第十四話 「絶望のオーラ、再臨」
眩いアクアブルーの剣光が、濁った海水の中を一閃した!巨木が利斧で断ち割られるような鈍い音と共に、ドラスペルタの巨尾が、その付け根から綺麗に両断される!
遅れてやってきた断裂の激痛に、ドラスペルタは更に凄絶な悲鳴を上げた!
「いつまでも、暴れてくれるな!」
セリーヌは水を破って飛び出すと、断ち切られた巨尾を片手で掴み、それを規格外の流星錘のように、唸りを上げて振り回し始めた!
「――いい加減にしなさい!」
嬌叱と共に、彼女はその重々しい竜の尾を、泰山圧頂の勢いでドラスペルタの顔面へと容赦なく薙ぎ払った!
ズガァァァン――!!!
真正面から「竜尾のホームラン」を受けたドラスペルタは、呻きながら後方へ吹き飛ばされ、遥か彼方の砂浜へ叩きつけられた!
セリーヌは断ち切られた尾をゴミでも捨てるように海へ投げ返す。そして、まるで手に付いた埃を払うかのように、パン、と一つ手を叩いた。
「フン、これで貸し借りなしだ、畜生めが」
己が血に染まった砂浜に倒れ伏し、ドラスペルタの巨体は絶えず痙攣している。その瞳の紅光も、次第に輝きを失っていた。
「これで、死んだかしら……」駆けつけたスレイアが尋ねる。
「さあね……」セリーヌは首を横に振る。
「どのみち、〝こうする〟方が確実でしょう」
言いながら、彼女は再び大型のエネルギー光剣を手にし、ドラスペルタの頭部へと高速で突進した。
だが、その時……!
パキッ――!
パキパキッ――!
暗赤色のエネルギー障壁がドラスペルタの躯から迸り、赤い電光がセリーヌへと襲い掛かった!
「――ッ!」
セリーヌは咄嗟に光剣をシールドに変換して防御する。
バチン!
「ぐぅっ……」
シールドは攻撃を防いだが、彼女の身体は百メートル余りも吹き飛ばされた。
「馬鹿な!この力は……」
セリーヌの肌を、あの忌まわしい記憶と全く同じ、絶望的なオーラが撫でた。
「こいつ、なぜ……!あの時の、エドと同じ気を……!」
スレイアもまた、信じられないものを見たかのように、その美しい瞳を大きく見開いていた。
フゥゥ……
ドラスペルタの瞳に、再び不気味な紅光が宿る。
頭部から絶えず流れ落ちる紫黒色の血液が、この巨獣の、既にいくらか欠損した顔を、ことさらに、獰猛に見せていた。
ドワァァゥゥゥゥ……コロォゥゥゥゥゥゥゥ!!!(アアアアアアアアアア――)
凄絶な悲鳴!ドラスペルタ独角そのものが、内側から発光を始めたかのようだ。
パキィン――!パキィィン――!
続いて、眩い純白の聖なる光が、しかし、どこか不吉な破壊の波動を伴い、蜘蛛の巣状の亀裂から漏れ出してくる。その明滅の周期は見る見るうちに短くなり、まるで心臓の鼓動が限界まで加速していくように――何か、恐るべき存在が、その中で覚醒しようとしている!
セリーヌの脳内で警鐘が鳴り響いた。
「こいつ……何をする気!?最後の足掻きか!?」
ゴゴゴゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴ――!
九幽の冥府から響くような、重く、圧迫感に満ちた轟音が、突如として世界を支配した。人工島全体が、それに伴い激しく震え始める!
レニ副統領の、極限の驚愕に満ちた絶叫が、緊急通信チャンネルで炸裂した。
「せ、セリーヌ統帥様!!う、海が……海が……!!」
セリーヌの胸が、ずしりと沈んだ。
「海がどうした!?はっきり話しなさい!」
彼女はレニの恐怖の源泉を辿り、猛然と、背後の人工の海へと振り返った――
ただ一目、見ただけで。その深い藍色の双眸が、驟然と凝固した。
視線の果て、天を覆い隠し、高さ百メートルにも及ぶ、漆黒の巨大な津波が、万物を呑み込まんとする破壊の気勢を帯びて、この人工の楽園へと、山を排し海を倒すが如き勢いで迫っていた!!!




