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世界一周の旅


 ソリは斜めに上へと進んでいきます。ぐんぐんと高くなって、ボクの町は光の点々にしか見えなくなりました。


 光が筋になっているのが道路でしょうか。光が集まっている所は、たぶん駅のあたり。


「うわぁ、高いや。」

「怖いかい?」

「平気。ボクは観覧車に乗ったこともあるんだ。」


 でも、観覧車ではこんなに高くまでは上がってきません。ボクは今まで生きてて一番高い所にやってきました。


「ホッホッホ。もう少し登るんじゃ。」


 トナカイたちは素晴らしいスピードで空を駆け上がって行きます。

 夜空には星が見えてきました。こんなに沢山の星を見たのは初めてです。


「うわぁ、きれい…」

「すまんが、じっくりと星に見とれている時間もないんじゃ。次の町へ行くぞ。」


 今度は急降下です。

 まるでジェットコースターのよう。ボクはまだジェットコースターに乗ったことはないけれど、きっと世界で一番大きなジェットコースターよりも高い所から、世界で一番すごいジェットコースターよりも速く駆け降りているはずです。


「うわぁ、速い!」

「飛ばされんようにしっかり掴まっておるんじゃぞ。」


 そう言いながら、サンタさんは左手でボクの体をしっかりと抑えてくれました。


 ずっと下の方に光が見えました。その光はどんどん大きくなっていきます。

 町です。


 ボクの住む町よりも、光がたくさんありました。とても大きな町のようです。

 こんな夜中だというのに、車もいっぱい走っています。まだいろんなお店も開いています。


 そんな町の光が、あっという間に目の前に迫ってきました。


「ぶつかる!」


 そう思った時です。

 サンタさんが手綱を軽く引くと、トナカイたちはスピードをゆるめていきます。そして、急ブレーキをかけることなく停まりました。

 さっきまでの猛スピードが嘘みたいです。


 そこは、町の真ん中にそびえる高層マンション。

 ソリは、最上階のベランダに寄せられました。


「この家にプレゼントを配るの?」

「そうじゃ。」


 サンタさんは、ソリの後ろにおいてあった大きな袋を担ぎました。


「さあ一緒に行こうか。」

「一緒に行っても良いの?」

「ああ、もちろんじゃ。こんな吹きっさらしで、キミを待たせる訳にもいかんじゃろ。」


 サンタさんは先にソリからベランダに降りました。ボクもその後ろに続きます。


 サンタさんと手を繋いで、掃き出し窓を通り抜けます。一度やっているので、もう驚きません。


 部屋の中は暗かったけど、大きな窓から入ってくる星の明かりのお陰で、なんとか周りを見ることができました。

 ベッドには男の子が寝ていました。ボクと同じくらいの歳の子です。


「おっ?」


 サンタさんはベッド横のチェストに置いてある手紙に気が付きました。

 手紙を手に取ると、それを読んでにっこりとしました。


 そして、ボクにも手紙を見せてくれました。


『サッカーボールがほしいです』


 サンタさんは袋の中をゴソゴソと探すと、真新しいサッカーボールを取り出しました。

 ベッドの横にそっとサッカーボールを置くと、男の子の頭をポンポンと優しく撫でました。

 男の子はぐっすりと寝ています。


 一仕事を済ませたサンタさんは、ボクの手を引いて、部屋から出ました。


 ソリに乗る時、ボクはサンタさんに聞きました。


「サッカーボールなんて、いつでも買えるのに。あの子は、なんでサンタさんにお願いしたんだろう?」

「ホッホッホー。」


 サンタさんは笑って、手綱を手に取りました。


「一年間いい子にしていたら、プレゼントがもらえると言う約束じゃったんじゃ。」

「それなら、もっと高い物をお願いすれば良いのに。」


 ボクはだんだん離れていくマンションを見ました。

 貧乏な家ではなさそうです。サッカーボールくらい買って貰えそうです。


 同じサッカーボールでも、有名選手のサイン入りだとか、ワールドカップの試合で使われたとかなら分かります。

 一年間いい子で頑張って、普通のサッカーボール一個で本当に満足なのでしょうか。


「欲しい物は、皆それぞれ違うんじゃよ。」

「ボクには分かんないや。」

「分からなくても良い。自分と同じじゃないと言う事を知っておれば良いんじゃ。」


 サンタさんはそう言って、また笑いました。


「さあ、今度は女の子じゃ。」


 ボクらは、次のお家を目指して走り出しました。



 でも、その町でプレゼントのお願いをしたのは、さっきの男の子だけでした。他のみんなには手編みの靴下をプレゼントしていました。


「あの靴下で喜んでくれると良いが……。ホッホッホ。」


 サンタさんは笑っていましたが、やっぱりどこか寂しそうです。


 今度は、海を越えます。

 夜の海は真っ暗で、何も見えません。夜空は星いっぱいなのに、下に広がる海は落ちたら吸い込まれてしまいそうです。


 ボクは目を瞑って、自然にサンタさんの腕にしがみついてしまいました。

 その腕は思ったよりも太くて、がっしりしていました。ボクのお父さんの腕の倍はありそうです。

 だからこそ、ボクは少し安心しました。


「ほら、港が見えてきたぞ。」


 黒い海の向こうに、ぼやっとした小さな光の集まりが見えてきました。まるで図鑑で見た銀河みたいです。

 銀河はどんどん近づいて、それぞれの星が家並みだと分かりました。今度も大きな町のようです。

 でも、町には低い家ばかりで、高い建物は全然ありません。

 窓も見慣れない形をしています。


「もしかして、ここって外国?」

「そうじゃ。ここではキミの言葉は通じんぞ。」

「すごい!」


 こんなに簡単に他の国へ行けるなんて。

 ボクが見上げると、サンタさんは片眉をあげて笑いました。


「ホッホッホー。さて、プレゼントを配ろうかの。」


 町の中央にあるお家から、順番にプレゼントを置いていきます。

 今度の町は、色んなお願いをする子がいて面白かったです。

 熊のぬいぐるみ、ドローン、二百色の色鉛筆、タブレット、ギター、ままごとのキッチンセット、電車のおもちゃ。


 そして最後のお家は、オンボロのとても小さなお家でした。

 壁には穴が空いているし、窓にはカーテンもありません。

 こんな家に、人が住めるんでしょうか。


「世界中が豊かになったと言っても、まだまだ取り残されている人が居るんじゃよ。」


 サンタさんは、ボクの手を引いて窓を通り抜けました。

 そこには三人の子どもたちが寝ていました。

 サンタさんは小さな箱を三個、枕元に並べました。

 そして、静かに小さなお家を出ました。


 ソリに乗ってから、ボクは聞きました。


「あの子たちは、プレゼントに何をお願いしたの?」

「もっと大きなお家に住みたいと願っておったの。」

「お家は無理だよね。」

「そうじゃの。この袋には入らんのぅ。」

「プレゼントには何をあげたの?」

「自動車と電車のおもちゃじゃ。」

「なんで?」


 だって、あの子たちはお家が欲しいのに、サンタさんのプレゼントは乗り物のおもちゃばかりです。


「あの子たちは、大きくなったら運転手になりたいと思っておるんじゃよ。」

「でも、車とか電車なんて、ほとんど自動運転になって、運転手さんなんて少ししかいないよ。」

「それでも、あの子たちの夢じゃからな。大きくなって夢を叶えて、自分で大きなお家に住むんじゃよ。」

「ふーん。」


 ボクにはよく分かりません。


「将来の夢をプレゼントするのも、サンタの仕事なんじゃ。」

「将来の夢かぁ…。」


 ボクは大きくなったら何になるんだろう。パパみたいなお仕事するのかな?


 ボクは星空を見上げて考えました。


「ホッホッホ。さあ、次の町じゃ。子どもたちが待っておる。」


 それから、サンタさんと色んな町を巡りました。


 とても高い山の麓に寄り添う小さな町。

 大きな原っぱの真ん中に、布でできたお家が並ぶ町。

 高層ビルばかりが立ち並ぶ大都会の町。

 小さな島のリゾートの、反対側にある町。

 地面ごと凍った森に面した雪の降る町。

 山を削って建てた沢山の団地が積み上がっている町。

 砂漠の近くで、半分砂に埋まってしまった町。


 世界には色んな町があって、色んな子どもがいました。


 ボクたちは、また海を渡ります。

 何回も海の上を走ったので、ボクはもう怖くありません。真っ黒な海の真ん中で光る灯台や、星々の光を反射して光る波、そして灯りをつけた船が頼りなさそうに浮かんでいるのが見えました。


「うわぁ、大っきい!」


 とても大きな船が、真っ黒な海の真ん中を突っ切って進んでいました。その船は、あちこちが明るく光っていて、まるで一つの町のようでした。


「ホッホッホー。」


 サンタさんはトナカイの手綱を操って、ソリを船に近づけてくれました。

 船からは楽しそうな音楽や笑い声が聞こえてきました。


「あの船は何してるのかな?」

「世界一周のクルーズ船じゃよ。あの船で百日掛けて、世界を巡るんじゃ。」

「百日!」


 ボクはびっくりしました。

 百日と言ったら、夏休み三回分くらいあります。そんなにも学校を休んだら、パパや先生に怒られてしまうでしょう。

 サンタさんと一緒に世界一周ができて良かったと思いました。


「あの船には、子どもは居ないのかな?」

「おる。」

「プレゼントは配らないの?」


 サンタさんは少し淋しそうな顔をしました。


「あの船にはサンタは必要ないんじゃ…。さあ、もっと南に向かうぞ。ホッホッホ。」


 サンタさんが手綱をしならせると、トナカイたちはスピードをぐんとあげました。

 ソリは船を追い越して、あっという間に後ろの遠くの方に置いていきました。もう船の光は豆粒のようです。


 なんだか、だんだん暑くなってきました。

 

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