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第六章 ボストトーロの山

 黄泉平坂を越え、一行は山深い道を進んでいた。

 「早く次の村に着かないかな~。休みたいよ。」

 みんなはかなり疲れていたが、ようやく村らしき家並みが目に入って来た。

 「よかった~。でもどうかな、クニ国にはボクらは初めて来たわけだし、こっちの国の人は歓迎してくれるかな?」

 一行は恐る恐る村の入り口に近づいて行った。ところが、何やら騒がしい。村人たちが通りでいくつものグループになって話し込んでいる。

 「一体なんでしょうね?何か問題があるようだわ。」

 村人たちの会話はこのようなものであった。

 「やれやれ、山の神様がお怒りのようじゃ。」

 「今年の作物の出来が心配じゃ。」

 「幼子の生贄を用意するそうじゃ。」

 「若者が減っておる。祭も人が集まらん。これでは村も弱って行く一方じゃ。」

 「いやいや、もう山を降りて暮らそうぞ。山の神様なんぞおらんのだ。」

 「いや、山の神はいらっしゃるぞ。大人には見えんがな。わしは子供のころに見たことがある。」

 「そうじゃ。ボストトーロ様はこの山を守り、我らを栄えさせてくださる。」

 「しかし、村の衰退ぶりはいかがなものか。何か手を打たないといけないのは本当じゃ。」

 要約すると、この村は山の神を信じており、その名をボストトーロという。子どもには見えるが大人には見えず、村を守り、栄えさせてくださっていたということであった。しかし、村は衰えつつあり、生贄をささげるべきかどうかを決めかねているとのことであった。

 「でも、子供の生贄をささげるなんて、そりゃよくないね。それを計画してる人に詳しく話を聞けないかな。」

 村人は排他的ではなく、一行を暖かく迎えてくれた。ただ、ここのところあまり作物の出来がよくなく、大したもてなしは出来ないとのことだった。親切にも、宿屋の主人が村の神官に目通ししてくれた。一行は神官のいる聖殿に入り、話を聞くことにした。オキタが話を切り出した。

 「我々を迎え入れてくださり、ありがとうございます。わたしの仲間はとても有能で、きっとこの村でも役に立ってくれます。現状を説明願えますか。きっと道が開けると約束します。それと、生贄のことを聞きました。なんでも幼子をささげるとか。もしよければ、そうする前に我々にこの問題の解決を託していただければ幸いです。」

 オキタの申し出に対し、神官は畏れと悲しみの混ざった声で語り始めた。

 「我らの山の神ボストトーロ様は子供好きでいらっしゃる。しかし、昨今の若者は山を降り、年寄りが増えてめっきり子供が少なくなってしもうた。きっと誰も遊んでくれないと、嘆いていらっしゃるのだ。そこでじゃ、ボストトーロ様の遊び相手として、幼子を山に贈ろうと思うておるのじゃ。ボストトーロ様の機嫌が治れば、村を衰退から救ってくださるに違いない。」

 「生贄の予定は何時です?」

 「それがじゃ。子供を生贄にしようという者は誰もおらぬ。一体どうしたものかと思案しておる。くじで決めるか、お金を積むか・・・」

 「我々がその生贄になりましょう。」

 「申し出は嬉しいが、そなたたちは子供ではない。生贄にはなれんのじゃ。」

 「しかし、今のところ生贄の候補者は見つからないのでしょう。さらに、今後も見つかるとは思えません。ここはどうか我々に任せてもらえないでしょうか。」

 「そうまで言うのなら、やってみるがよい。ボストトーロ様は大人には見えん。声も聞こえん。心を通い合わすのは無理なのじゃ。それでも何か方法があるというのかの。まあ、期待せずにおるわいの。」

 「では、許可していただいたと思っていいのですね。早速取り掛りましょう。」

 「山の奥に祠がある。そこにボストトーロ様は遊びに来ると言われておる。わしら、つまり大人が言えるのはそこまでじゃ。」

 「分かりました。ありがとうございます。」

 一行は神官の前を辞した。


 「オキタ、引き受けてよかったの?子供でないと見えないらしいよ。どうするつもりなんだい?」

 「ナツメは精神年齢低いと言っても見えないだろうしな。」

 「どうやらそういうのじゃ通用しないみたいだよ。映画館の年齢ごまかしのような姑息な手を受け入れるような神様じゃないみたいだね。」

 「いえいえ、手は考えてあります。ようやくわたしにこの責任が与えられた理由が見えて来たようですよ。道々計画をお話しします。」

 一行が山の祠へ向かう途中、オキタはびんに入った商品を取り出した。

 「これは一粒食べれば年齢が10歳成長する青い飴と、10歳若返る赤い飴です。祠に行って赤い飴を食べ、ボストトーロを待ちましょう。子供は七つまでは神のうちといいます。七歳になるように大きさを調整しましょう。それで、誰が食べますか?」

 アルファといろはは「絶対嫌」とのことだった。お約束で服のサイズはそのままなので、体が縮む瞬間にナツメが大喜びしそうなのを避けるためだった。

 「じゃあ、ボクが食べるね。オキタが食べたら司令塔がいなくなるのでみんなが困る。それで何をすればいいかな?」

 「想像でしかありませんが、ボストトーロに会って話すことが出来たら、村の窮状を救うにはどうすればいいか聞くことですね。ああ、それよりも、ボストトーロの要求を先に聞いた方がいいかもしれません。」

 しばらくして一行は古びた祠に到着した。

 「ここだね。それじゃあ、その飴をちょうだい。」

 ナツメは赤い飴を一粒もらい、口に入れた。すると体が縮んで行き、七歳当時と思われる姿となった。

 「服がダブダブで動きにくいけどしょうがないな。それじゃ、行って来るね。」

 ナツメはズルズルと服を引きずりながら祠の中へ入って行った。しかし、ずいぶん時間がたったが、何の変化もない。オキタが少し考えて、「しまった」という顔をした。

 「ナツメ君、戻ってきてください。」

 言われて戻ってきたナツメにオキタは青い飴を渡し、ナツメは元の姿に戻った。オキタがみんなに説明を始める。

 「この赤い飴、体は子供になりますが、心までは子供になりません。それでボストトーロに会えないのでしょう。」

 「え~見た目は子供、おつむは同じではダメなんだ~。見た目は子供、おつむも子供でないといけないんだね。アポトキシンでも同じだよね。」

 「そういうことです。」

 「ほかに何か方法は?」

 「う~ん。かなり危険ですが、なくはないです。」

 「どんな方法?」

 オキタは今度は斧にしか見えない物を取り出した。

 「何それ?」

 「アレッシーの斧といいます。」

 「それって・・・」

 「そうです。これでぶっ叩かれた相手は子供になって、精神年齢も体相応になります。ただ力加減が難しいです。」

 「これしかないの?」

 「体が縮んでも精神は同じっていうネタは多いんですが、心も子供になるっていうのがなくてですね・・・しかも、この斧で子供になると、元に戻るにはオラオラのラッシュで壊すことが必要で、そして二度と使えなくなります。」

 「とにかく、ボクで試してよ。失敗したら次はテルーで、それも失敗したらアルファといろはにお願いするしかないね。オラオラのラッシュはアルファかいろはの能力で出来そうだね。」

 斧で叩くなんて、傍から見れば残酷な殺戮シーンなのでモザイクを掛けることになった。オキタは恐る恐るナツメを叩いてみた。

 「痛かったらごめんなさいナツメ君!」

 『コツン!』

 とりあえず軽く叩いてみたが、何の変化もないのでちょっと力を入れてみた。

 『ゴツン!!』

 「うぎゃっ!」

 悲鳴を上げたナツメの体はみるみる縮んで行き、二歳児くらいになってしまった。

 「すみません。強すぎたようです。これでは幼すぎる。」

 「じゃあ、俺にやってくれ。もう力加減は分かったんじゃないか?」

 「はい、じゃあ行きますよ。」

 『ゴツン!』

 テルーの体は縮んで七歳くらいになった。

 「よし、今回は成功です。テルー君、あそこの家に入りますよ。」

 「やだー、怖い。ヤダヤダヤダー!!!」

 子供テルーは地面に這いつくばってジタバタし、何としても祠の中に入ろうとしなかった。無理矢理祠の中に入れれば、幼児虐待で捕まってしまうだろう。

 「すみません。アルファさん、いろはさん、お願いできますか?」

 「じゃあ、わたしからやってみて。」

 いろはが先に子供になることになった。

 「あ、祠の中に入ってから子供になってはどうかしら?テルーのようにならないとも限らないし。テルーは一人で怖かったら祠の中に入って来なさい。」

 いろはの進言に從い、一行はテルーを除いて祠の中に入った。

 「じゃあ、行きます!」

 『ゴツン!』

 いろはも七歳の子供になった。それから祠の中をキョロキョロした。

 「あ~!!お化け見ーっけ!!」

 オキタとアルファには見えなかったが、いろはとナツメには見えている存在があった。いろはは喜んでいたが、ナツメはアルファにしがみついていた。顔には「やったね」と書いてあるようだった。オキタがいろはに尋ねる。

 「いろはちゃん。ボストトーロが見えるんだね。話が出来るかな?」

 ところがいろははオキタの問いかけには答えず、いきなり走り出して彼女には見えている存在に飛びついた。そこでアルファが反応した。

 「いろは、ずる~い!!」

 「え?」

 「オキタ、わたしも斧で叩いてよ!」

 「し、しかし・・・」

 「早くしてよ!!」

 オキタが躊躇していると、アルファはオキタから斧を奪い取ろうとし始めた。

 「わ、分かりました。叩けばいいんでしょ。自分で叩いたら胎児まで行ってしまうかもしれませんよ。」

 『ゴツン!』

 アルファもまた七歳児になり、いろはがしがみついているボストトーロに飛びついた。

 「うわ~い!空飛んでよ~!!」

 その呼びかけに、ボストトーロは祠から飛び出し(見た目は二人の女の子が手を繋いで飛んでいるように見える)、はるか彼方へ飛んでいってしまった。

 「わ~!!どうしましょう!!」

 オキタは二歳のナツメと七歳のテルーとともに、茫然としてしまった。

 「とにかく、彼女たちを探さないと。いろはさんのペンダントなら、タブレットで追跡できますね。」

 オキタはタブレットを取出し、いろはの位置情報を確認した。しばらく移動していたが、やがて止まった。

 「ここより更に山奥に行ったようですね。大人なら問題ない距離ですが、この二人はどうしましょう・・・精神年齢は変わりませんが、テルー君は青い飴で体を大きくして歩ける力を付けましょう。ナツメ君は二歳児で大きくなったら暴走しかねませんからやめときましょう。さ、テルー君、この飴をなめてくれるかな。ナツメ君は背負っていきましょう。」

 テルーは量を調整した飴で中学生くらいの体になり、オキタの後について歩くことになった。ナツメはオキタに背負われ、三人は一度村へ戻った。

 そして神官に事の次第を告げ、ボストトーロと共に旅立ったことで、期せずして二人の生贄をささげる形になったことを話した。彼女たちの居場所は分かるため、もう一度山へ入ることを告げた。神官大いに感謝し、再び山を登るための食べ物などを用意してくれた。

 宿に泊まって体を休め、翌日オキタたち三人はタブレットの示すポイントへと歩き始めた。厳しい道のりだったが、三人は確実に指定するポイントへと近づいて行った。意外なことにその道は山を越え、反対側に出て下り坂となった。山裾には町も見える。

 「正直、山の神の住まう場所として、人跡未踏の原生林に向かうのかと思いましたが・・・これは一体・・・」

 ナツメを背負い、テルーを連れながらも夕方になる前にタブレットのポイントまで到着できた。

 「この付近ですね。すごく近い。」

 と近くの茂みがガサガサし始めた。

 「アルファさん、いろはさん、そこにいますか?」

 そして現れたのはアッガイだった。

 「なんでこんなところにアッガイが?これがボストトーロの正体!?」

 よく見ると、アッガイの顔には綱が結び付けられてあり、後ろに伸びていた。アッガイに手綱が着けられているのだった。

 「誰かいるの?」

 間違いない、それはいろはの声だった。アッガイが更に前に進むと、アッガイの背中には市女笠のいろはが乗っていた。手綱でアッガイを操縦しているらしい。彼女は飛び去った時は七歳児だったが、年頃の少女のようになっていた。

 「いろはさん!」

 「ここに何しに来た?」

 答えたのはいろはではなくアッガイの方だった。

 「あなたの背中に乗っている人を捜しに来ました。」

 「それでは願い事を一つだけ叶えてやろう。」

 「あの~・・・そういうつもりで来たのでは・・・」

 「早くしないと消えてしまうぞ。」

 「なんですか~?アッガイボール?まあ、よく分からないけど、この際なんでもいいか。この斧を壊せますか?」

 オキタはアレッシーの斧をアッガイに見せた。

 「無理だ。」

 「え~?じゃあ、何だったら出来るんです?」

 「時間を元に戻すとかならできるぞ。」

 「明らかにそっちの方が難しいんじゃ?まあ、いいです。ではわたしの背にいるナツメ君を元に戻してください。」

 「よかろう。」

 するとアッガイの眼からナツメに向かって光線が放射され、ナツメは元の姿に戻った。ナツメはアッガイを見るなり叫んだ。

 「連邦の化け物はモビルスーツか!」

 「とにかくよかった。ナツメ君が元に戻ってくれました。」

 「なんだか長い夢を見てたみたいだよ。あ、そうだ、あれからどうなったの?」

 オキタはいろはとアルファが七歳児になってボストトーロと共にここに来たことなどを簡単に説明した。

 「お~い、いろは、迎えに来たよ。」

 「わたしは父が人間に戻るまで帰らない。」

 「何言ってんだよ。君のお父さん、ディオの肉の芽でも植えつけられてるの?」

 「父は悪霊に憑りつかれて、刑務所でラジオを聴いたりジャンプを読んでたりしてる。」

 「それ、悪霊じゃなくてスタンドじゃないの?君のお父さん、承太郎なの?しかもスター・プラチナだよ。成長性『完成』の最強のスタンドだ!ああ、そうだ。君の着けてるペンダントも発信機がついてるよ。」

 「誰のこと言ってるの?父は動く刑務所にいるのよ。水族館じゃないわ。」

 「いろはの動くムショ?何それ。」

 「ナツメ君、君は元に戻りましたが、アレッシーの斧はまだ壊れてないのでいろはさんは元に戻らないのです。どうしたものか・・・」

 「そういえば、アルファはどこかな?」

 すると茂みがガサガサしてアルファが姿を現した。アルファも年頃の少女のようだが、両頬に丸く色を塗っていて、口の周りには血のようなものがべっとりと付いていた。

 「アルファ、なんだいそのマッドメンのような恰好?女なのでマッドウーメンかな。」

 アルファはおもむろに懐から一口チョコを取出し、包みの端を歯で噛んで指で引っぱり、ねじってほどこうとした。すると途中でブチっと切れてしまい、歯で噛んでいた方の包みを「ペッ」と吐き出した。口の周りの血のようなものはチョコだった。

 「おいい~、山でゴミすんじゃねえよ。」

 そう言ってナツメはアルファが捨てた包みを拾い上げた。アルファがナツメに告げる。

 「猿!」

 「いや、『去れ』だろ?ていうか、アルファ、鬼になんかなっちゃだめだ。しかも君の名は不寝子みたいに画数多くないよ。というより一筆書き出来るじゃないか。」

 「黙れ!わたしはラーテルだ!」

 「いや、それは否定しないけど・・・」

 「なんだと!」

 「ヨン、生きろ、そなたはまぎらわしい。」

 「ヨンってなんだ!サンだ!それから『美しい』だろ、何が『まぎらわしい』だ。てめえの帽子はもっとまぎらわしいだろうが。」

 ナツメはチェック模様のシルクハットをかぶっていた。

 「ああ、これね、鬼殺隊の帽子だよ。座ったままの姿勢でジャンプ出来そうなんだ。」

 「なめてんのか!鬼殺隊にツェペリっていないだろうが。さっきから色々混ぜやがって。」

 「とりあえず、アルファ、こういう会話、もっと続けようよ。」

 「うるさい!どっかいけ!」

 ナツメはアルファが元に戻らないのを見て、ボストトーロにお願いしてみようと問い掛けた。

 「アルファはラーテルだ。彼女をどうする気だ?」

 「黙れ小僧!」

 アッガイ姿のボストトーロが怒っている。

 「さっさとこの二人を連れて帰れ!」

 「いや、嫌われてるよ、二人とも。山の神様に思いっきり嫌われてるよ。確かに山でゴミしちゃいけないよな。」

 そう言うとナツメは自分の周りに大量のごみが捨てられているのに気がついた。

 「こりゃひどいな。山の神様怒るわけだ。ってゴミ関係なく二人に怒ってるのかな?まあいいや、せっかくだし、みんな、ごみを拾って帰ろうよ。」

 気が付くと、アルファもいろはもメークと服以外は元に戻っていた。ボストトーロが二人にうんざりして元に戻したらしい。結局一つではなく三つも願いをかなえてくれたようだ。

 「その前にアレッシーの斧を壊すわ。オラオラオラオラオラオラオラオラー!」

 いろはがオラオラのラッシュを繰り出し、斧をボコボコに破壊した。ようやくテルーは元に戻れた。

 「細かいゴミはこいつで集めよう。」

 アルファはハーヴェストを呼び出して小さなゴミを集め始めた。あっという間に小山のようになった。

 「ありがとう、アルファ。次は大きいのを集めよう。」

 みんなは手分けしてゴミ拾いをした。

 「いろんな物が落ちてるなあ。わざわざ山の中まで持ってくることないのに。」

 「やい、ナツメ、てめーだろこのビニール人形捨てたの!このド変態が!」

 「え~??ボクじゃないよ~。」

 「てめー以外誰が捨てるんだよ。ちゃんと供養しろよ。」

 「そんな~・・・誤解だよ。」

 ナツメをからかっていたアルファだが、急に神妙な顔つきになってナツメに問い掛けた。こんなことを聞けるのはこいつくらいかなと勇気(?)を奮ってみたのである。

 「なあ、ナツメ・・・、南極一号ってなんだ?」

 アルファはナツメが笑うか突っ込んで来るか警戒していたが、以外にも真面目に答えてくれたので驚いた。

 「ああ、ベンテンさんのことね。」

 「・・・?ベンテンさん?」

 「両足を切ったマネキン人形を南極に持って行ったんだよ。」

 「なんだ~?男ってのはジオング見てもムラムラすんのかよ!」

 「そう言うけど、女の子だって鉄格子見てムラムラして、マ・・・」

 「それ以上言うんじゃねえ!」

 「ことはついで聞くんだけど、便器のスイッチに『ビデ』ってあるよね?あれって何?」

 「それをわたしに答えろと?」

 「うん。」

 「じゃあ教えてやるよ。知っていると言いたくなってしまう嫌な癖があるのさ。外国のホテルには便器の横にビデっていう専用のものが置いてあるんだ。日本人はよくそれでうがいしてるんだよ。だから、うがいするためのボタンだ。」

 「・・・ボク試しにそのビデのボタン押してみたんだよ。そしたらお尻じゃなくてもっと前の・・・」

 「それ以上言うんじゃねえ!とにかく、さっさとゴミ拾うぞ。」

 「う、うん。」

 五人とボストトーロ(アッガイ)の尽力で、山のゴミはすっかりきれいになった。

 一行はゴミをオート三輪に載せ、荷台にアルファといろはを乗せ、ボストトーロに別れを告げて山を降りた。道を走っていると、前方に自転車に乗る人影が見えた。いろはがアルファに耳打ちする。

 「あ、アルファ、隠れて。」

 自転車に乗る人を追いこすと、ベレー帽をかぶり、ライフルを持っている人物だと分かった。

 「お巡りさんじゃなくてFBIだった。お~い!」

 オート三輪は村に入って空き地を探し、そこでゴミの分別をすることにしたが、拾ったはいいが、分別はその何倍も大変だった。

 「ナツメ、てめーがてんがとか捨てるから気持ち悪いし分別がややこしいんだ。全部てめーが責任もって処分しろ。」

 「わたしはてんがとは関係ない。わたしはいつも独りの男だった。」

 「てんがとザビ家を同列にしてやがる。」

 「いくつになっても、そういう事に気付かずに、人を傷つけるものさ。」

 「第二のてんがになろうとしているのがわからないのか。」

 「もう、二人ともまじめにやってよ。いつまで経っても終わらないでしょ。わたしは早く体を洗いたいし着替えたいの。」

 いろはは未だに市女笠の恰好だったので、動きにくい上に暑そうだった。

 「いろははその恰好、似合ってるね。」

 「やかましいぞ。かきたくもねえ汗をかいてるんだぜ。」

 燃えるごみや缶やびんなどを別々の袋に入れ、アルファといろはがナツメに押し付けた、おとなのおもちゃ系の粗大ごみをひとまとめにして、処分場に持って行った。

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