馬車を入手
レンタルした馬車で少し遠出。今日も薬草採取を請け負ったが、前回とは違う種類で、馬車で1時間程の海岸沿いで採取出来る。階級が上がってから働いても良さそうだが、宿で燻るよりは健康的で、日銭にもなるので、遠足気分で馬車に揺られていた。
ギルドを出発して30分も経たない内に人通りが無くなり、すれ違う馬車も無く、ほとんど変わらない景色を眺めて馬車を進めた。薬草は簡単に手に入ったが、ここまで誰もいないと、盗賊とかの心配が有るので、少し高めの報酬も納得だった。まだ時間が有るので、もう少し先の温泉に寄ってみようと脚を伸ばした。
しばらく走り、初めて視界に入った馬車は、いきなり4台。1台が他の3台に襲われていた。
「王女様とか、貴族の御令嬢が乗っていて、助けて出世するパターンね!」
冬実は呑気な事を言いつつ馬に鞭を入れ、
「そんな娘がいたら、その娘を正妻に迎えてもいいわよ!四人も五人も変わらないでしょ?」
笑えない冗談を付け加えた。
毒狼で出番の無かった俺が馬車を降りた。馬車ごと結界で隠れたので、有り得ない田舎の徒歩一人旅の様に登場した。盗賊団はまだ気付いていない。襲われている馬車は、結界で護りを固めているが、救援が来なければ、魔力が尽きた時点でゲームオーバーだろう。数えてみると盗賊団は14人。結界を破ろうとした攻撃では無く、中の術者の魔力を削ぐように嫌らしい攻撃をしていた。
《お尋ね者リストにある盗賊団で間違い無いわ!》
春菜から念話が届いた。
「お取り込み中お邪魔します!」
気配消して、ボスらしい男の後ろに立って声を掛けた。覚えた筈の魔法を試してみる。こめかみを親指と小指で挟んで額を覆う。肌に直接触れればどこでも良いがしっかり防具で固めているので他に選択肢が無かった。『ふん!』軽く魔力を込め、体力を吸い取る。少し元気になった気分がして、ボスらしい男は意識を失った。
火の魔力を練って火球を飛ばす。膝を狙って撃つと脚全体が吹き飛んだ。魔力を弱めてもう一人。今度は脚を切断。更に弱めると、膝を貫通した。コントロール出来る最小で丁度良い様だった。水の魔力で凍らせたり、風の魔力で斬って見たり試していると、流石に他の盗賊達が俺に気付いて、矛先がこちらに向いた。
結界を試す。直径3メーターで壁を作ると、突進して来た盗賊達が弾かれてひっくり返った。1メーターに狭めると斬り掛かる剣を弾いて、残りの盗賊達全員が蹲った。体力を吸い取って魔力にして、脚を吹き飛ばした盗賊にヒールを掛ける。何とか見掛けは復元出来た。他の盗賊達もしっかり拘束してから怪我を癒やして歩けるだけヒールを掛けて馬車に詰め込んだ。
襲われていた馬車から矢傷を負った男性が降りて来た。
「危ない所を・・・」
お礼の途中で力尽きてしまった。慌ててヒール。腹に巻いた爆弾と呪符を剥がした、呪符は魂と引換えにチカラを得る特殊な物だった。ヒールが間に合って何とか命は取り留めた。馬車には若い女性が乗っていて、
「宮森!」
眠っている男性に駆け寄ると、ヒールを掛けていた。感じる魔力では到底追い付かないダメージの筈が、
「お嬢の手を煩わすわけにゃあ行きません。」
ムクッと起き上がった。
二人は『円山組』の組長の娘・円山みどりと、若頭の宮森。隣町の花嫁修業先から帰省の途中との事。組と言うのは、元の世界で言う反社会的勢力の様な集団と言うのが、一番近いように思うが、犯罪集団ではなく、警察や消防等の役割を担っている。賭場を開いたり、他の組と睨み合ったりと言う側面もあるが、基本的には市民の味方のようだ。
温泉は中止して馬車を連ねて帰り、市街地で二人と別れた。ギルドに報告しに行くと、
「あら?もう馬車ゲットですか?」
いつものお姉さんが残念そうに言った。
「近々、盗賊に襲われて返り討ちで馬車を手に入れると思ったので一週間のレンタルをオススメしたんですぅ。結果からですと、1日で間に合いましたね。」
お喋りしながらも、テキパキと薬草をチェック、盗賊達の顔や所持品をチェックして、
「これは売らない方が良いですね!」
魔法を使っていた男から指輪を外して渡してくれた。それから一緒に外に出て、
「馬車はコレ!最近の型で『さすぺんしょん?』とかって言う部品で乗り心地が良くなっているそうです!あとの2台は買い取りで・・・うん、明日、階級符をお渡しする時までに精算して置きます!」
毎晩のお約束になった居酒屋で夕食。同じ様に風呂に入って、冬実が待つ部屋に帰った。冬実は暴発の対策は一切しない様で、『全てお任せします』と視線で伝えてきた。落ち着くよう自分に言い聞かせて肌を合わさた。春菜の時失敗したステップをクリアしたと言えるかな?耳心地の良い声を聞く事もないまま暴発してしまった。小柄で童顔で、他の三人と比べると、露出の少ない服だったので、勝手に幼児体型を想像していたが、しっかりメリハリがあり、童顔とのギャップに気付いてしまっての結果だった。
不完全燃焼ながらも余韻に浸りながら眠りについて、朝日が瞼を透かして目を覚ました。寝惚けた頭で現状把握。片方をしゃぶって、もう片方を揉んでいる。でも両手がそれぞれ堪能しているのは数が合わない。一気に覚醒すると、布団の中に春菜も居て、数の不具合の謎は解決した。
「前回のリベンジね!」
「じゃあ、ごゆっくり!」
冬実が布団を出たので、きっと四人の合議事項だろう。朝の生理現象で準備万端だったので、直ぐにリベンジ果たせるかと思ったが、期待に現実は伴わず、シーツに白濁の汚れを増やしてしまった。
この宿は今日までで、今夜の予約は取っていなかった。新しい棲家は、午後階級符を更新してから探すので、数日ぶん予約を取ろうか話し合ったが、部屋に風呂がある宿が良いと言うことになり、荷物を馬車に積み込んだ。数件先の宿が、皆んなの要求に応えていてので今夜の分の予約をしてから街を散策した。一応、予算内で借りれて、ギルドへの通勤や買い物の利便性を考慮して、数件の候補を選んでおいた。
ランチの後にギルドに向かう。冒険者全員が毎日ギルドに通う訳ではないので、お初にお目に掛かる人達も大勢居て、まぁ想定通りに絡まられる。無視してカウンターを目指すが、
「バランスが良く無いな、俺達と組もうぜ!男女4人ずつだ、昼も夜も楽しませてやるぜ!」
ニヤけた顔で、秋穂の肩を抱こうとしたが、触れた瞬間、腕が有り得ない向きに曲がり、泡を吹いて倒れてしまった。秋穂は何も無かったように、
「階級符は出来ているかしら?」
カウンターで手続きを始めていた。絡んで来た男は、他のメンバーにヒールを受けそそくさと居なくなってくれた。