伯爵邸にて
息を整えてからダイニングに降りる。三人は既に起きていて、朝食の支度も出来ていた。五人揃った所で食事が始まった。
「光樹は将来どうしたいの?私達に聞いて置いて、ご自分の事は内緒ですの?」
「いやね、迷ってると言うか、迷う選択肢も無い感じでね・・・」
大体、訳の解らない異世界に飛ばされ、この世界の事も、ここでの一般的な生き方も解らない。元の世界に戻りたいとは全く思わないし、『魔王討伐』の様な勧善懲悪的な世界でも無さそうだ。多額の借金はあるが、美少女に囲まれて、豪邸に暮らす。正直、前世では思いもよらない幸福に思える。ただ、何となくこのままで良いのか不安になってしまう。上手く説明出来ない心境を思い付くままに話してみた。結局、当面は今のまま。借金返済を念頭にギルドで稼ぐ。ここ数日の稼ぎがビキナーズラックじゃ無ければ、かなり繰上げて完済するのも夢じゃ無いが、今の所そう判断しかねるので、様子見は継続だろう。一応、困らない程度の着替えや、仕事でたまに必要になるカッチリしたスーツなんかも用意出来そうなので、ランチの後に、調達する事になっている。因みに、今日の衣装は伯爵夫人からのプレゼントとの事。シルバーグレーのジャケットは、もとの世界の新郎か、演歌歌手を彷彿とさせた。先に着替えて来た女性陣は、フォーマルなロングドレスでは無く、元の世界だと、結婚式の新婦の友人的なミニワンピース。露出が多目なのが気になるが、気にしない様な努力する・・・が、視線が固定していた様で、
「伯爵邸で妙な反応なさらない様に、見るなり、触るなりして慣れて頂かないとこまりますわ!」
秋穂が距離を詰め、俺の二の腕に柔らかいものを押し付けた。秋穂の言いなりでソファーに沈められ、反応してしまった光樹を鎮めて貰った。
馬の手入れをして馬車を繋ぎ、出発の準備は完了。伯爵様へのご挨拶を呪文の様に繰り返しながら馬車を進めた。
屋敷に到着すると、想像していた様なお堅い雰囲気では無く迎えてくれたので一安心。伯爵夫人が自ら迎えてくれて、庭の植栽等を解説してくれた。
パーティー用のフロアに通され、夫人と会話を続けた。
「ずいぶん、ご贔屓にしていただいておりますけど、何か良い仕事をしたんでしょうか?」
「え?ご存知無い?それは驚きですね!ではその時のお話をして差し上げて。」
夫人に呼ばれたメイドが弁士のように語り始めた。
お茶会に参加するお嬢様を乗せた馬車が、車寄せに入ると、何者かの矢が馬を捉え、暴れる馬を春菜がなだめてヒールして、馬に蹴られたお客様を冬実が助けてヒール、秋穂の矢で、隠れていた木から落ちた曲者を夏果が捕まえたそうだが、身振りや声色を駆使するかなりのエンターティナーだった。態々夫人がご指名するのも頷けた。
緊張し続けた食事会は何とか終了、また夫人に声を掛けられると、『ここからが本題よ!』と顔に書いている様な圧を感じた。
「当家の三女を嫁に迎えてはくれまいか?爵位を推薦しよう、男爵には直ぐに認められる筈・・・」
「いえ、貴族ってガラじゃ有りませんからね、冒険者としてやっていくつもりでいます。あと、嫁は四人でも分不相応と思ってますから!もう増やすつもりは有りません。」
「ハッハッハ!断られるとは思ってましたけど、バッサリ即答とは思いませんでした。益々気に入りましたよ!」
「では、今後共ご贔屓に!」
夫人の差し出した手の甲にキスをして、本日のミッションを終了した。
商店街に四人を降ろして、一旦家に戻る。馬車を置いて徒歩で合流した。待ち合わせの場所にはもう四人が着いていた。
「一緒に選んでくれたら良かったのにね、ねえ、コレ見て!」
冬実は、買物袋から買ったモノを出そうとする、
「ちょ、ちょっと待てって!」
別行動にしたのは、馬車の都合だけじゃ無く、その間に一緒に行きたくない買い物を済ませて貰う作戦だった。中身を考えると、街なかでご披露する買い物じゃ無いので、何とか踏みとどまらせた。
「せっかくカワイイの買ったのに!じゃあ、帰ってからのお楽しみね!」
返事に困っていると、
「次、行きましょうね!」
春菜の助け舟で移動を始めた。普段着や冒険の時の動きやすい服、部屋着やパジャマなんかも選んだ。何件も梯子して、機能、デザイン、コストを考慮して目的の買物を完了。
帰り道と思ったが、春奈は反対方向に進み、
「なんか、コソコソしてるでしょ?」
春奈は鍛冶屋の前で歩みを止めた。バレバレ?
「正直に話してくれたら怒らないわよ。」
仕方が無いのでカミングアウト。
「四人の防具を買おうと思ったけどね、高い買物は却下されると思ってね、黒猿鬼の報奨金から、ヘソクって置いたんだ。でも既製品じゃムリだって、ギルドの娘が教えてくれたからさ、鍛冶屋の同行の依頼を請けてたんだ。折角だから、キチンと採寸して貰おうか?」
必要経費に認めて貰って鍛冶屋に入った。全部バレちゃった事を報告して採寸を頼んだ。
「防具は、革とかが揃うまで待ってね。武器は、良い感じに出来上がってるよ!」
春菜の槍には、水魔法の媒体として効率が良くなる様に、素材を厳選。加工にも拘っているそうだ。同様に、夏果の剣には炎、秋穂の弓には風、冬実の斧には土魔法と相性が良くなっているそうだ。俺の武器は二振りの刀、片手で扱いやすいようやや短く、一般的な剣と比べかなり細身になっていた。全属性に対応した特殊鋼で、先日借りた赤の剣や、紫の剣の機能も盛り込んでいるそうだ。杏の熱弁は止まりそうもないので、菫が採寸を済ませてくれた。すっかり暗くなってようやく杏が落ち着いたので、武器を受け取って店を出た。
宿暮らしだった時に通った居酒屋に寄って、ほろ酔いで帰宅した。
「風呂行ってるよ。」
秋穂に声を掛けて、先に入浴。直ぐに入って来たのは冬実だった。
「あれ?冬実の番だっけ?」
「あたしでガッカリした?」
「イヤ、そうじゃ無く・・・」
「仕方が無いわね、私も入ってあげるわ。」
結局四人とも入って来た。密着する夏果はその方が肌を見られないので恥ずかしさが軽減するそうだ。密着を楽しみつつ、お湯に浮かぶ春菜を膨らみを堪能した。秋穂と冬実は洗い合っていると思ったけど、スキンシップを楽しんでいる?いや、攻め合っている感じて、劣勢の冬実は湯に浸かっている春菜より顔を赤くしていた。因みに夏果は近すぎて顔は見えない。
「目の前で妻がこんな目にあって平気なの?」
こんな目に合わせている張本人が、されるがままになってしまった冬実の反応を確かめながらの聞いてきた。
「他人ならともかく、妻同士ならオーケーでしょ?冬実も嫌がってるみたいじゃ無いしね!」
「あら、良いのかしら?私達でツーペアで光樹が余るかも知れなくってよ!」
「そ、そん時はフルハウスで!」
秋穂は『?』を浮かべた、
「ふ、二人と三人で組むって事よね?」
声を途切らせながら、冬実が解説した。