飛び狐
簡単な朝食を済ませ、
「ちょっと聞いて欲しい事があるんだ。」
昨夜思った事を話し、
「・・・これからも、俺の奥さんでいて欲しい、改めて、お願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね、光くん!」
「元よりそのつもりだ、光殿!」
「案外、お利口さんなのね、光樹!」
「ずっと一緒だよ、光ちゃん!」
スクラムみたいなハグをして、交代で舌を絡め合った。
「じゃ、コレお願いしてもいい?」
渡された紙袋には、下着が入っていた。中身を想像せずに開けてしまい、不審者状態。
「貴族のご夫婦で流行ってるそうなの。」
四人はスカートの中を脱いで、捲り上げたまま待っている。穿かせなさいって事だよね?結界で誰にも見られなくはなっているけど、外で丸出しは不味いよね?貴族ってこんな事して楽しいのかな?サッサと済ませたいので3枚をテーブルに置いた。えっ?みんなデザインが違う?誰のか当てなきゃダメかな?手に持っていたのは。フリルたっぷりの薄いピンク。
「冬実だね?」
「うん、ありがとう!」
恥ずかしがって、途中迄にしたらダメ出しでやり直しって事になりそうなので、きっちり上迄上げてスカートを戻した。何故か強い魔法を放ったときの様な感覚になったが、普通はしない作業なので動揺しての感覚だろう。
黒のスケスケで横紐は秋穂、飾り気のないシンプルなブルーは夏果、控えめのフリルとレースが春菜。全問正解で胸を撫で下ろした。
「パンツ穿かせるのってそんなに楽しいのかな?ちょっと共感出来ないなぁ。」
「穿かせるより、脱がす方、良いよね?」
「いや、そう言う事じゃなくてさ・・・」
「でも、どっちが好き?」
「強いて言えば、冬実の言う通りたけどね・・・」
「うんうん、必然的に脱ぐ時もお願いする事になりますわ!」
秋穂は楽しそうに解説を始めた。
流行っているのは、妻の下着を夫が穿かせる事ではなく、下着が特殊な機能が付加されているそうだ。その機能は、『貞操帯』機能で穿かせた人でなければ脱がせないとの事。
「トイレ困るでしょ?」
「わたし達は、魔法で転送出来るから然程問題ないわ!でも、魔力の弱い方は、都度ご主人のお世話になるそうよ!」
「光殿はそういうの、好まないであろう?夫婦間の信頼が無いようで。」
「うん、そうだね。何となく今朝の流れでこうなったけど、普段なら理由を聞いて断っていたかもね!」
「ごめんなさい、光くん。実はね、そう思って冷たくしてみたの。」
「そりゃ参ったな、まぁ、皆んなの大切さを再認識するきっかけになったから、結果オーライって事にしておこう!」
飛び狐を目指して、下層に降りた。18階層に着くと、飛び狐の群れに遭遇。1頭が飛び掛かって来る、結界で防ぐが、大量に魔力を消費した。残り数頭は逃げ出したので、四人にまかせた。
ガイドブックにあった情報よりかなり大型で3メートル近いように見えた。高速で跳ね回り、隙を覗って突いて来るキックは、結界で凌いでいたが、パターンが読めて来て、躱す事が出来るようになり、躱した後が攻撃のチャンスだった。着地で一瞬動きが遅くなるので、そこを目掛け、風魔法の刃を飛ばした。なかなか捉える事が出来なかったが、5、6回目で尻尾を切断出来た。然程痛がっている様子では無かったが、バランスが取れない様で、連続の高速ジャンプで足場にならない所に着地して転がったりする様になった。飛び狐は接近戦に切り替え、短いジャンプを繰り返して体当たり。躱しながら雷の魔法の弾を撃ち込む。痺れて動かなくなった所で喉を割いてトドメを刺した。
群れはハーレム型式で、逃げたのはメス3頭、子供3頭。秋穂の弓で足止めして、追い付いたところでサクサク狩ったそうだ。血抜きをして、ポーチに収める。まだ昼には早い時間でミッションコンプリート。少し急げば、途中の街迄は戻れそうなので、直ぐに地上を目指した。
携行食で昼を済ませ、2時には地上。直ぐに馬車を走らせた。道中何事もなく夕方に市街地に入り、宿も確保出来た。部屋に入って荷物を整理。
「「「「お願いします!」」」」
揃ってスカートを捲り上げた。
「穿いたままお風呂に入る訳にはいかないのよね。」
ドキドキしながら4枚脱がすと他をスルスルと脱いで、浴衣だけを着て、浴場に向かった。俺も慌てて着替え脱衣場の前まで一緒に行った。
ザブンと汗を流し、湯に浸かって身体を伸ばす。塀の向こうでは、四人の楽しそうな声。会話の内容までは解らないが、知らない人が聞いても若い女性の声と解る様で、塀をよじ登ろうとする不埒者が二人。足場と、掴んでいる突起を凍らせると、盛大に転げ落ち、尻餅で着地していた。痛そうに擦った尻にはタイルの模様がクッキリ。思わず吹き出してしまった。
「テメェか?邪魔したのは?」
「ん?何の事かな?俺の嫁さん達が入浴中なんだが、その塀に何か用事あるのか?」
二人は凄んで近付くので、床を凍らせてみた。ツルリと尻餅。さっきのダメージに追加された痛さはかなり辛そうだった。
「畜生!コレでも喰らえ!」
風魔法の刃が飛んできた。【鑑定】で魔法の種類も強さも把握済みなので、果物ナイフ位の刃は軽く握り潰した。もう一人は筋力強化の魔法で、ムクムクと筋肉が巨大化している。暴れられては宿に迷惑をかけるので、腕を取って魔力と体力を吸い取った。マッチョボディが萎びて蹌踉めくと、風魔法の男は、拳に魔力を纏わせて突いて来た。流石に痛そうなので、躱して左手を掴んで魔力と体力を吸い取った。
改めて鑑定すると、風魔法の男はスリで、【微調整】と言うスキルを持っていた。財布を探る指先はこのスキルの恩恵を受けているのだろう。もう一人のスキルが【怪力】だったので、迷わずに【微調整】を奪った。覗き未遂の現行犯と、日頃のスリ稼業のペナルティで丁度良さそうだ。
風呂上がり、部屋に運んでもらったご馳走に舌鼓を打った。男湯での事件を報告すると、
「あら、その人達、ツイてたわ。」
冬実は淡々と、
「覗きやすそうだったから、罠張っておいたの。塀、越えたら、頭皮が丸焦げだったのよ。」
結構ハードな罠の話しを皆んな楽しそうに聞いていた。
奪ったスキルの話をすると春菜は、
「そのスキルなら、ネックレス外せるかも知れないわね!」
「うん、俺もそう思ってたんだ。」
明日は、移動に余裕があるので、ギルドの出張所に寄って、魔獣駆除系の依頼を請ける事にした。
そろそろ寝ようと、布団を敷く。
「せっかく一部屋だから皆んなで楽しもうよ!」
冬実はそう提案したが、
「ごめん、やっぱり一人ずつが好きなんだ。前の順番だと秋穂か?」
「仕方がありませんね!付き合って差し上げますわ。」
「じゃあ、違うパターンのフルハウスね!」
冬実は春菜と夏果の手を引いて隣の布団に転がった。代わる代わる漏れ出す声を聞きながら、腕の中の秋穂を味わった。
秋穂の途切れ途切れの声で目を覚ました。先に起きていた秋穂が跨っていた。入ったかどうかのタイミングで光樹が爆発すると、
「前回の仕返しですわ!」
プイと横を向いた秋穂は、照れ臭そうな顔をしていた。