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半魚魔獣

 御左様には1週間お世話になる。『皆さんで』と誘われたが、キッチリした空気には馴染めないし、頑張っても夜のご褒美は期待できないので丁重にお断り。子供達は前回楽しかったと見えて、一緒にお世話になる。

「ディアン達が先輩ね!」

春菜が笑い掛けると、

「解らない事があったら、何でも聞いてね!」

エールが胸を張った。先輩後輩らしく、子供達は変身できるマックスの年齢のハタチ位になっていた。


 一人で暇を持て余して、ギルドを覗いて見た。依頼はほぼいつものラインナップだが、見慣れない依頼が1件、『半魚魔獣の駆除』というのがあった。受付で内容を確認すると、

「最近、海岸沿いに、手脚の生えた魚が出るんです、殆どは死骸で打ち上げられたって感じなんですけど、偶にウロウロ歩いてるそうなんです、直ぐに死んでしまうので、直接の被害は無いんですけど、それを食べた野犬が、大きくなって二足歩行するようになって、大暴れしたそうなんです。なんとか倒したんですが、中型犬位から身長2メートル程に変身していたので、もし、熊とか、大型の獣や魔物が食べて巨大化しては大変なので、未然に防ごうって作戦なんです。」


 港では、水揚げした魚から、半魚魔獣を選別する工程が増えててんてこ舞い。海岸沿いを歩くと、鮭サイズの半魚魔獣が打ち上げられていた。生きてるモノは居ないようで、漁師さんの奥様方や子供達が死骸を集めて燃やしていた。


 河口付近に行くと、死骸は少なくなったが、遡上するモノが居るようで、泳いで登ったり堰堤では掴まってよじ登ったりしていた。普通の魚との識別がし易いので、堰堤で待ち伏せ、雷土魔法で感電死させていった。打ち上げられていた死体と区別が付かないため、確証を持ち帰ってもほぼゼロなので、死骸はそのまま海に戻っていく。死骸を食べても変身しないことは調査済みなので心配ない。


 3時間程で5、60匹潰し、堰堤を越えたヤツがいないか確認で川を登った。

 視覚系のスキルを総動員しても、川の中はよく見えない。魔物がいない事は解ったので、ドンドン川上へ向かった。1時間ほどで川幅が狭くなり、河川敷が整備されていた。そのまま登り続けると、魔物の気配。慎重に近付くと、カラスが襲って来た。旋風で退場してもらうと、今度は野犬、弱めの雷土魔法で逃した。

 『またオマエか!』

念話が響くと、しっかり二足歩行出来る半魚魔獣が襲い掛かって来た。サクっと感電死させ、死骸を持ち帰った。


 ギルド経由で専門家に調査依頼。結果は良くない報告だった。

 尊村がサメの魔物に同化したのは、食い殺された相手に憑依する術だったらしく、半身が岩になっていても、使役した魚か魔物に自分を喰わせて半魚魔獣となって生き延びたらしい。大量発生しているのは推測だが、小魚の群れに喰われ、その小魚魔物が、鮭に捕食されて鮭サイズの魔物になり、陸を目指して来たと思われる。宿主が鮭なので本能的に川をのぼったのかもしれない。サメの魔物の時も、完全二足歩行から、ほぼサメに手足を付けただけみたいな劣化版もいたので、今度も同じ感じ。川を登れなかった劣化版が、海岸に打ち上げられていたと考えられる。

 どれだけの数になったか解らないが、尊村の分身がまだ沢山いても可笑しくない。寧ろ、沢山いると思ったほうが正解だろう。その中で遡上して、熊や狼等の猛獣やその系統の魔物にでも喰われたら相当な被害が予想されるので、海岸での駆除や遡上しそうな川、その付近の森林等の調査、駆除を全国のギルドに依頼を出して貰った。幸い、半魚魔獣は帝都付近が殆どで北の方で少し発生しているだけらしく、沈静化しているそうだ。取り敢えず一件落着ということになった。


 御左様の6日目、ダンスのパートナーとして参加するため、ひかりに変身して門を叩いた。態々女性に変身して男装するのは妙な感じだが、男子禁制なので、当たり前っていえば当たり前だろう。

 分体を出して、5人で踊り続けた。二度目のなので、少しは進歩しているかな?妻達と踊った時も、程々の反応に思われた。ディアン達も楽しんでいるようなので頑張った甲斐があったかな。

 その日はディアン達の部屋に泊まり、最終日のお稽古を一緒に受けて1週間を終了した。


 大使館に寄って帰国の挨拶。帝に報告と立ち上がったが、事後報告にして貰い、艦に乗り込んだ。

「真っ直ぐ根路に行こうと思うんだ、慌てて帰らなくてもいいでしょ?」

「良いけど何かあるの?」

皆んな不思議そうにしていた。

 半魚魔獣の話しをして、出没地域を話すと、

「海流の関係かしら?」

秋穂が先を読んでいた。サメの魔物に同化した尊村と対戦した海域は、大きな海流の真っ只中で、帝都付近に突き当たり、大きくカーブして陸を離れ次に陸地に接近するのは北道の東端、根路だ。

 市街地の極一部を除いて、手付かずの自然なので、堰堤なんて無いので、山奥の森まで遡上出来るだろうし、大型の熊が生息している。


 根路に入港し帰国手続き、半魚魔獣の件で根路の周辺を調べる旨、王都に連絡してもらった。地方の小さな漁港にも入れるよう小型の船を借りて、沿岸から海岸線を調べて回った。東端に近い河口付近に、半魚魔獣の死骸が打ち上げられていた。川を登る事は出来なかったので、最寄りの漁港に入って、陸路で川を調べた。

 馬車で行ける所はかなりの上流で、熊が居ても可笑しくないエリアだった。視覚系のスキルを総動員して、更に登った所に魔物の群れを発見した。

 少し戻って山道に入る、直ぐに獣道になり、ギリギリまで馬車で登ってそれから徒歩。1時間ほどで魔物の気配が強くなり、子供達は元の姿で小さくなってスタンバイ。


 視界に捉えた魔物は熊で、10頭程、鎧熊の系統か、背中が銀色に光っていた。気付かれない様に間を詰めて行ったが、奇襲の距離に入る前に魔物達が反応してしまった。樹を薙ぎ倒して突進、魔力弾も魔力刃も無かったかのように進んで来た。結界でなんとか受け止め、至近距離からの攻撃は多少のダメージはあるようで、一定の間をおいて睨み合った。

 リュンヌとエールが空から攻め、視線が上がった所で、防具になっている剛毛の薄そうな所を狙ったが、効果は薄かった。他の手が思い付かないので、続けていたが、偶々当たった背中への氷の矢が、深く突き刺さり、その一矢で倒してしまった。鎧と思って狙わずにいたが、攻めを分散して、前左右空からの攻撃で背中を狙った。背中狙いに切り替えると、あっさりと撃破。後ろの方で戦闘に参加していない小型の1頭だけになり、今一歩で全滅と、総攻撃に出たが、森に紛れて逃してしまった。リュンヌとエールが空から探したが見つけることは出来なかった。

 倒した魔物を調べると、背中の銀色の部分は鱗になっていて、その鱗も、魔物特有のガチガチな防具的なモノではなく、普通の包丁で捌く魚の強度しか無かった。半魚魔獣の性質が現れたと思われる。1体を調査ようにポーチに収め、残りを焼却した。

 折り鶴を沢山折って、鵠にして空からの追跡。当日は成果無し。翌日は更に大量に折り、鵠だけじゃなく、小型の鳥にして放ってみた。

 小さい方が森の木々の中を飛べて、逃げた魔物を発見した。鵠になって現場に飛ぶと、頭の無い死骸と、巨大な足跡があった。死骸は、昨日倒した熊と同じ様に剛毛を纏っているが、形は人間のようで、頭が有ったら身長2メートル近いと推測出来る。

 そこから、魔物の気配をたどって追跡。捕食ではなく、ただ殺された動物の死骸がいくつかあり、その後の手掛かりは見つけられなかった。


「御左様の修行を中断してコッチに来るべきだったわね。」

「うん、失敗だった。出没が帝都付近に集中でラッキーと思ってさ、海流の事にに気付いたのって、艦に乗ってからなんだよね。」

反省しつつ、今後の対応のため、ギルドに報告、厳戒態勢を依頼して艦で樽内に向かった。


 港から王城まで馬を借りて飛ばす。根路のギルドから連絡は入れているが、直接報告して、対策を打たなければならない。木綿子にも連絡してあり、城で待ち合わせている。

 具体的な脅威が解らないので、対策も具体的なモノにはならない。取り敢えず、市街地の出入りを規制して、魔物の襲来に備える、それと合わせて、市街地から出る人たちに注意を呼び掛け、不要不急の往来自粛と、必要な場合は充分な護衛を付ける事を促した。

 

 これと言った被害が無いまま3カ月が過ぎた。都市部では食糧不足が徐々に民衆に不満を募らせ、厳戒態勢の維持が難しい風潮になってきた。規制緩和を検討仕出した頃、

「ちょっと前までは、外と変わらん所で寝て、その辺の草で飢えをしのいでたんだ、四元様を信じて、今しばらく耐えようじゃないか!」

旧スラム街出身と思われる青年の呼び掛けで、あっという間に民衆は結束、厳戒態勢を継続した。

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