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第八話 「鋼鉄の看護師」

軍は、効率的に二つのグループへと分けられた。

テレーザがテック・ガントレットを掲げ、扉の中央にあった眼球の図案が、眩い紫の光を迸らせる。第一陣の足元にも、同じ紋様の紫色の魔法陣が出現した。


隊列の先頭でエドを背負っていたルーシーが、何かを感じ取ったように、セリーヌの方を振り返った。

セリーヌは、優しく、そして静かな眼差しでそれに応える。言葉こそ交わさないが、その視線が伝えるメッセージは、あまりにも明確だった。

『エドを、頼んだわよ』


ルーシーはその深い信頼と嘱託を読み取ると、覚悟を決めたように、力強く頷き返した。



次の瞬間、足元の魔法陣が光を放ち、その中にいた者たちの姿は無数の光の粒子と化し、跡形もなく消え去った。

消えていく部隊を見送りながら、スレイアは不満げに頬を膨らませた。


「ちぇっ……どうしてあたしを先に行かせてくれないのよ……」


「扉の向こうの休憩エリアが、どうなっているか分からないからな。それに……」

セリーヌは手を伸ばし、スレイアが胸に下げた『日月輝石』にそっと触れる。

「お前が傍にいてくれてこそ、私は、本当に安心できる」


セリーヌのあまりにも真っ直ぐな言葉に、スレイアの心臓がどきりと大きく跳ねた。

(な、なによ、こいつ……いきなり、あんなこと……!)


彼女は、赤くなりそうな頬を隠すようにぷいとそっぽを向くと、わざと怒ったような声でフンと鼻を鳴らした。

「あんたが言ったんだからね! その時になったら、ちゃんとあたしのこと、見てなさいよ!」



(本当に、素直じゃないやつだ……)

摯友のその、あまりにも典型的な“ツンデレ”反応に、セリーヌの顔には、心からの、優しい笑みが浮かんだ。




テレーザは優雅に歩み寄り、僅かに身を屈めた。

「セリーヌ様、スレイア様、こちらへどうぞ」


テレーザに導かれ、彼女たちはメインホールを抜け、隣接する一室のメディカルルームへと入った。扉が滑らかに開いた瞬間、目の前に広がった光景は――さながら、最新設備が整った近代的な病院の内部そのものだった。



「ちょっ……嘘でしょ!? あんたたち、病院を丸ごと一つ、ここに詰め込んだっていうの!?」

スレイアはその金色の瞳を大きく見開き、その声色には、隠しようもない驚愕が満ちていた。



それを聞き、テレーザは礼儀正しい笑みを浮かべた。

「いえ、スレイア様。ここは、あくまで応急治療センターです。お二方のお怪我の特殊性を鑑み、休憩エリアにある、より万全な専用医療院にて、本格的な治療をお受けになることをお勧めいたします」

彼女は一拍置き、言葉を続けた。



「へぇ……休憩エリアの病院……本当、期待しちゃうわね!」

スレイアは、子供のような好奇心と興奮に瞳を輝かせた。



ピッ――ピッ――



何の前触れもなく、壁から数機の球形ドローンが飛び出し、微かな駆動光を明滅させながら、セリーヌ、スレイア、テレーザの三人を迅速に取り囲む。ドローン先端のクリスタルレンズが一斉に点灯し、数条の光線を投射し、三人の身体データを丹念にスキャンし始めた。



――ピピピピ! ピピピピ!

セリーヌを取り囲んでいた数機のドローンのレンズが、突如として目に痛いほどの赤色に変わり、甲高い警告音を発した!


「警告。重篤な損傷個体を検知。レベル2の緊急救護プロトコルを起動。即時、外科治療のための転送を準備」


(重篤な損傷? 即時手術ですって!? 待ちなさい、やめ――)

セリーヌが制止の言葉を口にする間もなく、赤く点滅するドローンたちは、既に行動を開始していた。一機のドローンがマニピュレーターで彼女のマントの留め金を外し、白い総帥のマントが滑り落ちると、その青と白のレザーアーマーの下にある、いかなる女性をも嫉妬させるであろう、反則級の完璧な魔性の身体が、他の二人の眼前に、惜しげもなく晒された。


(あ……!)

常日頃、自身のスタイルに絶対の自信を持つテレーザでさえ、間近でセリーヌのその驚異的な曲線美を目の当たりにし、思わず息を呑んだ。その眼差しには、隠しようもない驚嘆と、一瞬の羨望が過る。



同時に、残りのドローンが中心へと集結し、不安定に空間が揺らめくマイクロ・転送ゲートを構築したのだ!


ゲートは形成されるや否や、まるで自らの意志を持つかのようにセリーヌ目掛けて高速で覆い被さっていく。閃光が走り、セリーヌの姿は、そのゲートごと、スレイアとテレーザが呆然と見つめる前で、瞬時にして、跡形もなく消え去っていた。


「セリーヌ? セリーヌはどこへ行ったのよ――!?」

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