夜の暗さに溶け込む町
おや?今日もまた1人お客様が来ているみたいだね。
様子を少し覗いてみようか。
「初めましてお客様、今日は楽しい夜にしましょうね…?」
執事のような格好の人がほくそ笑む。
会話をしているとつい笑みが溢れる。
相手もその笑みに答えるよう微笑み返し、その姿に見惚れてしまい1歩、また1歩と奥へ進む。
もう後には戻れないと感じながらも。
頭が回らない、ぼんやりと霧が掛かったような、そんな気がする。
「お客様?体調が優れなければ私がお部屋まで案内いたしましょうか?」
自分は無気力に頷くことしか出来なかった。
執事の人の顔はぼやけており見えはしない、自分は何処へ行くのだろうとそのぼんやりとした頭で考えるが何も思い浮かばない。
だってこれから何が起こるかなんて誰にも分からないのだから。
無意識に感じてしまう、もうダメだと。
この人は人ならざるものなんだと。
後悔しても遅い、ここに入った時点でおしまいなのだから。
ゆっくりと意識が暗闇へと落ちていく。
最後に聞こえたのは執事が自分の意識を確認する声だけ。
目が覚めると路地裏に倒れていた。
昨日の記憶が全然ない、何をしていたんだ。
ただ1つ、分かることがあるとするなら…
夜に溶け込む恐怖を知った。
それだけかな。