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めでたい葬式

作者: HasumiChouji

 ここまで来るのに五十年以上かかった。

 まぁ、確かに古い手かも知れない。

 1940年代にイギリスの小説家が当時のソビエト連邦を揶揄して書いた恐怖小説に出て来た手だった。

 そして、今は亡き前・大統領と、その有能なるスタッフ達は、これまた今は亡きソビエト連邦より遥かに巧くやった。

 今や、この国の一般臣民用標準語に「国民」と云う単語は無い。

 あくまでも、国家と政府と大統領に服従する「臣民」だ。

 「民主主義」に相当する単語を、軍事クーデター……じゃなかった、革命後の我が国の体制以外の政治体制について使おうとすれば……明らかにおかしな文章となる。

 あ、そうだ。「クーデター」に相当する単語も、五十年前のあの「革命」について使おうとすれば、これまた意味が通らぬ文章と化す。

 あの偉大にして神聖なる革命の時点で、ディストピア小説「1984」が書かれた時代よりも、遥かに言語学その他の学問は発達しており……そして、革命以前の我が国の標準語をベースにした、国や政府や大統領への反対・批判は、邪悪でネガティブなニュアンスが含まれるような、そして、国や政府や大統領への賛成や賛美は、真善美にしてポジティブなニュアンスが含まれるような文章しか作れない人工言語を完成させたのだ。

 最早、ポリコレに毒された外国の映画や小説・コミックは、この国の忠良なる臣民達の心を動かす事は出来ない。

 例え、地下で出回ろうとも、「反逆」「反政府」が「悪」でないと云う印象を与えるように、そして今の我が国の政治体制我を覆す事を「民主化」と云う言葉で表現しても意味が通るように、一般臣民用標準語に翻訳する事は不可能となったのだ。

 しかし、我が偉大なる前任者である前・大統領は、あの革命の時点で四十代半ばだった……。

 それから五十年以上……誠にご苦労様でした。安らかにお眠り下さい……。

 私は、先程、前・大統領の国葬を大々的に行なうと発表した。

 そして、一般臣民の反応は……。

 一般臣民の反応は……。

 反応は……。

 しまった。

 一般臣民用標準語は、国家・政府・大統領に関する事は、ポジティブな表現しか出来ないように注意深く設計されていた……。

 それが裏目に……。

 なんて事だ……。

 国営一般臣民用SNSには、一般臣民達の悦びの声が溢れていた。


「国葬おめでとうございます。とっても楽しみです」

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