尊村再登場
赤兜で武装を整え、海賊達と合流しつつ旧大明に向かった。
旧大明の所有する十数隻の戦艦は、(新)大命のガセネタで港の対艦砲の射程距離対策で、更に射程距離の長い大砲を搭載するよう、ドッグに集まっていた。
藤雄達、和平派はドッグを占拠し、出陣出来るのは、1隻の戦艦と護衛艦が2隻。(新)大明軍を迎え撃つ(と言うより、ひかり達を迎え撃つ)と、宣言していたが、舵を南に切った。歳名に亡命するつもりだろう。
速度を上げて、視界に入る迄差を詰め、スキルを駆使して亡命団を調べると、指揮をとっているのは尊村で、王位を狙っていた王子とその手勢、冒険者風の男達が15、6人程の零細戦力だった。軽量高速の海賊船が一気に間を詰め、スクリューを捉え推進力を奪った。北道で迎撃した時は、加減が解らず沈めてしまったが、今回は海戦に慣れた海賊が味方なので上手く調整が出来ている。
動けなくなった護衛艦は攻撃に転じ、海賊船の半数が沈められたが、全員救出しつつ、護衛艦の射程圏を脱出。本隊?大きめの海賊船とワタシ達の艦が追い付いた。砲撃を予測し結界を張ったが、攻撃は海面からだった。巨大なタコの魔物が海賊船に絡み、小型の船からどんどん沈められた。海に放り出された海賊達の救出を優先、防戦一方で耐えた。全員救出を確認し、リュンヌとエールが元の姿になって空から攻撃した。艦から離れ、大砲や魔力弾が使えるようになり、流れを引き込んで来たが、分散した魔物達は、旧大明の艦にも襲いかかった。尊村に唆されただけって言う人も少なく無い筈、ディアンとネージュも元の姿になり、護衛艦に飛び移って、タコ足を切り刻んだ。
「畜生!またアイツか?」
尊村は、再三再四邪魔をするひかり達に気付いて、更に魔物を呼び出そうとしたたが、
「待たれよ!」
王子が遮った。王子を始め貴族達が、ひかり達の艦に向ってひれ伏し、
「「「「「開祖様!」」」」」
何か宗教的なお祈り(?)を唱え、起き上がると、攻撃を続けようとする尊村を縛り上げてしまった。
艦を並べ、梯子を掛けてひかり達が渡ると最敬礼で出迎えた。黒髪に琥珀色の目、黒い猫、白い犬、赤い鳥と金の龍を従えたひかりは、旧大明の建国神話に出てくる女神様のプロフィールにピッタリらしい。
「神様なんかじゃありませんよ、ただ戦争を回避したいと思って、ちょっと邪魔しちゃいました。」
「貴女がそうおっしゃるのでしたら、私も・・・」
王子の言葉に被って、
「何がちょっとだ!毎回毎回邪魔しやがって!」
ネズミにでも縛られていたロープを齧らせたのだろうか、尊村が飛び出して来た。
「おい、剣を寄こせ!正々堂々、一対一で勝負だ!」
夏果が歩み寄り、自分の剣を抜いて渡すのかと思ったら、
「ウッ、卑怯な!」
右腕を斬り落とされた尊村に、
「あんたには、正々堂々って言葉、使う資格無い!そして、あんたにだけは、卑怯なんて言われたくないわ!」
血飛沫が上がるかと思ったら、切り口を瞬間的にヒールしたらしい。呼び出した魔物は粗方始末され、丸腰の上、片腕を失い、流石に諦めると思ったが、落ちていた自分の右腕を拾って、海に放り込んだ。波がうねり、大量の飛沫と共に現れたのは、半人半魚?手脚の付いたサメの様な魔物だった。
サメの魔物はあっという間に、亡命団を圧倒した。死体か重症者かわからないが海賊たちが全て回収して、魔物は5人で包囲。やや優位に戦っていたが、魔物が距離を取った所で、尊村が魔物に近付いた。
振り返って中指を立てると、後ろからサメの魔物が頭をひと飲み。一瞬蹲るが次に立ち上がった時には、サメ顔の人型になり、残りの身体を海に放り込んだ。
バージョンアップした魔物は拾った剣を使い、更に厄介になっていた。それでもまだ優位なので、魔物の相手はワタシ一人で他は負傷者のヒールと避難に当った。人を喰らって進化するのであれば、更なる進化を阻止するのも狙いだった。
全員の避難が終え、ディアン達に護らせて、妻達が加勢に来た。5対1になり、確実に仕留めようと、冬実が結界で魔物の動きを止めた。剣に魔力を纏わせ斬り掛かろうとした時、飛沫が上がって、サメの魔物が10体程現れた。
最初に出て来たヤツもかなり不恰好がったが、半数がソレ位のデキ?残りは、もっとサメっぽいというか、海中に居たほうが良さそうなヤツだった。
数的には逆転したが、デキの悪い魔物は、戦闘能力も低く、あっさり撃破。結界で拘束した進化版を除いて、1対1でそれぞれ優位に戦っていた。そろそろ決着かと思った瞬間、強力な魔力を感じ、魔物が真っ二つ。振り返ると、進化版が、傷だらけで膝をついていた。
他の魔物と戦っている最中に、魔物ごと斬ってしまうつもりだったと思われるが、防具が反射して自分で喰らったようだ。
「畜生、覚えてろ!」
尊村の声だった。作戦も尊村らしいし、どうやら態と喰われて同化したらしい。
魔物になった尊村は海に逃げるつもりで甲板を走ったが、飛び込む直前でスキル【岩】が間に合い、胸位から下が岩になった。
着水の勢いのまま沈んで行く。視覚系のスキルを総動員して、沈んでいく様子を確認したが、直ぐに見えなくなった。この辺りは、深い海溝なので、深海迄沈んでくれたことを祈って、旧大明の港に向かった。
港では、和平派の皆さんが歓迎してくれた。一緒に戻った王子が、すっかり大人しくなっていたのを不思議そうにしていたが、建国神話の女神の再来とワタシを崇拝する様子を見て、殆どの人が納得していた。気付くと殆どの人が、跪いて何かを祈っていた。
和平派の完全勝利という事で、以降は国の事はお偉いさんに任せ、旧大明を観光することにした。不自由が無いよう、旧大明でも冒険者登録をさせてもらい、南大明を巡る。ギルドの手続きに2日程掛かるので、それまで王宮に宿泊する。落ち着かないが、断わる雰囲気ではなかった。
王宮は、現在の王様とその家族が住んでいて、藤雄さんは南宮と言う、別の城に済んでいるそうだが、ワタシ達と一緒に宿泊するそうだ。
晩餐会では、ワタシを教祖様のように崇める王子が歓待してくれて、政治から身を引き、教会の仕事をすると宣言していた。王様も賛成、藤雄さんや周りの人も大喜びだった。王女様が王様に何か囁き、王様が頷くと、王女は藤雄さんに飛び付いた。しっかり受け止めて抱き合うと、城中が歓喜に溢れた。
「これで面倒が無くなるな。」
王子が呟いてから解説してくれた。王女と藤雄さんが結婚することにより、南・西王家が統一されるそうだ。政略結婚にしては、アツアツの抱擁だと思ったが、お互いに身分を隠して(新)大明に留学していた時に知り合い、その時からの恋仲との事。次の次の王様が、今の王子の子供になるハズだったが、王子が退いて、王女の子供が継承権を得る。そうなれば、交代なんか必要無くなるので、王宮が沸き立つのも納得がいく。ただ王子が教会に行けば、教皇とか法皇とか肩書きが付いて、反乱の火種にならないか不安が過ぎったが、まぁよその国の事なので気にせずに、パーティーがお開きになるのを待ち続けた。