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月光浴  作者: 高倉 壮
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旅路

旅路


 僕は大学時代に、日本全国を旅して廻っていました。

就職を控えた大学四年の春休みは、いまだ訪れたことのなかった東北を青森から南へ順に巡っていこうと決めました。

一年生の夏休みから始めた僕の旅は、毎日泳いでばかりの退屈な気分を晴らすために身軽で気分が浮き立つ観光地を優先して訪れていました。

雪深いイメージからかどこか踏み入れ難い東北は、それまで僕を寄せ付けないでいました。


日本地図にぽっかりと空いたまだ訪れたことのない場所を、学生最後に訪れることが、何か自分の責務のように思えてきていたのです。


三月の東北は僕の住む関東とは違って、まだ冬の名残が濃く残り、その残り香がしっかりと嗅ぎ取れるほどでした。

ですからリュックにしまって出たダウンを常に来て歩いていました。


着替えもかさ張っていたために大きな荷物を持ち歩く必要があり、そのせいもあってそれまでの旅とは違い、

東京を出た僕は相変わらず旅行には似つかわしくない重苦しい思いを胸にしまい込んでいたのです。

 

 

 青森から岩手、秋田、山形とジグザグに南下していたのも自分の訪れた県を、地図を上から順に事務的に塗りつぶしていくのに似ていました。


三月中旬、僕は一度岩手に戻って、太平洋側の宮城県に入りました。

それは、宮城の北にある小さな港町に入った日のことでした。

 

 その日は、春の訪れを思わせる初めての暖かな日でした。

その町を流れる川の河原へ下りて石の上に腰を下ろしたのですが、まだその川を流れる水は冷たくても、そこにある石は太陽に温められ、僕は尻と掌から体をポカポカと温められて、その旅で初めて、少し気持ちの緊張が解かれていくのを感じていました。


 その町には隅々にまで透明な光が溢れていて、僕は今日一日何もないこの町で過ごそうと決めました。


 普段観光客を受け入れている町ではないのでしょう。旅行者としての僕が惹かれるような代物は一見しただけで何もないことは明らかで、しかし、何故かそのことが逆に僕をその町の奥へ引き込んでいくようでした。

  

                つづく

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