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戦艦ドロボウ

 遅くに起きてきた笠本さんを【鑑定】すると、元々持っていた腰痛が悪化したようだった。夜用のポーションがしっかり効いたいた証拠だろう。辛そうだったのでコッソリヒールを掛けた。


 次の港は『赤兜(せきとう)』で、笠本さんの故郷。旧大明に睨みを効かせている、軍事拠点になっている。

 旧大明が戦艦を投入したのは去年からで、パワーバランスが一気に傾いたそうだ。ただ国境付近には、小島が点在し、複雑な地形で浅瀬や海面に出ていない岩礁等が自然のバリケードになっている。さらには、小島の幾つかが、海賊の根城になっていて、それぞれが独立国家を主張している。大昔は大明の船や港を襲われた事も有ったが、今は友好関係で、海の用心棒兼漁師って感じ。軍艦の矢面に立っている状態だが、地の利を活かし、座礁させたりして、なんとか均衡を保っているそうだ。

 ここの海を熟知した笠本さんのナビで、十分な深さのルートで赤兜に近づいた。小島の間を進んでいると、海賊船に包囲されてしまった。

「私だ、赤兜の笠本だ。この船は北道の所属で国賓である、お主らと敵対する者ではないぞ!」

「噂に名高い、四元殿とお見受けする、お手合わせ願いたい!」

高らかに名乗りを上げたのは、海賊を束ねる、金池(かねいけ)と言う男だった。【瞬間移動】で金池の背後に行って背負った大剣を抜いて、正面にまた【瞬間移動】

「お手合わせって、何がご希望?」

両手持ちが必要な大剣を片手でフェンシングのように構えて見せた。

 金池は、両手を上げて、

「実力は充分解った、それを踏まえて話がある。」

真剣な表情は、断わる選択肢をかき消していた。


 旧大明では、北道遠征の失敗から、大明と和平を結ぶ事を主張する和平派と、更に南方の大国、歳名(さいな)と手を結んで大明を倒すという強行派で舵取りが乱れているそうだ。和平派は、大国に呑み込まれる事を懸念していて、元々同じ民族で同じ言語の(新)大明との関係を重視して、金池さんに仲介を依頼してきたそうだ。

 歳名は急速に軍事力が発展して、周辺の小国を次々に併合している。大陸国家で海洋進出はしていないが、旧大明が海軍のノウハウを伝えてしまったら、大明も北道も危ういだろう。強行派には先を観る目を持って貰いたいが、今それを言ってもムダだろう。

 和平派に協力する事を約束すると、船室から一人の男性が出てきた。他の海賊の皆さんと同じ様な格好をしているが、全く似合っていない。ピンと背筋を伸ばし、整った髪型は、いかにも貴族様って感じだった。

「旧大明の、次の王様だとさ。和平派の大将だ、お偉いさんのやることは、俺らじゃ解らんからあとは勝手にやってくれ。」

いつの間にか僕等の艦に横付けして梯子を渡していた。梯子で戻って、今後の相談を始めた。


「次の王様ってことは、王子様ってことですよね?」

「いえ、今の王は、南大明の王だった方で、私は西大明の皇太子だった者で、藤雄(ふじお)といいます。」

どうやら1代ずつ南西交互に即位するらしい。強行派を止める手立てがないか、尋ねると、

「巨大戦艦を建造中なんです、それが強行派のバックボーンになっています。完成したら歳名に売り込みに行くでしょうから、それを阻止出来れば流れは和平派です。」

 嘘が無いのは【鑑定】で確認済み。大明や北道との調整も必要なので、じっくり打ち合せることにして一緒に赤兜に上陸した。笠本さんの顔パスで、藤雄さんもスルー通過出来た。

 

「寅神風はどうも好かん。」

港から直行来たのはお好み焼き屋さん。

「寅神風ってなに?アレがお好み焼きでココのが赤兜風(・・・)お好み焼きでしょ?」

真弓さんが突っ込んだ。

「何を言っている、コッチがお好み焼きで、アッチが寅神風だろ!だいたい・・・」

笠本さんが言い返していたが、真弓さんは無視して、

「お好み焼きでは無く、他のタベモノとしては、とても美味しいので、是非お召し上がり下さい!」

話を纏めて店に入った。

 真弓さんも認める笠本さん自慢の味は確かに美味しかった。しっかり胃袋を満タンにして艦に帰った。


 さて、巨大戦艦の件。沈めてしまうのが手っ取り早いが、折角なら盗ってしまおうと方針が決まった。藤雄さんの情報では、サイズがデカいのと、その分大きな大砲が沢山載っているだけで、新しい技術って事では無いらしい。猫になって侵入、分体と式神とで乗っ取る計画を立てた。

 一応両国のお墨付きを貰って、漁船を装った藤雄さんのお迎えに同乗して旧大明に入国。お忍びなのでワタシ一人だけ。西大明の漁港に付いて、藤雄さんは貴族らしい格好になり、ワタシは猫になった。豪華な船に乗り換えて、造船所のある南大明に向かった。


 翌日の進水式に、VIPが集合。当然藤雄さんも参加するので、顔パスで戦艦の中にまで入った。式神を一体出して、藤雄さんの肩で身代わり。ワタシは案内係のお兄さんの影に潜って安全に隠れられるところを探した。倉庫が良さそうだったので、ひとまず潜伏。夜、無人になるのを待った。


 倉庫には船員の制服があり、物色してみると、女性用だけだった。靴、ベルト、靴下、下着まで揃った。下着は下は問題無いが、上はサイズが合わずに断念。落ち着かないが、猫のまま行動するよりは便利なので多少の事は我慢しよう。分体も出して制服を着てスタンバイ。


 深夜、係留している鎖を片っ端から切り、魔動機関を始動。取り上げた輸送船と全く同じ操作なのでラクラク動かす事が出来た。警報の類もなくサクっと造船所を後にした。

 最新鋭の巨大戦艦は、技術的には従来通りだが、サイズアップに伴う機関室の拡大で、パワーアップがとんでもないようだ。真っ暗で良く解らないがかなりのスピードがでているようだ。打合せていた海域に予定よりかなりの早く到着した。


 東の海が、暖色系に変わって来ると、いつもの艦が近付いて来た。甲板で手を振る姿が見えた頃、エールが元の姿で飛んで来た。ヒラリと旋回して人間の姿で着地した。

「ひかりちゃん、お洋服あったのね!」

持ってきたポーチから自分の服を出して、渡してくれた。

「あるにはあったんだけど、コレ合わななかったの。」

自分サイズの下着を出して分体にも配った。余計な揺れが収まり、落ち着いたので、ポーチから保存食を出して、オヤツタイム。厨房をチェックしたが、食材は搬入前だったので、空腹との戦いが終了出来てホッとしていた。


 皆んなと合流して、盗んだ戦艦を寅神に届ける。寅神、帝都間で巨大輸送船が往復しているので、巨大戦艦も入港出来るだろう。


 戦艦が消えてしまった旧大明は大パニック。強行派は、和平派の仕業だと、藤雄を糾弾したが、

「アッサリ盗まれるような管理状態で戦争に対応出来ると思いますか?」

堂々と答えると、日和見派が完全に和平派に流れた。

「大体、北道の元領主って言うが、そんな仮面の男を信じる方が可怪しいんだ!」

浮足立った、強行派を一気に切り崩した。

 強行派の中心人物は現在の王の長男で、南・西交互の即位ルールで王様になれない王子だ。どさくさ紛れで即位する作戦と思われる。それをそそのかしたのは、北道から来た仮面の男。元領主で、魔物を使役する力があるそうだ。


 寅神に巨大戦艦を置いて再度、赤兜に向かう、そこで旧大明の情報と、仮面の男の事が耳に入った。

「アイツ、生きてたんだね!」


 黒袴の巫女に焼かれてしまったと思っていた、尊村が生きていたようだ。

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