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第一章 旅立ち

 「この世界は破滅へと向かっておる。そなたを呼んだのはほかでもない。この災いの根源を突き止め、世界を破滅から救うことじゃ。やってくれるな、オキタよ。そなたの家族にも了解を得ておる。」


 ヲニ国の女王ヒミコに呼び出され、商人オキタ・アルガはこのような依頼を受けた。オキタは正直に疑問を呈する。

 「そのような重要な使命は、勇者や聖者のような人の役目ではないですか?わたしはただの、というよりそれほど有能でもない商人ですよ。武器商人でもありませんし、扱っているのは日用品やおもちゃですよ。しかも稼ぎの低さが売りでしてね、妻に愛想つかされたばかりです。」


 ヒミコは構わず続ける。

 「わらわはおぬしが能力や才能、実績もあり、澄んだ心、正直な行いがあると見込んでおる。

 さて、この国の三宝の入った玉手箱が何者かによって盗み出された。三宝を手に入れようと目論んでおるのは隣国のクニ国じゃろう。これは悪い前兆じゃ。まずはかの国の野望を防いでくれるか?

 何も身一つでやれとは言うておらん。そなたにはこのゴールド・エクスペリエンス・レクイエム・カードを渡しておこう。利用枠1兆円のクレジット・カードじゃ。遠慮なく使うがよい。

 信頼のおける仲間を集め、共に世界の破滅を救ってまいれ。頼んだぞよ。」


 オキタはしぶしぶ承知した。

 「わたしに澄んだ心があれば、妻は逃げたりしないと思うんですがねえ。それに、なんですか?ゴールド・エクペリエンス・レクイエム・カード?そんなもの使ったら一生完済という真実にたどり着けなくなる気がしますが・・・とはいえ、この世界は緊急事態のようです。わたしの力及ぶ限りのことは致します。」


 ヒミコはあと二つ贈り物をくれた。

 「これはバトル・スカウターじゃ。レンズを通して相手を見ると、HPなどが分かる代物じゃ。上手に使うがよい。もう一つは多目的タブレットじゃ。使い方はおぬし次第じゃ。」


 オキタはスカウターを受け取ると左目に装着した。そしてすぐにヒミコを計測し始めた。


 「何をしておるのじゃ?」


 オキタは古いネタを語り始めた。

 「かつて『ウルティマ恐怖のエクソダス』っていうゲームがありましてね。怪物退治を依頼した王様がはっきり言って最強でしてね。『自分で行けよ』ってとこなんですよ。ヒミコ様もそれと同じかな、なんて思ったりして・・・」


 ヒミコはやれやれという感じでオキタを送り出す。

 「そなたの行く道は困難を極めるじゃろう。じゃが、神のご加護があるぞよ。では、行ってまいれ。」


 オキタは一礼してヒミコの前を去ってドアを開けようとした。

 「あの、鍵かかってるんですけど?」

 「そうじゃった。ドラクエⅠもそうじゃったの。ほれ、一回で壊れる鍵じゃ。」

 「壊れる鍵で開けるのはいいですが、閉めるときはどうしたんですか?まあ、いいですけど。」


 オキタは家に帰って身支度をし始めた。一人ぼっちになってしまった自宅は、とても寂しかった。

 『この使命を家族の者が承諾しただって?出てったよめさんが?いよいよさようならってことなのかな?涙が出てくるよ・・・』


 オキタには自分より一回り若いが親しい友人がいた。オキタの二人の子供の遊び相手をよくしてもらっていた、気のいい男だ。オキタはその若者を旅に同行させようと考えて、ナツメ・デーツの家を訪問した。

 ナツメの家の壁には様々なローン会社の看板が張られ、『30日間無利息』『即日融資』『保証人不要』といった文字の宣伝であふれていた。

 また黒字のトタン板に黄色の大きな文字で『永遠の神イエス・キリスト』『悔い改めよ』『裁きの日は近い』などの看板も張られていた。その他古い広告看板もあった。関係者がほぼ勝手に張ったものと、彼の父が他人の家に張ってあったものをはがして持ってきたものもあった。

 そんな妙な見かけの家にナツメは住んでいた。玄関や彼の部屋には様々なプラモデルが置かれ、アニメやゲームのポスターが張られていた。大半はオキタから買ったもので、ナツメはいわゆるお得意さんだ。オキタの子供たちはそんな彼の家で遊ぶのが好きだった。家の見た目が周りから浮いていたため、変な家、そして変な家族と思われていた。


 ナツメは普段は薪を切って売ったり、木の器などをつくるろくろ職人をしていた。木の買い出しに各地を旅することもあったので、この責任にはうってつけだと考えていた。ナツメはオキタが訪問した時に薪割りをしていた。

 「やあ、ナツメ君。」


 「あれ、オキタじゃん。おはよう。何かお勧めのプラモあるの?」


 「今回はプラモの話ではありません。お願いがあって来たのです。」


 「何だい?」


 「一緒に世界の破滅を救いに旅立ってほしいのです。」


 「おお、いいね!行こうぜ!」


 「苦しい旅になると思いますよ。」


 「いいじゃないか。何でも来いだ。いつ行くんだい。」


 「家族の了解を得てからです。」


 「父ちゃん、母ちゃん、ちょっと世界を救いに行って来るぞ。しばらく帰らないから。貯金好きに使っていいよ。」


 「ああ、行っといで。女の人には親切にね。」


 「っていうわけで、いつでも行けるよ。」


 「・・・・・では必要なものを買い揃えに行きましょう。すぐに出発です。」


 「どこへ向かうんだい?」


 「ヲニ国の山をはさんだ南隣、クニ国に行きます。」


 オキタがナツメに語ると同時に、読者にも分かるように説明した。

 「現在我々が住んでいるこの列島は、かつてソラミツヤンマトンボ国と呼ばれていました。その中央にある急峻な山塊を『黄泉比良坂(よもつひらさか)』と呼んでいます。何十年も前、黄泉比良坂の南に突如としてヤマビコという者が現れ、クニ国を興しました。


 ヤマビコは軍勢を組織して侵略を開始し、全地は大戦争となりました。やがてヤマビコは全国を手中におさめ『我こそは現人神である。我を崇め、服従せよ。されば楽園の栄えを受けん』と宣言し、恐怖と圧政による支配を始めました。


 ところが、全国にあらゆる災害や疫病が発生しました。全土は荒廃し、人々の心は折れてしまいました。我慢できなくなった民衆は、各地で反乱を起こしました。


 そんな中、父以上の野心を持っていた息子のビャッコは、自らが王になる絶好のチャンスととらえ、ヤマビコから王位を簒奪しました。そして国民の信条や職業の自由を認め、全土の内、北半分をヲニ国とし、ヒミコ様を擁立しました。すると、ようやく災害と疫病と荒廃は沈静化しました。


 ビャッコはヲニ国の主権を認め、全国に平和をもたらしました。しかし、最近になり、三宝を盗み出した黒幕と思われることから、何らかの邪悪な計画があるように思われます。ヒミコ様はその調査をわたしに依頼されたのです。


 ナツメ君、クニ国へ行く最大の難所であり、国境でもあるのが黄泉比良坂です。そこを通る際、振り向くと死ぬといわれています。」


 「え~?!そこってヴァニラ・アイスがいるわけ~?峠でアイス・クリーム売ってるだけだといいのにな~。それとも犬のふんが落ちてる郵便ポストでもあるの?誰か振り向いた人いるの?犬の鳴きまねした殺人鬼は振り向いたかもね。え、ちょっと待って、その道を往復するなら、帰るとき振り向いたことにならない?」


 「ビャッコがクニ国の王となった後、黄泉比良坂を通ってクニ国へ行く者は二度と戻ってきません。それが『振り向いた者は死ぬ』もしくは『殺す』ということなのかもしれません。そのため、もう誰もクニ国へ行こうとする者はいません。」


 「じゃあ、ボクたちは二度と戻れないかもしれないってこと?」


 「それを解決するのが我々の使命というわけです。黄泉比良坂まで歩いて十日ほど、それを越えるとクニ国の領土に入ります。」


 二人は故郷をあとにし、クニ国目指して出発した。

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