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それぞれの願い


「暑っう。」


 ボクはサンタさんの帽子を脱ぎました。パジャマしか着てないのに全然寒くありません。


「仕方あるまい。こっちは夏じゃからのぅ。」


 そうか。クリスマスって言ったら冬だと思いこんでいたけど、地球の反対側のクリスマスは夏なんだ。

 真夏の夜空を走るトナカイって、なんか変な感じ。


「サンタさんは暑くないの?」

「ホッホッホー。このくらい、なんともないぞ。」


 サンタさんは大きく笑いました。

 どんなに寒い夜でも、とても暖かくなる不思議な服なのに、本当に平気なのでしょうか。

 サンタさんのモフモフとした赤い服は、暑くても寒くても大丈夫な宇宙服みたいなものなのでしょうか。


「さあ、着いたぞ。」


 町には白い壁のお家がいっぱい並んでいます。その中でも、わりと新しいお家の屋上にソリを停めました。

 サンタさんはソリから降りると、屋上にある煙突に足を掛けました。


「今度は煙突から入るの?」


 だって、今までのお家では、サンタさんは窓をすり抜けてばっかりでした。もしかしたら、これまで煙突のあるお家がなかったのでしょうか。でも、ボクはそこまでは見ていませんでした。


「冬だと、煙突の下の暖炉に火が入っておるかもしれんじゃろ。火が消えておっても薪の消し炭で灰だらけじゃ。その点、夏なら安心して煙突から入れるぞ。」


 サンタさんは右目でウインクすると、にっと笑いました。

 なんだ、そんな事かとボクも笑いました。絵本とはちょっと違うみたいです。


 そしてサンタさんは、ボクに手を差し伸べます。ボクはその手を取って、一緒に煙突へ飛び込みました。真っ暗な中を落ちていく感覚。ちょっと怖かったけど、一瞬だったから大丈夫。


 そのお家には、子供の部屋が二つ。右の部屋は、ボクより小さな女の子が寝ていました。

 女の子のベッドの隣、チェストの上にクッキー二つとカップ、そしてお手紙が置いてありました。


 ボクには、手紙に何て書いてあるか分からなかったけど、サンタさんは何度も手紙を読んで嬉しそうにしていました。

 サンタさんは嬉しそうにクッキーを一つ食べると、もう一つのクッキーをボクにくれました。

 最後にカップのミルクを飲み干すと、女の子の枕元にプレゼントを置きました。


「ん…」


 女の子が寝返りを打ちました。起こしてしまわないように、ボクたちは静かに部屋を出ました。


「危なかったのぉ。」


 サンタさんは小さな声でボクに耳打ちしました。

 ボクの時は、見つかったのに平気そうな顔をしていまいた。しかし、今回サンタさんは焦っていました。


「キミが見つかったら、大騒ぎじゃろ。さあ、行こうか。」


 ああそうです。サンタさんは、ボクが一緒にいるから慌てていたのです。

 じゃあ、ボクがいなかったら、見つかってもいいと思っているんでしょうか。

 サンタさんはやっぱり、お茶目で面白い人です。


「あれ? もう一つの部屋は?」


 ボクは左の部屋の扉を指差します。


「あの子のお兄ちゃんの部屋じゃ。ワシはもう入れん。」

「どうして?」

「サンタを信じなくなってしまった子どもの部屋には入れないんじゃ。」


 サンタさんは悲しそうな顔になりました。

 なんてことでしょう。サンタさんはちゃんとここにいるのに、サンタさんを信じない子どもがいるなんて。

 ボクは、お兄ちゃんに「サンタさんは本当にいるよ!」と伝えたくなりました。


「いいんじゃ。いいんじゃよ。」


 サンタさんは、ボクの考えていることを見透かすかのように頭をポンポンと撫でてくれました。

 そしてボクの手を引いて、煙突を通って屋上に戻りました。


 トナカイが静かに待っていて、サンタさんが先にソリに乗り込みんで袋を置きます。


 ボクは、まだソリに乗れません。

 さっきのサンタさんの顔を思い出していました。

 きっと、大きな船に乗っていた子どもも、サンタさんを信じない子どもだったのでしょう。

 サンタさんは、毎年こんな悲しみを感じていたのです。


 ボクはサンタさんの帽子をぎゅっと握りしめました。

 サンタさんはこんなに頑張っているのに、信じないだなんて。

 我慢が出来なくなって涙が溢れてきました。


「どうして泣くんじゃ?」

「だって、…悔しくて。…サンタさんは、ここにいるのに。」


 大粒の涙が、屋根の上に落ちました。


「ホッホッホ。キミは本当に優しい子じゃな。ワシのために泣いてくれるのか。」


 サンタさんはボクの涙を拭ってくれました。

 そしてボクを抱えあげると、ぎゅっとハグをしました。


 突然だったのでボクはびっくりしましたが、抱きしめられていると段々落ち着いてきました。

 深呼吸を一つすると、ボクの涙は止まりました。


「サンタさん、ありがとう。」


 ボクがお礼を言うと、サンタさんはソリの上にボクを座らせてくれました。


「ワシの方こそ、ありがとうな。」


 サンタさんはそう言って、ボクの顔を見つめます。ボクもサンタさんの顔を見ました。

 二人で見つめ合っているとサンタさんが笑い始めました。


「ホッホッホッホッホ。」


 その笑い声を聞いていると、ボクも楽しくなってきました。


「ははははははは。」


 ボクもつられて笑ってしまいました。

 声を出して笑うと、なんだか気持ちがすっきりした気がします。

 サンタさんは優しい声で言いました。


「それでいい。クリスマスはみんなが笑顔になる日じゃからな。」



 サンタさんは前を向いてトナカイに声を掛け、ソリを出発させました。

 また色々な町を巡りながら、プレゼントを配って行きます。

 ソリはだんだん北へと向かって進みます。また寒くなってきたので、ボクはサンタさんの帽子を被りました。


 沢山の家に入って、多くの子どもたちにプレゼントを渡しました。

 木を組んでできた家、石を積んでできた家、レンガを重ねてできた家、コンクリートの家。

 国によって、地域によって、家の形にも違いがあります。


 ボクは、町も家も人も、それぞれ違うってことに気が付きました。


『自分と同じじゃないと言う事を知っておれば良いんじゃ。』


 サンタさんが言っていたことを思い出しました。

 言われた時は良く分からなかったけど、色んな子どもたちのお願いを見て分かった気がします。


「この町では、この家だけじゃ。」


 そこは、今までで一番大きなお屋敷の前でした。

 白い壁のお屋敷は、三階建てで窓が沢山あってお庭も広くて、まるでお城みたいなお家でした。

 ボクはサンタさんと手を繋いで、大きな窓から部屋の中に入りました。


 黙って人の家に入るのは、何回入ってもやっぱり緊張します。

 けれど、ボクはサンタさんのお手伝いをしているんだから大丈夫!


 いろんなぬいぐるみが並んでいて、可愛く飾り付けられている部屋でした。

 女の子の部屋かな…と思ってキョロキョロとしていると、突然、誰かと目が合いました。


「わっ!」


 ボクは思わず声を上げます。

 サンタさんが慌てて、人差し指を立てて「シー!」っと言いました。


 落ち着いて見てみると、それは大きな鏡に映ったボクでした。

 サンタさんが声を圧し殺して注意します。


「静かにの。」

「うん…」


 ボクも静かに返事をしました。


 ベッドには、やっぱり女の子が寝ていました。ボクよりも小さい子です。

 そばにはツリーが飾ってあります。


 この子はきっと、お金持ちです。

 こんな豪華なお家に住んでいて、こんな素敵な部屋もあるんですもの。きっと欲しい物は、何でも持っているに違いありません。

 こんなお金持ちの家の子なら、ボクよりも欲しい物がないかもしれません。


 そうなると、サンタさんがまた悲しい顔をする…。

 ボクはちょっとドキドキとしました。

 でも、この部屋に入れたと言う事は、女の子はサンタさんを信じています。


 ボクは、ツリーの下にお手紙が置いてあるのを見つけました。ボクには書いてある文字を読めないので、サンタさんに渡しました。


「ほう…ふむ。」


 サンタさんは手紙を読んで髭を触りました。なんだか悩んでいるようです。

 何か難しいお願いでしょうか。


「よしっ。」


 サンタさんは袋から一番大きな箱を取り出しました。そして、その箱に耳を当て、中の音を聞きます。大丈夫だと分かると、嬉しそうに目をパチパチとして、箱をツリーの横に置きました。


 あの箱には何が入っているのでしょう。

 ソリに戻るとボクはすぐに聞きました。


「何をプレゼントしたの?」

「あの子の手紙には、ぬいぐるみやお人形ではない『一緒に遊んでくれる友達』が欲しいと書いてあったんじゃ。」


 最近はどこの国でも、子どもが少なくなってしまいました。ボクの町では、小さな子どもは十人くらいしかいません。

 この町にも、子どもがいる家はここだけなのでしょう。


「じゃから、元気な仔犬をプレゼントしたんじゃ。きっといい友達になってくれる。」


 サンタさんの袋からは、仔犬まで出てくるんですって。なんてすごい袋なんでしょう。

 ボクは「すごい」って言うことも忘れて、ただただ感心していました。


「さて、次が最後の町じゃ。」


 トナカイは高く高くへと登って行きます。世界一の山を越えたときよりも高い所まできました。


「次はどこの町?」


 ボクが聞くと、サンタさんは空に浮かぶ半月を指差しました。

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