表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/181

第七話 「計画の綻び」

時を同じくして、ヴァイナのオフィス。ホログラムの中のモネイアラは、静かにヴァイナの詳細な報告を聞き終えると、その絶世の顔に、稀に見る険しい色を浮かべていた。


「全ての異変の源流は……あの眠りこけている人間の小僧……エド・ウォーカーにある、と?」

彼女の声は低く、危険な響きを帯びていた。


「はっ。全データの照合から判断するに……恐らくは、間違いなく。」

ヴァイナ博士は恭しく答えたが、その口調には、推測の色が滲んでいた。



その言葉が終わるや否や、通信の向こう側で、モネイアラの本体が、猛然と手を振り上げ、激しく叩きつけた!



ゴォンッ――!!



凄まじい轟音が、通信機越しに強烈なソニックブームとなって炸裂する!目の前にあった極上のローテーブルが、予兆もなく、無形の恐怖の力によって、原初の粉末へと砕け散った!




「私が百年の心血を注ぎ、無数の資源を投じて、ようやくこの段階まで進めた『計画』が……」

「……たかが、どこからともなく現れた人間の小僧一匹のせいで、水の泡と化すところだったと!?」

ホログラムの向こうから伝わる、喉を締め上げんばかりの実質的な殺意に、ヴァイナは心の中で慄然とし、即座に沈黙した。

しばしの後、モネイアラは感情を制御し、声はいつもの、冷たく、一切の反論を許さないものに戻っていた。



「『サンプル・ゼロ』に、これ以上、制御不能な異常事態が発生した場合、最終破壊プロトコルの起動を許可する。」

「だが、今、お前の最優先任務は、抽出した全ての『複合型活性培養液』を、直ちに最高セキュリティレベルのA-01保管エリアへ移送すること。この件だけは……セリーヌには、決して、気づかれるな。」


「御意のままに、モネイアラ様。」

ヴァイナは低い声で応じた。


通信は一方的に遮断された。モネイアラは、床一面に散らばる火紋木の粉末を凝視し、その美しい瞳から怨毒の光を迸らせ、歯ぎしりに近い声で低く呟いた。


「スカーロディア……これは、お前の差し金か、それとも、ただの偶然か……。」



その時、影のように控えていた少女が、音もなく前へ進み出た。

月光のような銀白色の長髪を持つ少女――テリーナは、精緻な人形のように、顔に一切の表情がない。



「テリーナ。」

モネイアラは振り返りもせず、声は氷のように冷たかった。

「直ちに、全ての情報網を動員し、あのエド・ウォーカーという人間の小僧を、根こそぎ洗い出しなさい!明朝の日の出までに、奴の全資料を、一字一句違わず、私の机の上に置くように!」



「御意のままに、マスター。」

テリーナの声は清冽だが、一片の感情も帯びていない。


モネイアラが煩わしそうに手を振ると、テリーナは静かに主人の背中を見送る。

彼女は俯き、床に散らばる火紋木の残骸に目を落とした。そっとため息をつくと、白魚のような掌に、生命力に満ちた翠の光が静かに灯る。

両手が優しく導くと、木屑と粉塵が、まるで時が逆行するかのように、ゆっくりと宙に浮かび、瞬く間に再構成されていった。

ほんの数呼吸のうちに、あの高価なローテーブルは、元通り、完璧な姿で再びその場に現れた。

テリーナは光を収め、静かにその場を後にした。


◇◆◇


ふぅ――。


通信が途絶え、オフィスは再び死のような静寂に包まれた。ヴァイナは、ようやく重荷を下ろしたように長いため息を吐いた。ホログラム越しであっても、モネイアラの雷霆の怒りは胆を砕くに十分だった。


神経が緩むと、彼女ははっきりとした尿意を感じ、オフィスの隅にある化粧室のドアへと向かう。

いつものようにドアを押し開けたが、その足はぴたりと止まり、身体は瞬時に凍りついた。


便器の中にある“装置”をはっきりと認めると、最初の戸惑いは、すぐに、奇妙な面白さと、氷のような理解が入り混じった表情へと変わっていく。

彼女は、自分を見上げているその“モノ”に向かって、静かに笑いかけた。


「ふふ……なるほど、貴方様は、そうやって、こちらへ『お成り』になられたのですね、先生?~」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ