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そしてまた、うた歌いの夜は、更けゆく

作者: 秋葉竹


ようやくうたを歌う理由を

手にすることができた瞬間から

あたしの好きなうたは

聴くことができなくなる


なんども、なんども、

なんども、なんども、

この身をゆだねた

なにを代償にするつもりもないあたしに

潮騒は巧妙に両手を広げて

終わりのない水平線まで

あたしの喪失をいざなうから

あたしの好きなうたは

聴くことができなくなる



残された希望と言えば


宵闇に横たわる海が

傷もない真っ正直な鏡となり

星も哭く、暗闇の夜空となる


それくらいのものさ



そう、

なんども、なんども、

なんどもなんども、なんども、

触れられないから手をのばす

無垢な聖性だけに憧れる



凍ってしまった海を渡って

泣くのを我慢して

さみしい人たちが

しずかに

ひとりずつ

やって来る

彼女の気ままに作った

でたらめな星座をたよりに

いつも悲しみを瞳にたたえて



なぜ連れていってくれないのかと

恨みの言葉はいまも

あたしの中の無垢な信号として

赤色点滅を灯しつづけるものだから

それを消し去るまえに

居心地の良い自己欺瞞を

消さなければいけないのに


日常に溺れるあたしには

いまを生きることしかできない


あたしは

彼女を知ったのに。

きよらかに灯る聖火の孤独を知ったのに。


そんなに悲しい孤独があるのか、と

あたしは

彼女の声を

勇気を振り絞って聴く


もう、いいのだ

あたしのこころが黒い消し炭になるまで

いっぺん残らず焼き尽くしてくれればいい


そして彼女こそ、

たいせつなうたを歌う理由を

その胸に刻み、残し、守って、

ほしい

彼女という

うた歌いの夜はいまよりも

寒く

いまよりも

妖しく

さらに、さらに、更けてゆくのだろうから













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