第十一章 宇宙空母の帰還
「何だこれ?」
みんながその四角い物を拾ってみた。画用紙のようだった。ビリビリに破けた物も多かったが、無事な物もあった。
『ガニラス星のルートベア総統は良い人です。言うこと聞いてください。』
『地球はガニラス星人がいただきます。』
『地球人のみなさん、どうか降伏してください。』
など、いろいろな絵入りのメッセージが書かれた紙だった。大半が子供の描いたものらしい。どうやら先ほどのミサイルの中に入っていたもののようだ。オキタが自分の考えを述べる。
「先ほどのミサイルはこれをばら撒くための物だったようですね。攻撃というほどのものではなかったかもしれません。みなさんには御足労でしたが・・・」
すると、突然というよりもみんなが気付かなかったのだが、巨大な2隻の船影が地上に降下してきた。その巨大な船は高度を下げ、ヤマトの隣に着陸しようとしている。ヤマトよりも100メートルほど大きい。ヤマトが265メートルなので、350メートル以上あると思われた。それは戦艦ではなく空母であった。その隣にもう一隻降りてきた。これは大和とそっくりな戦艦で、長さもほぼ同じであった。
2隻が降りてくるのを見ていると、空母の底部、船首のバルバス・バウの部分が外れて潜水艦が姿を現した。それが大和の甲板に近づき、潜水艦のハッチの部分が甲板と同じ高さとなって艦に横づけとなった。潜水艦のハッチが開き、一人の女性が出て来た。なかなかに凛々しい顔立ちだ。
ナツメが歓喜の声を上げる。
「マチルダさ~ん!」
「違います!わたしはガニラス星の総統ルートベア総統の側近で、カオルという者です。ヤマトの乗組員の諸君、そなたたちの勇敢なる行動に敬意を表します。代表者は誰でしょう?話がしたいのですが。」
みんながオキタの方を見る。オキタが小さく答える。
「普段着でいいですか。船長の役は疲れますし暑い上に、軍靴は水虫がかゆいので、草履で失礼します。」
一行はカオルをラムネ喫茶室に案内した。オキタがラムネを勧め、要件を聞き始めた。ついでにテルーは違う席に陣取り、ラムネをおいしそうに飲み始めた。ナツメはアルファがいないので、彼女を探しに喫茶室から出て行った。カオルが話を切り出した。
「オキタ船長、我々はガニラス星という、地球から遠く離れた星から来たガニラス星人です。しかし、遠い昔、地球から移住した民なので、実際は地球人ということになります。地球が大破壊に見舞われたとき、脱出してガニラス星に移住したのです。我々はガニラス星で大いなる文明社会を築きましたが、寿命は短くなる一方でした。
水が合わないなどの問題が少しずつ積み重なり、体が弱くなっていると予想されました。そこで人体を精査したところ、我々の先祖が地球の水や塩から摂取していた、必須のミネラルや栄養素が足りていないことがわかりました。それらはガニラス星の水では不十分だったのです。
我々は自分たちの命を救うため、地球へ帰還することにしました。ところが現在の地球はひどく環境が汚染され、我々が求める水はごくわずかしか検出できませんでした。それを我々が入手するとなると、地球人と水や土地の奪い合いになる事が明白でした。
地球はかつて大破壊に見舞われました。しかし、それがタイムカプセルとなり、そのときの環境が閉じ込められている場所がないか、地球の各地をレーダーで探索しました。すると、この砂漠の地下深くに太古から眠る膨大な地下水を見つけました。そこには我々の先祖が地球に住んでいた当時の水があったのです。我々が必要としている命の水がこの地下にあるのです。
この砂漠は人を寄せ付けない過酷な環境であるため、地球人は住まないことから、我々が移住するのに支障はないと考えていました。ところが、何やら巨大なパワーを持つ者がおり、それが地下に根を伸ばそうとしており、また宇宙戦艦までそこにあったわけです。我々はまず降伏を勧告するため、前もって準備しておいたアドミサイル、すなわち宣伝を充填したくすだまをここにめがけて発射しました。」
テルーがうめく。
「あれ、くすだまですか~?『地球人よ、これが最終兵器だっ』ていうミサイル攻撃じゃなかったの?」
カオルが話を続ける。
「我々の目的、もっと言えば希望は、ここに移住し、この水で生き返ることです。あなたがたはいったい何者ですか。ここで何をしていたのです?ここの所有者であれば、交渉をお願いしたい。」
オキタが自分たちの説明を始める。
「わたしたちは砂漠の地下水については知りませんでしたが、あなたの話で合点がいきました。あなたがたがここで検出した巨大なパワーは大魔王のものです。この者は巨大樹となって全人類を自らの栄養素として吸収するつもりだったのです。その代償として、全人類は永遠のまどろみに入ると大魔王は言っていました。
なぜこんな砂漠の真ん中に大魔王がいたのか、それはこの地下水を利用するためだったのですね。このミネラル豊富な命の水を吸い、その力でさらに人類をも吸い尽くそうとしていた・・・。大魔王の正体ははっきりとはわかりませんが・・・。」
カオルがそれに答える。
「おそらくそれは宇宙樹ではないでしょうか。本来ならその星や人類を育む神の樹であるのが、なぜかここでは邪悪な意思をもって人類を滅ぼそうとした。もしかしたら、地球人は自ら滅びの道を歩むようなことをしていなかったでしょうか?大魔王が言ったという『永遠のまどろみ』、この望みを人類の大多数が望んでいたということも考えられます。原因は人類の心にあるのかもしれないのです。」
オキタが同意する。
「そうかもしれません。生活が保障された快適な惰眠と、無益で過酷な重労働のどちらかを自由に選んでもよいと言われたら、大方の人が前者を選んでしまうかもしれませんね。その心が生み出した化け物があの大魔王だったのかもしれません。
カオルさん、あの宇宙戦艦は大魔王を倒すために私が購入したものです。その目的を達成したので、誰かを攻撃するようなことはもうありません。第一、動かすのは大変な代物です。もともと3000人で動かしていましたからね。そしてこの土地ですが、あなたたちがここに住みたいというのでしたら、好きになさったらどうでしょう。
大魔王は変わり者だったのでしょうか。彼はこの土地を購入していたようです。権利書は電子文書で残っていると思います。それを入手されて名義変更されたらどうですか?今ははんこいりませんから。それで万事解決ではないですか?」
カオルが驚きを隠せない。
「それはありがたい話だ。早速総統に伝えに行こう。ああ、オキタ船長、このラムネ、何本か貰えるだろうか?」
オキタが微笑んで答える。
「一日の製造本数は最大5000本です。あの2隻の巨大船にそれぞれ3000人ずつ乗っておられるのなら、今日の分はちょっと足りないかもしれませんね。それから、びんは再利用しますので、返却をお願いします。割ってビー玉を取り出すのも出来ればおやめいただきたい。びんの中にタバコの吸い殻も入れないでくださいね。」
テルーが付け加える。
「ラムネもおんなじか~。ボストトーロの山でゴミ拾いしたとき、缶に吸い殻入ってたの取り出すの、死ぬほどうっとうしかったもんな~。」
カオルが嬉しそうに答える。
「ありがとう。総統にお土産としてもらっていきます。クルーには1隻ずつ順番に飲んでもらうことにしましょう。」
オキタが不思議そうに尋ねる。
「というか、そちらの船にも炭酸ガス消火設備があると思いますが。大和とよく似た戦艦なんて、それを利用した同じラムネ製造設備がありそうですけど?」
カオルが回答する。
「ラムネは作っていませんが、レモネードの設備はあります。」
オキタが笑いながら話す。
「ラムネはレモネードがなまったものですよ。わざわざ持って帰ることもないのでは?」
カオルが力説する。
「このびんがなんともいいんですよ。うちのはペットボトル詰めですから、無機質なんです。ラムネの方がおいしいんですよ。ガラス玉をコロコロやるのがなんとも。飲み物は形も音も重要です。割ってはいけないのが残念ですが。うちのクルーの誰かはやってしまうかもしれませんが・・・」
カオルの話しぶりは、最初は外交官風だったのに、だんだん世俗的になってきた。オキタはこの会話にナツメとアルファが参加していないことを残念に思っていた。
「ナツメ君とアルファさんがいたら、もっと盛り上がっていたかも・・・。」
カオルは再び潜水艦に乗り込み、潜水艦は空母のバルバス・バウに戻った。それから空母は大和に横付けし、甲板同士で橋げたを渡した。ラムネを取りに大勢のクルーが降りてきた。隣の戦艦からはブーイングが起こっている。それを見ながらテルーがつぶやく。
「最初からなぜこうしなかったんだ?わざわざ潜水艦で来る必要あった?」
オキタがまた残念そうに言う。
「やはりここにもナツメ君とアルファさんがいないことが悔やまれますね。彼らなら何か的確な面白いことを言ってくれただろうに・・・。二人で早速あの空母に乗っていたでしょうに。」
潜水艦の収容が終わると、カオルはルートベアの許に駆けつけ、事の次第を報告した。
「総統、あの宇宙戦艦もそのクルーも敵意や戦意は全くありませんでした。戦艦の武器の使用は、宇宙樹の暴走を食い止めるためと、アドミサイルを最終兵器と勘違いしたものでした。また、この土地は電子文書の名義変更で入手できるとのことです。驚くほど簡単に事が済んでしまいそうですよ。それから、これ、お土産にもらってきました。ラムネといいます。私も飲みましたので成分は問題ありません。おいしいですよ。びんのデザインも好きです。」
ルートベアが顔をほころばせる。
「そうか、ご苦労だった。だが気は抜けぬぞ。我々がここを占有したとなると、他の地球人が黙ってはおらぬだろうからな。あの宇宙戦艦も地球人が購入可能なものだったわけだからな。ほかの者たちが購入して、こんなのが大勢で攻めて来れば宇宙戦争になってしまう。ともあれ、一休みしよう。ラムネといったか。いただこうじゃないか。どうやって栓を開けるんだ?それに、どうやって密閉したんだ?なんだこの容器。」
カオルがはっとする。
「あっ、どうでしたか・・・。彼らはどうやって開けていたんでしょう。」
ルートベアはラムネが飲みたくてたまらなくなり、ふたの開け方を聞きに行くことにした。カオルが呆気にとられる。
「ラムネ飲むの、そんなに大事なことですか?」
ルートベアはかなりじれていた。
「ラムネ!飲まずにはいられない。あの顔が汚れて力が出ない男のように自分は荒れている。さらなる高みがあるなら私はそこへ行くのだ。」
カオルが呆れる。
「ラムネにあんことサボテン混ぜたようなこと言わないでください。何者ですか。」
ルートベアはさらに続ける。
「私だけの世界!この戦いだけは退くわけにはいかないのだ。」
カオルがつっこむ。
「今、スイートビーンズブレッドマンのセリフ、思いつかなかったんですか?」
ルートベアはうろたえた。
「こ、この我が世界に入門して来るとは・・・。」
ルートベアは急いで滑走路へ出た。オート三輪でラムネが配られているのを、大勢のクルーが受け取っているのが見えた。ルートベアがその前に立ちふさがる。カオルがつっこみ役として急いで後を追う。
「止まれ―。」
運転手が叫ぶ。
「あぶねえじゃねえか。って総統、何やってるんですか?」
ルートベアが懇願する。
「女の子を見かけ・・・、いや、このふたが開かないんだ。」
一緒に乗っていた女性のクルーがびんの開け方の説明をしてくれた。
「これ、玉押しっていうそうです。こうやって使ってください。」
女性は荷台の枠にラムネのびんを置いて玉押しを手のひらでポンッと叩いた。ルートベアはあわてて軍刀に手を掛ける。
「銃声!!」
カオルがやっぱりという感じでつっこむ。
「黒船に乗った江戸幕府の役人ですか。わざとやってません?」
ルートベアは玉押しを受取り、びんを甲板に置いてポンッとやった。走って来たので振られた上に、すっかりぬるくなっていたラムネはブシューと吹き出して服が濡れた。ルートベアはわめく。
「やっちまったぜ。エリナばあちゃんに叱られるー。」
と言ってびんを逆さまに向けて飲もうとしたが、ビー玉が引っ掛かってラムネは出て来なかった。
「オー、ノー!」
カオルが呆れ果てて言う。
「ヤレヤレ。」




