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義手

 魔神の動きが見えないまま数ヶ月が過ぎた。樽内の温泉宿は開業から連日満室でコッチの世界では一般的じゃない、『予約』が必要になっていた。

 学校に通い始めたネージュもすっかり慣れたようで、楽しそうにしていた。勉強もディアンが見たりしているのもあって、しっかりついて行けているそうだ。


 夜遅くなって、急な来客。伏丘の鍛冶屋で杏の弟子をしている薫だった。

「保香美で特殊な金属を買い漁っている人がいて、うちにも今日買い付けに来たんです!」

「えっ?素材採取の依頼?」

「いいえ、かなりのレア素材なので必要ならば四元さんに依頼するのは間違い無いんですけど、ちょっとお耳に入れておかなければならない事がありまして・・・。」

 薫の説明によると、問題の金属は主に義手や義足を作るときに使う物で、1つの義手で数十グラム、義足で100〜150グラム、今回は4キロ欲しいと各地に買い付けに回っているそうだ。まさか、魔神の義手?

「もしかして?」

薫は頷いて、

「杏先生も、魔神の大きさや、戦った時の欠損状況から、四元さんがお考えになった通りの心配をされてました。」

「でも、それ使って新しい腕、作れるのかしら?」

春菜は首を傾げるが、

「実は・・・」

 ヤバい鍛冶屋が脱獄したそうだ。動物や魔物に武器を植え付けて凶悪な兵器を作った事で投獄されていた男が、尊村と同一時期に脱獄したらしい。その男、杏の師匠、王都でお世話になっている親方の元兄弟子で、危険な武器ばかり作るので破門になった経緯が有るとのこと。尊村と一緒に行動していた可能性は否定できず、その場合なら福次郎と繋がっていて当たり前。生物を兵器化する技術で作る義手は、失った能力を補う事より、戦力を創造したと考えても可笑しく無い、寧ろ、そう考えるのが普通かも知れない。杏はその危険に気付き、手元にあった素材は手放さず、他の調達先に連絡をしたが、既に大量に入手している事が判明した。他の街での調達を合わせると必要量を確保していると、杏は計算しているそうだ。

 必要な情報を話すと、

「夜分、お騒がせしました。それから・・・」

魔神の儀式の際、お母さんも旧都の祭壇に集まっていて、救出した大勢の中にいたそうだ。そのお礼をして帰ろうとした。

「宿は決めてるの?」

「いえ、これからです。」

「いや、この時間からじゃロクな宿無いよ、ウチに泊まって行ってよ!って!馬?馬車じゃないんだ!」

最近は街道の整備と、往来の増加で、乗り合いの馬車が毎日なん往復も走っていて、午後からで、今くらいと思っていたが、仕事が終わってから一気に走って来たそうだ。初対面の時、『目覚舎』嫌悪で失礼な態度だった事の謝罪や、【隷属】から解放したお礼をあらためてされて、

「更にご迷惑なんて・・・」

固辞していたが、

『ぐぅぅぅう!!』

キッチンからの香りか、薫の胃袋を引き留めた。

 簡単な食事をしながら、ワタシ達も少し飲んで、伏丘の近況を話してもらった。団地等の開発からの賑わいは続いていて、開墾した農業地区も順調に収穫を伸ばしているようだ。老舗が潰れたり、経営が代わったりして、寂しい事もあるが、だいたいそういう店は、暖簾に胡座の感じなので、まぁ仕方がないのかもしれないな。

 翌朝、薫を見送っていると、ギルドからの伝令がやって来た。杏からのメッセージだ。

「師匠は急ぎの伝令を頼んだのですが、少しでも早い方が良いと、思いまして。では、またいつか!」

ちょっと照れた様子で馬に鞭を入れた。


 夏休みまで1週間だが、学校に行ってお休みの報告、宿題の用意がまだだったので、終業式までに登校するか、誰かを寄こす事を告げて保香美に向った。

 整備された街道を快適に飛ばして保香美に到着。先ずは目覚舎に顔を出した。


 目覚舎は、巫女の下僕養成所から、本当に転生者支援所になっていた。洗脳の必要が無くなり、記憶を消去することも無く、コッチの世界に必要な情報と能力を身につける様にシステムを再構築しているようだ。アッチの世界の知識の流入が増え、更に活気のある世の中になるかも知れない。


 杏の情報にあった鍛冶屋を訪れた。店の主人は、意識不明の重体で、詳しい情報は無く、解っているのは、流れ者の腕の良い鍛冶職人が少し前にやって来て働いていたそうだが、急に主人が倒れ、店を閉めていたそうだ。その間も釜の煙は絶えなかったが、数日前からそれも消えて、流れ者の職人も見当たらなくなったそうだ。

 作業場を調べさせてもらうと、禍々しい術を使った名残が感じられた。鍛冶屋の主人を見舞い、ヒールを試した。回復出来た筈だが、目を覚まさない。【鑑定】すると、昏睡の魔法が掛っていた。黒水晶で魔法をリセットすると、スッキリ目覚めてくれた。昏睡の経緯や流れ者の事を尋ねた。

 驚きの速さで仕事を熟し、出来映えも素晴らしかったそうだ。注文の入っている物が全て仕上がっても釜を離れ無いのを不思議に思い、様子を見に行くと、巨大な何かを作っていて、それに気付くと何かをパッと光らせたそうだ。その後は意識を失っていたらしく、今の覚醒に至るようだ。何を作っているのかは確認出来ていないが、巨大な剣と一般的サイズの剣、それと棒状の物が2メートル程の物が2本と、その半分程度の物が1本。魔神の欠損した腕に相当している。

 ハズレて欲しかった嫌な推測が、どうも当たっているようだった。その職人の容姿や年頃、鍛冶の腕前から脱獄した男に間違い無いだろう。魔神は戦力を取り戻すか、それ以上になっているだろう。また魔石集めで、魔物狩りを始めるのだろうか?珠苗の神殿を奪いに行くのだろうか?前者ならどこを狙うか想像が付かないので、珠苗を護る事を選択して馬車を飛ばした。


 到着した珠苗の関には要塞が復興され、騎士団が配備されていた。他の3方も同様との事。街中には防空壕の様な避難施設があり、城壁の門には冒険者が待機していた。

 神殿で福三郎に魔神の情報を伝えると、鍛冶屋の噂がもう届いていたので、大体は想定済みの様子だった。今後の相談をしていると、洗脳して味方につけている黒袴の巫女が苦しみ出し、虚ろな表情で

「アルジサマがコンヤ、キタのセキにイラッシャイマス。マチをコワサナイヨウ、ソトでケッチャクをツケルトノコトです。」

苦しそうに言い終わると、気を失っていた。

 街も含め自分のモノにするつもりで外で戦うつもりらしいが、戦力を外に出して、一気に神殿を奪う作戦かも知れない。福三郎や蔵江の皆さんと相談し、現状の配備をそのままに、ワタシ達だけで、北の関で迎え撃つ事になった。

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