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巨大猫

 ギルドの出張所に行くと、当然知らない顔ばかりで、『ペーペー若造のハーレムパーティー』としか見られない。階級符を見せても、クズボンみたいに金で買った様なモノに見られてしまう。それでも何とか騒ぎにならずに、邪人の駆除を請負った。武器や罠を使う、知能の高い群れらしい。家畜が襲われる事件か頻繁しているが、出張所には丙階級のパーティーしか居らず、応援要請をしていたそうだ。

 契約書の終わりの方にある、『依頼の遂行中のあらゆる事故に付いて、ギルドは一切保証しない』の行に赤線を引いて、繰り返し確認してからの契約成立だった。まあ、気にしない事にして、巣があると言う山に向かった。

 かなり近くまで馬車で登り、歩くこと30分、雁字搦めに鎖で繋がれた巨大な豹?象サイズ?兎に角デカい真っ黒の猫科の猛獣?魔物だよね?

《そなた、人間だな?》

頭の中に念話が響いた。

《我は猫じゃ、そなたの目の前に居る。》

閉じていた目が薄く開いた。

《願いを聞いてはくれぬか?人間の為にもなるぞ。》

「あのう?猫なんですね?」

《人前にはあまり出ぬ故、驚いたであろう。》

「願いって何ですか?」

《おお、聞いてくれるか。我は今、邪人の子を孕んでおる、我を殺し、腹の子も始末して欲しいのじゃ。我の寿命はもう少しじゃ、災いを残して死にとう無い。》

「邪人の子だけ始末すれば良いんじゃないですか?」

《もう我に先は無いのじゃ、我の血肉がヤツ等の糧になるのが悔しい、腹の子が産まれたら、里は滅ぶぞ。》

鑑定すると、本当に死にそうで四人も首を横に振った。

「判りました、他に言い残す事は?」

《我にはオブシディアンと言う名の娘が居る、我を探してこの山を彷徨っている筈じゃ、もし会ったなら、直ぐに逃げろと伝えて欲しい。》

「はい、伝えます。」

猫は再び目を閉じた。

刀に風魔法を纏わせ、一刀で首を落とした。穴を掘り、火葬して埋め戻した。


「あの猫をあそこに繋いでいたって事は、巣は近い筈だな?」

「そうね、森の中から、魔物の気配を感じるわ!」

春菜が指す方向に慎重に進んでいった。

 熊だろうか?真っ黒な獣が罠に掛かっている。魔物の気配の主らしい。近寄ってみると、黒猫だった。猛獣サイズだが、丸いフォルムは仔猫だろう。

「オブシディアン!」

声を掛けると振り返った。酷い怪我をしていて、トラバサミには毒が塗ってあった様で傷口が腐っていた。

「今、助けるからな!」

罠を外し、傷口に薬を塗ってヒールを掛ける。夏果は毒を調べて解毒剤を調合した。

 罠に掛かった獲物を回収に来た邪人がやって来た。結界で隠れ、近付いた所を斬り倒す。6体を瞬殺し、猫の治療を再開した。解毒剤を飲ませると、気持ち良さそうに丸くなって眠ってしまった。起こしても起きなし、放置すればまた罠に掛かったり、邪人に襲われたりするだろう。少し寝かせてからと言う事で、早めのランチタイム。1時間程寝かせてから、もう一度起こしてみる。サイズ以外は可愛らしい仔猫。伸びをして起きると、多分甘えて居るのだろうが、猛獣に襲われる絵面だった。母猫の言葉を伝える。

「君のお母さんがね、この山は危険だから逃げなさいって言ってたよ!」

言葉は通じて居るのだろうか?伝えてって言うから伝わるんだよな?逃げるにしても、行く所は有るんだろうか?何となく空腹を訴えている様な気がして、干し肉を与えると美味そうに完食。

「こんなに大きかったら連れて行けないよなぁ。」

 独り言を呟くと、オブシディアンは宙返りして着地の時には普通の仔猫になっていた。鑑定すると【変身】のスキルを持っていた。ジャンプして肩に乗ってスリスリ、今度は猛獣感が無い普通の仔猫だった。

 取り敢えず、五人と一匹で邪人の巣を探す。あちこちに罠があり、見張りを台らしきモノも有るので近付いているはずだ。

「呼び出した方が早そう!」

夏果は、ひとっ飛びして剣を振ると斬った枝が落ちて来て、トラバサミが作動した。罠が作動すると知らせが届くのか試してみる。近くで結界を張って隠れていると邪人が集まって来た。1体を残して風魔法の刃で斬り、逃して後を追った。途中、見失ったが見張り台を見付け、それを辿ると見張りを発見。3体中2体を斬り、1体は片脚を落として逃した。さっきはそのまま逃し見失ったが、逃げる速度は落ちるし、血が目印になるので、追跡の確度は高くなる筈だ。

 何とか巣に辿り着いた。洞窟に住み着いて、出入口が他に無ければ一網打尽。焼肉の匂いで誘き出した。鎧を着け、剣と盾で武装した邪人が続々出て来て、ガンガン狩っていった。魔力のコントロールを意識して魔力の刃や弾を飛ばしてみたが、面白い様に自在に操る事ができた。

 新手の出現が無くなったので、慎重に巣の中に踏み込む。寝床と思われる凹みが沢山あり、ザックリ外で斬った数と思われるので、ほぼ全滅と考えて良さそうだ。外に出ていた奴等の分は、入り口に罠を仕掛けてある。誰もいない洞窟を進んで、突き当りの部屋に到着。入口は結界で閉ざされていた。刀を赤く光らせ入り口を突くと、障子紙を破る程の手応えで結界が解けた。


 中は実験室の様になっていて、どう見ても人間が居た様子だった。実験器具は、いつでも使える位に整理され、薬品らしき完成品が入ったガラス瓶が数本。取り敢えずポーチにしまう。ドアがあって更に部屋が繋がっていた、覗いて見ると、ベッドに老人が横になっていた。酷い腐敗臭なので、寝ているのでは無く、死体らしい。鑑定すると

『人間男性、享年68歳、死後37日経過』

 実験と言うか、あの薬品を作っていた人物だろう。小さな金庫があり、持ち主と思われる死体の首に鍵が提げてあった。試すと金庫の鍵ではあったが、他にダイヤルを合わせる必要がある様で、開けるのは諦め、金庫ごとポーチに押し込んだ。


 ガチャン!ガラスが割れる音がした。死体のベッドサイドのテーブルにあった、さっき見たものと同じようなガラス瓶を、オブシディアンが落として割れた音だった。カリカリとキャットフードの様に薬品を食べた。瓶の、欠片で怪我をすることも無くあっという間に平らげてしまった。

 慌てて鑑定したが、薬品を鑑定する事は出来なかった。オブシディアンに異常な見られなかったので、大した薬品じゃなかったのだろうか?人間の子供なら胸を圧迫して吐かせたりするんだろうが、猫をどうすれば良いのか解らない。本人?いや本猫は涼しい顔なのでそのまま様子見かな?

 他にめぼしい物はなく、生き残りがいないか確認しつつ、耳を回収しながら巣の外に出た。帰って来た邪人が罠に掛かっていてそれを始末して出張所に戻った。

 出張所で駆除の報告と精算。魔力コントロールのお試しとしては高額の報奨金を受け取って、帰路についた。

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