Fランクから再スタート
2年近く留守にしていた我が家は、生活支援ギルドの皆さんのお陰で、そのままの快適さを保っていた。しばらくのんびり、昼間は王都で見つけた古本で、元に戻る魔法を探し、夜は相変わらず、妻達に魔法で光樹を作ってスキンシップを楽しんだ。ギルドに行かないでいると、
「偶には顔を出して下さい!」
木綿子が誘いに来た。面倒な依頼が入ったのかと身構えたが、
「階級移行の手続きして下さい、1年以上放置ですから、移行期間が過ぎちゃっていますよ。ギルマスは特別にSランクで良いって言うんですけど、四元さん、そういうのお嫌いですよね?」
甲の上がS、中がA、順に乙の下がE、丙は全部Fランクになり、実績で昇降する。因みに、期間内に手続きをしないと、新規登録でFランクからのスタートになる。変な特例を認めてしまうと、後々面倒な事になりそうなので、潔くFから再スタートする事にした。
「そう仰ると思って、コレ!」
ちょっと遠征しての邪人の駆除だった。被害はまだ出ていなく、街道を走っていた商人達の目撃情報の為、小規模と予測してのFから可能な依頼になっているが、木綿子の推測では、強い魔物に押し出されて山から出て来た可能性があり、その魔物も駆除すればポイントが稼げるって算段でのオススメ。ここに来てすぐの頃に、黒猿鬼を倒したみたいな感じになるのかな?
翌朝、日の出前に出発。しっかり武装して馬車を飛ばした。他の馬車に会うこと無く郊外に抜け、面倒なナンパに会わずに街道を進んだ。昼も走りながらおにぎりを齧って、陽が落ちる前に、目的地に辿り着いた。テントを張って、その周りを結界の罠で囲ったバーベキューで軽く乾杯。早目に寝袋に潜った。
ギャーギャーと不快な鳴き声で目を覚ます。結界を二重にして内側には中に入れない様にして外側には出られない様に張ってあるので、その隙間が邪人の壁になっている。まだ生きて居るので、雷の魔法で感電して貰った。耳を回収して大きく掘った穴に放り込む。耳は纏めてポーチ、死体は燃やして埋戻した。
「耳は134個、もう予想の3倍も越しているけど、残党が居ないか確かめようね!」
街道を離れて、細い山道を登る事30分、邪人の巣っぽい洞穴があった。見張りには邪人では無く、火鬼だった。邪人を追い出して巣を乗っ取ったのだろう。巣の付近には邪人の死体がゴロゴロしていた。見張りを【氷縛】で固め、洞穴の出口に針金を張って、風魔法を纏わせた。巣穴に発煙筒を放り込んで、飛び出して来るのを待った。1分程で第一陣が現れ、罠すると、針金は火鬼の身体を上半身と下半身に分断し死骸の山を築いた。耳を回収して、煙が収まった所で巣穴に踏み入った。数体の死骸から耳を回収、生きているのはいないし、夜行性なので、皆んな巣にいる筈なので、これでコンプリートだろう。邪人が集めたと思われる、剣や宝飾品もポーチに収めた。
転がっていた死骸の分も含め、邪人の耳が156、火鬼の耳が47と大漁だった。遅いランチを保存食で済ませ帰路についた。途中でテント泊、翌朝のんびり出て昼過ぎにギルドに到着した。
「相変わらず、規格外ですね。まさか一泊で片付くとは思っていませんでした!」
木綿子は、成果物の確認をしながら、昇格の手続きをしてくれた。飛び級は出来ないので、Eランクになる。出来上がった書類にサインをして、次のオススメ依頼を見せてもらった。近場のダンジョンで特殊鉱石の採取。かなり深く潜るので、結構な魔物に会う可能性が高い。明日の予定も決まって帰宅。のんびり風呂に入って、スキンシップを楽しんだ。
日帰りか、一泊二日の依頼を月金で熟して、2周間でAランク迄昇格した。
「これで一安心です。請負い条件がAランク以上の時に困りますから、ちょっと無理して頂きました。」
なるほど、昇格に丁度良い成果の依頼は、木綿子の筋書き通りだったって事らしい。
「次はこちらなんか、如何ですか?」
どうやら、コレが本丸の様だ。かなりの遠征で、A以上縛り。ダンジョンに異常が発生し、深層の強力な魔物が、浅層に出没する様になったそうだ。その魔物の駆除が精一杯で、ダンジョンの異常までは手が回らないらしい。早速請けて、遠征の支度に取り掛かった。
翌朝、ギルドが開く前でなので寄らずに出発。馬車に乗り込むと、木綿子が駆け寄って来た。息を切らしながら、
「コレ、持って行って下さい。」
南京錠が20個位。不思議に思っていると、
「今回、東に向かうと、皆さんの武勇伝を知らない盗賊とか、まさかココに居ないだろうって襲われると思います。捕まえた盗賊をコレで拘束して最寄りのギルドで鍵を渡していただきますと、ギルドの方で回収致します。」
説明書を見ながら木綿子の解説を聞いて、多分マスター出来た(筈)。改めて東に向けて馬車を走らせた。
旧伏丘領では、なんの支障も無く進んで、高張との領境に到着した。既に関所の教務は終わっていたので、近くの宿に泊まった。テントよりマシって宿だが、風呂に入れるのは有り難かった。朝イチで関所に並ぶので、1ラウンドで解ける程度に魔法を掛けて皆んなで楽しんだ。
関所は、9時から始まる所、7時半に宿を出たが既に結構な列が出来ていた。割とサクサク進み、9時半頃には高張の地を踏んでいた。先は長いし、ぱっとした店も無かったので、あっさり通過して東を目指した。陽が落ちるまで走って、テント泊。宿TO宿が理想だが、それだと半分強しか進めない。焦る事は無いが急ぐ必要は有るので、ちょっと我慢。スキンシップもお預けで、朝日と共に馬車に揺られた。
そんな移動を4日間、久しぶりに大きな街に到着した。農業が盛んで、ココが無くなると国が飢えるとまで言われている。ここまでの街道は、物資輸送の大型馬車がたくさん走っていたので、魔物にも盗賊にも合わなかった。ゆっくり走る大型馬車に合わせて、宿のある集落が出来たのだろう。
途中の街では最大の音広に到着。久々の宿は温泉付き。大浴場の周りを冬実が巡回して戻って来た、
「覗きトラップ仕掛けておいたから、安心して温泉を堪能しましょ!」
ただ洗うより、若干距離を縮めて泡に塗れ、褐色の温泉に使って長旅の疲れを癒やした。部屋では大人しく早寝、ぐっすり眠って朝日を目覚ましに早起きした。
食堂で朝ごはん。流石は農業王国と舌鼓を打っていると、外が騒がしくなっていた。食後覗いてみると、女湯の窓の下にオジサンが3人も貼り付いていた。
「何してるんですか?」
冬実が楽しそうに尋ねた。
「あ、ああ、壁にもたれて休んでいたら貼り付いちまったんだ。うっ!」
「随分、よじ登ったように見えますけど?」
「い、いやぁ壁に引摺り上げられたんだ!ううっ!!」
「あれ?嘘をつくと、身体が重くなるわよ。腕が千切れないか心配ね。で、お風呂、覗こうとした?」
「するわけ無いだろう!ぅうぎゅわっ!わわわわわ、解った正直に話す、覗こうとしたのは認めるが、昨夜は登れなかったんだ、だから未遂だよ未遂!」
「ねぇ、『昨夜は』って言った?」
覗き魔達はあきらめて大人しくなった。
冬実が罠を解くと、強行突破を目論んで襲い掛かって来たが、軽く捻られ地べたにキスをしていた。【隷属】を掛けて尋問すると、覗きの常習犯だった。




