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第四話 「次元の箱舟」

カイエンの姿が、亡霊のように一閃し、セリーヌの傍らに現れた

「セリーヌ様、先程のは……まさか、『異形魔獣』の襲撃でしょうか?」


「分からない……」

セリーヌはゆっくりと視線を戻し、眉根を僅かに寄せた。

「だが、先程の魔力の残滓……モネイアラの空間転移術式に、どこか似ている……まさか……?」



「セリーヌ様——!」

一声の呼び声と共に、フィリスが空騎兵団を率いて天から舞い降りてきた。彼女が駆るデストラゴンの背には、先程の謎めいた女性統領――テレーザが同乗している。




「ん?フィリス様の後ろにおられるのは……」

カイエンの視線が、瞬時に何かを捉えた。

「……あのボタンの紋章……間違いない。スティペロス地区の部隊、それも、モネイアラ様の直属の家臣です」



フィリスとテレーザは、機敏な動きでその背から飛び降りると、セリーヌの眼前に進み出て、恭しく軍礼を捧げた。



「セリーヌ様、陛下より我々の帰還を支援する部隊が派遣されました。こちらが、スティペロス地区所属、機甲先鋒軍団第三師団を率いる、テレーザ閣下であります」



「初めまして、セリーヌ様。わたくしは陛下の勅命を奉じ、貴官の軍をお連れすべく、ここでお待ちしておりました」



「陛下の勅命を受けて、ですか……」

セリーヌの唇の端が、僅かに弧を描く。

「ならば、身分を証明するための、聖諭のトークンをお見せいただけますかな?」そ


「ええ、無論です」

テレーザは一切の躊躇なく応じ、胸元のジッパーを引き下げ、服の内側から精巧な小箱を取り出す。箱が開けられ、神聖な気を放つ宝玉のトークンが、静かにセリーヌの瞳に映った。



「……確かに、陛下のトークンですね。ですが……」

セリーヌは信物から視線を上げ、何もない空を見つめた。その声は、氷のように冷たい。

「先程の巨大な艦影……あれが、貴官の言う『お迎え』ですかな? 我々が気づかぬうちから、ずっとそこにいたとは。見事な『光学迷彩』だ」



その言葉に、テレーザの瞳に、初めて賛嘆の光が宿った。

「ふふ、さすがはセリーヌ様!仰る通りです。」

「これこそが、我らが偉大なるモネイアラ様が、百年もの心血を注ぎ、その総力を以て完成させた、最新鋭の特殊空中輸送艦――『アストリオン』です!」


「『アストリオン』……」

セリーヌはその名を繰り返し、その声には一片の揺らぎもなかった。

「だが、三百メートル級の船体では、我が軍数千を収容するには、到底足りないはずだが?」


その、あまりに専門的で、疑う余地のない指摘に、今度はテレーザの顔に、隠しようもないほどの誇りが満ち溢れた。

「ええ、通常であれば。ですが……」


彼女は、悪戯っぽく、しかし、この会談の最後の切り札を出すかのように、微笑んだ。

「――あの子の内部には、次元空間能力を持つ『異形魔獣』から抽出した、特殊なルーン晶石が組み込まれていますので。全長三百メートルそこそこの『アストリオン』が、十万もの部隊を収容することを可能にしているのです!」




(――次元空間能力を持つ、『異形魔獣』?)

テレーザのその一言は、まるで驚雷のように、セリーヌの脳内で炸裂した。


彼女の表情には一切の変化もない。だが、内心は、疾うに平静ではいられなかった。


(おかしい……次元空間能力を持つ『異形魔獣』は、すべて、あの場所に封印されているはずではなかったか? モネイアラ……いったい、どんな手段でこれを手に入れた? まさか……)

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