11 満腹
はい、静かな引きこもり暮らしからの、一歩を踏み出す決心をしちゃったサイリです。
ついに今日から、訓練などという僕らしくもないことを始めちゃいますよ。
何せ僕は一家の主人、同居している乙女たちの平穏な生活を守るためなら、ひょろひょろボディにムチ打ってでもがんばっちゃうのです。
「ほどほどに、な」
分かってますよ、イリーシャさん。
いわゆる、前振りってやつですよね、それ。
「ひとりで大丈夫?」
大丈夫ですよ、スーミャ。
ってか、僕はタンデムなんてやったことが無いですし。
「お気をつけて」
はい、行ってきます、プリナさん。
夕飯までには戻りますね。
それでは、『転送』!
うひゃあ、高い!
落っこちる前にっ、
あそこの空き地にっ、『転送』!
不時着成功、助かった……
やっぱりめっちゃ怖いよ、これ。
まず必要なのは技術よりも度胸、だよね。
実は、新しいやり方の『転送』の訓練中なのです。
まずは『Gふなずし』の地図を頼りに、行きたい場所の上空に『転送』
そして落っこちる前に安全な地面を確認して、再『転送』
名付けて"システマちっく『転送』"!
……あんまりやりたくないよ、これ。
でも『転送』能力を鍛えておくと、いざという時に必ず役に立つって、メイジさんも言ってたし。
固有スキル使用時以外の戦闘力が皆無の僕は、芸、じゃなくて、技を増やした方が良いかなって。
とりあえずこれで、僕が出来るようになった『転送』方法は3種類。
『特定転送』:マーキングした場所への『転送』で、一度行った場所への再訪に便利。
『自在転送』:人のイメージをたどっての『転送』で、知り合いへの訪問に便利。
『システマちっく転送』:地図を参考にする『転送』で、行ったことの無い場所への移動に便利。
うん、がんばってるよ、僕。
次はソロ『転送』じゃなく、定員ふたり以上の手繋ぎ『転送』にチャレンジ、かな。
またメイジさんにコツとか教わりに行かなきゃ。
メイジさんは『転送』の達人で、魔族領到達長距離多人数『転送』の成功という偉業を誇る、凄腕『転送』おじさんなのです。
うん、僕もがんばっちゃいますよ、師匠!
と言うわけで、久しぶりにメイジ師匠のところへご挨拶に。
……
「それにしても、師匠はやめてよね、サイリさん」
いいじゃないですか、メイジ師匠。
そもそも『転送』うんぬんのみならず、引きこもりの僕を冒険の旅に誘ったのはメイジ師匠なのです。
おじさんが若くて素敵な奥さまを娶ることに多大な責任が生じるごとく、
いたいけな若者の人生を180度変えちゃった以上、監督責任が発生するのも当然なのです。
「何だか前とは別人みたいに積極的になっちゃったね、サイリさん」
「良いことだとは思うけど、無理だけはしないでね」
任せてください、一家の主人として恥ずかしくないよう、師匠を見習って、まずは手に職でも付けようかと。
「……本当に無理しないでね」
「家庭を持つと男は変わるって言うけど、サイリさんはちょっと変わりすぎだよね、セルマ」
「あなたの女性関係ほどは劇的に変化していませんから大丈夫ですよ」
「こりゃあ一本取られたよ」
「うふふ」
「あはは」
うむ、これぞまさに理想のらぶらぶご夫婦。
屋台に並ぶお客さんたちの前でも、堂々のいちゃいちゃっぷり。
さすがは師匠ご夫妻!
「まいどどーも」
「また来てくださいね」
本当に、ごちそうさまでした。




