出会い
出会い
丁度その定食を食べ終えた頃、はす向かいの席に年のころは定かではありませんが、僕よりは明らかに年上だと分かる女性が座っているのに気がつきました。
僕は旨い食事を食べるのに精一杯で、彼女が入ってくるのに気がつかなかったのです。
その人は薄水色のシャツに紺のジーンズを履いていました。
シャツから下着がうっすら透けていましたから、上着はそのシャツ一枚ということになります。
いくら暖かな日とは言え、僕はセーターを着ていましたから、随分と薄着なのに驚きました。
そう思った後で、地元の人にとってはもう暖かいはずの気温なのだなあと、むしろずれているのは自分のほうだと思い直しました。
そして彼女が立ち上がってトイレかどこかに行った拍子に見えたジーンズは普段僕が東京の方では目にしない感じのものでした。
それがその色合いからそう思えるのか、シルエットからなのか、はたまた彼女の履き方がそう見せるのかはその時の僕には分かりませんでした。
ただその時は、東京から遠く離れている土地であることと、その人が僕よりも年上だということで、
流行というのは東京からある程度時間をかけて地方に伝播するものなのかもしれないし、
僕の周りにいる身のこなしや中身よりも、
自分をどのように着飾るかにしか興味を持つことを知らない女の子たちとは次元の違うところにいる人なのだろうと勝手に理由付けて合点していました。
その人が話しかけてきたのは、僕が三杯目のお茶をおかわりし、手持ち無沙汰にガイドブックを広げた時でした。
彼女はガイドブックなどにはこの町は載っていないというのです。
そうかも知れませんね、ちょっと気まずい相槌を打ちながらも、内気な僕にはほとんどない旅の出会いに、僕の胸は小さく鳴りました。
今日は終日予定はないからと、その人は言って、明るい陽射しの差してくる食堂の外へ僕を誘いました。
初めて訪れた東北の春の日に、ただ目的もなく一日限定の放浪を決めていた僕は、予期せぬ展開に躍る心の内を隠すのが精一杯でした。
つづく