決して死なない(6)異世界創生
太陽は不安定さを増し、やがて一瞬で地球を吹き飛ばすような爆発を起こすだろうことは科学者の一致した見解だ。その日は10年以内で30%程度と見積もられている。
新しい地球への移住も考えられたが、移住先になるような星も見つかっておらず、そもそも太陽系外に出るような宇宙船もない。外宇宙への移住の必要性に気づくのが遅すぎた。
惑星の往還程度の宇宙船は今でもある。エーテルの発見と変換技術の発展でエネルギーは実質的に無尽蔵となりコンピュータの能力も飛躍的に向上した。どこに向かってもいいのであれば、外宇宙に出ること自体はおそらく不可能ではない
実際に急ピッチで宇宙船は建造されている。資産家が全財産を投資するのだから資金は潤沢だ。それでも居住スペースだけでなく循環型の環境も整備が必要で目的地が明確な従来型にはない問題も多い。
「新しい世界を作ろう」
郷田はフルダイブVRの研究の第一人者だった。ダイブ中はリアルに近い感覚で世界を感じ取れる。終わろうとしている世界から逃れられる。しかしその技術は世に出て間もなく社会から抹殺された。
フルダイブVRは脳からの信号を読み取りコンピュータ内のアバターの動きを制御することから、リアルの肉体への信号を遮断しリアルの肉体を蝕んだ。この技術は麻薬と同等に管理され、医療機器として残る以外は機器の製造も禁止されている。
郷田はその技術とAIを使って新しい世界を作ろうと考えた。人間の脳ではなくAIを脳とするアバター。医療機器として使われる世界は狭いが自然豊かで楽園のような環境が整っていた。そこに自分たちではなく、AIによる独立した人間を配置したらどうだろうと考えた。人間とよく似たアバターを用意し、人間と似た思考をする独立した存在。彼らは人類のコピーでありコンピュータの中で生き続ける。
最初に配置したのが男性に似せた「A」、女性に似せた「I」の2体。医療用の狭い世界でも二人は思うように動いてはくれなかったが彼は満足していた。そして世界を拡張し続けた。AI人間を多数配置し、地球に似た天体、太陽系に似た恒星系、おそらく彼らが見上げるしかない遠い星も多数配置した。
AIで作った世界にエーテルはない。エーテルによって発展した人類とは別の未来が待っているのだろう。郷田はAIの住む世界の全てであるコンピューターを宇宙船に乗せて外宇宙へと旅立たせた。外宇宙にもエーテルだけはある。コンピュータのエネルギー源であるエーテルは尽きない。
太陽が終わりの時を告げ、郷田の命もいずれ終わるだろう。しかし、郷田の子であるAやIの子孫たちは決して死なない。永遠の時を生き続けるだろう。
異世界転生の異世界はゲーム世界のような要素に満ちている。
それはこの世界で理解しやすく、でもその中の人にとっては世界の全てである、という構造になっている。
この構造をそのまま上位次元に持って行って、現実世界を上位次元のコンピュータの中の世界であると置き換えた物語です。
AIをアダム(A)とイブ(I)にするために郷田(GODA)なんて名前も使ったんですが、「彼」で良かったかも。