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第1話 再会する

「ん……?」


 そう声が出て、『近衛すず』は気づいた。隣の家に存在する幼なじみの部屋のカーテンが、何やら不自然に動いていることに。


「え、でも……あの部屋には、もう……」


 誰もいない、そう言いそうになってやめる。すずはこのことを口にしたくなかったのだ。自分の大好きな幼なじみがもう、隣の家に住んでいないということを。


「帰ってきてるわけ、ない、よね……」


 もう慣れたはずのすずだったが、期待した分込み上げてくるものがあったのだろう。現実を突きつけられる苦しさは、これ以上にない精神に負荷を与える。


 うつむいて、すずは自分の胸を眺めた。手を当てながら、気持ちを沈ませていく。




 その時だった。




『がらり』




 聞き慣れた音だった。すずは何度も聞いたことのある音。窓が開閉される音だった。


「え……? な、なんで……」


 もう一度窓の方を見る。


「あ……」


 長く会っていなかった幼なじみの姿が、そこにはあった。




「おかえり……」



 ****



 すずはすぐに幼なじみである彼の家に行った。たらいの中に水を張って、その中に大玉のスイカを入れて、差し入れですと彼の母に言った。


「あ……」


 彼が階段を降りてくる。ゆっくりとした足取りだった。


「あの……おかえり……。今日……帰ってきたの……?」


 彼はこくりと頷いて、すずは嬉しそうに笑う。あがっていいぞ、と彼はぶっきらぼうに言った。


「えっと……おじゃま、します……」


 サンダルを脱いで靴を揃える。彼は几帳面なすずのことを不思議そうに見つめた。


「なに……? なにか変なところでもあった……?」


 変わんねぇな、と彼が言う。すずは懐かしむように玄関に置いてある靴を見て、自分の靴から手を離し、彼の物であるはずのランニングシューズを触る。


「こうやって、私が揃えてあげてたよね……。君も変わらないね……」


 すずが続ける。


「前までは私がいっぱいサポートしてたのに……君はいつのまにか遠くに行っちゃうし……。友達も別に多くないから遊ぶ人もいないし、そもそも遊ぶところがないし……。だから私……」




「すごく寂しかったんだよ……」


 君は知らないだろうけど、と付け加えて、すずは直後に顔を赤くした。その顔はまだ玄関の方を見ているため、彼はすずの顔が見えていない。


 たくさんの思い出があるはずだ。一緒に遊んだはずだ。幼なじみとして。


 だから寂しかったのだ。すずはごまかすように笑った。


「遊ぼっか……」


 そのために来てんだろ、とまたぶっきらぼうに彼は言った。

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