追放勇者レオン、全力で魔王軍に転職します!!
「君、もういらないんだよね。」
その言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中が真っ白になった。国王からの解雇通告――いや、追放だった。数年前、命を懸けて魔王を倒し、世界に平和をもたらしたはずの俺、勇者レオンは、一瞬にして「不要な存在」となってしまった。
「国は平和になりすぎたから、もう君みたいな戦闘狂は困るんだよね。」
戦闘狂だと? 確かに俺はやりすぎたかもしれない。魔王城を崩壊させたし、敵の幹部を倒し過ぎて彼らの統治が混乱するくらいには暴れた。だが、それが俺の役目だろう? 勇者として世界を救うためなら、多少の犠牲は――
「そんなわけで、君はもう解雇。追放ね。」
王の最後の言葉は、氷のように冷たかった。
――――――――――
こうして、俺は王都を追放された。勇者の称号を剥奪され、無職の身。しかも手元に残ったのは剣だけで、財産も全て没収された。何もかもを失った俺が一番初めに向かったのは、街外れの求人掲示板だ。
「何か仕事は……」
掲示板を眺めていると、一枚のポスターが目に飛び込んできた。
「魔王軍、人材募集?!」
えっ、魔王軍が求人を出しているだと? 魔王を倒された後、魔王軍も壊滅したはずだが……どうやら残党が新たなリーダーを探しているらしい。給料も悪くないし、待遇もバッチリ。「寮完備、福利厚生充実、休暇あり」とのこと。失うものが何もない今、やってみる価値はありそうだ。
「こうなったら、魔王軍に就職してやる!」
――――――――――
数日後、俺は魔王城で行われる面接会場に立っていた。廃墟となったはずの城は、意外ときれいに整備されている。面接官は魔王軍の幹部たちだ。彼らの視線は冷たく、そしてどこか期待しているようにも見える。あの魔王に仕えていた彼らが、なぜ俺のような勇者を雇おうとするのか、全く見当がつかないが、気にしても仕方がない。やるしかないのだ。
「では、自己紹介をお願いします。」
最初に口を開いたのは、魔王軍の人事担当デーモンだ。黒いスーツに眼鏡をかけ、やけに現実世界のビジネスマンっぽい雰囲気を醸し出している。
「俺はレオン、かつては勇者として活躍していた。魔王を倒したが、その後、国から追放された。今は再出発を図っている。」
ふむ、と人事デーモンは顎を撫でながら頷いた。「なるほど、勇者か。それでは、何故我々魔王軍に就職しようと思ったのか、教えてくれるか?」
「……国が俺を不要と判断した。だが、俺の能力は無駄にはできない。貴殿たちの復興を手助けし、その力を新たな時代に生かすことができると考えたのだ。」
さっそく本音と建前を織り交ぜた返答。正直なところ、俺には仕事が必要だ。それに魔王軍といっても、実は彼らには結構好感が持てる。昔から、魔族たちは「悪」ではなく、「正義の反対側」に過ぎないと思っていたのだ。
「では、質問に移ろうか。」魔王軍の幹部の一人、見た目がゴリラに似たオーガが声を上げた。「君が魔王軍に入社したら、どんな貢献ができる?」
「貢献、か。勇者としての経験を生かし、敵軍の動向を把握し、より効果的に魔王軍を勝利に導くことができるはずだ。」
「うむ、勇者としての能力は確かに役に立つな。ただし――」と、もう一人の幹部、暗黒エルフが冷たい声で口を挟んだ。「ここでは"悪"を行う必要がある。その点、君は正義の象徴であったわけだが、その矛盾についてはどう考える?」
ここだ。ここが面接の肝だ。魔王軍で働くということは、これまでの価値観を捨てることに他ならない。だが、俺は何としてもこの場を切り抜けなければならない。
「正義と悪は表裏一体。俺がかつて行ってきた"正義"も、結果として多くの犠牲を払った。今度は魔王軍の一員として、より効率的で秩序ある支配を確立しようと考えている。これは正義ではなく、秩序だ。」
幹部たちは顔を見合わせた。どうやら俺の回答は思ったよりも響いたようだ。
「ふむ、君の考えは理解した。次に、実際の戦闘スキルだが、君の強さはどれほどか?」
オーガ幹部がにやりと笑い、斧を振りかざした。どうやら実力を見せろということらしい。
「じゃあ……少し見せてやるか!」
俺は即座に剣を抜き、オーガの斧に合わせて剣を振り下ろす。金属音が響き渡り、次の瞬間、オーガの斧は粉々に砕け散った。
「な、なにっ……?」
驚愕の表情を浮かべる幹部たちをよそに、俺は剣を納め、肩をすくめてみせた。
「これが俺の力だ。これでも魔王を倒したんだぞ?」
沈黙が流れた後、魔王軍の幹部たちが一斉に拍手を始めた。
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そして、面接が終わると、再び人事担当デーモンが前に進み出た。
「素晴らしい。君は我々の期待以上だ。よって――」
俺は内心ドキドキしながら、デーモンの言葉を待った。
「採用だ。君はこれより、魔王軍の幹部として働くことになる。」
……え?
「な、幹部だって?」
俺は一瞬、耳を疑った。単なる兵士のつもりだったのに、幹部だなんて……。
「君の能力をこのまま戦闘要員にするには惜しい。魔王軍の再編を君の手で進めてもらいたい。もちろん、報酬もそれに見合う額を支払う。どうだ?」
幹部たちも満面の笑みを浮かべている。俺が望んだ結果以上のものが手に入るとは、予想外だった。
「……分かった。喜んで引き受けよう。」
こうして、俺は勇者から魔王軍の幹部へと転職することになった。これからどんな困難が待ち受けるかは分からないが、俺の新しい冒険が始まることだけは確かだ。
「魔王軍の未来、俺が引き受けてやる!」
勇者から追放され、魔王軍に就職したレオン。彼は勇者としての能力を活かし、魔王軍の幹部として新たな道を歩み始める。だが、その先には、さらなる波乱と成長が待っている――。