めいた。
眼前にいる、自らのために全力を尽くす仲間たちの姿に、言いようのない愧疚と感動が胸に込み上げてくる。
「くっ……この力……強すぎる……!抑えきれない!」
「嘘でしょ……千人近い私たちが束になっても……〝月蝕〟の進行を、僅かに遅らせるのが精一杯だなんて……!」ルーシーが歯を食いしばる。
「どうあっても……セリーヌ統帥のために、時間を稼ぐ!」アリシアが決然と叫ぶ。「姉妹たち!もう何も残すな!貴女たちの魔力、意志、その全てを――今ここで、迸らせろッ!!!」
――たとえ、この身が燃え尽きようとも。敬愛する統率者を、そして、あの背中を預けてくれた友を、守り抜くために。
「「「はぁぁぁぁぁぁっ――!!!」」」
千の覚悟が凝縮されたエネルギーの奔流が、死をも恐れずスレイアの胸元へと殺到した!
その龐大な力は、ついに不可逆の毀滅を揺るがした!〝月蝕〟の影が、極めて緩慢に、しかし確かに、薄れていく!スレイアの髪の根元で、侵食されようとしていた最後の一筋の緋紅もまた、困難に、しかし粘り強く、押し返されていく……!
……
一方、セリーヌの〝次元破碎〟が、ついに法則の臨界点を超えた。
ゴォンッ!!!
金色の十字に覆われた空間そのものが、轟音と共に崩壊、粉砕された!無数の黒いガラスのような空間の破片が四方へと飛散し、その一つ一つが虚無の気を纏っている。
その破壊的な反動に、ドラスペルタの巨躯が数歩よろめき後退した。
「ドワァァッ……コロォォォッ!!!(アアアアアアアアアアアアア――)」
無念と絶望に満ちた最後の絶叫が、響き渡った。




